126 / 158
125
しおりを挟む「ロキ……ロキ……」
「ん……」
「ロキ!」
目を開けると、真っ赤だった。
サラサラの髪だ。無意識になでなでをすると、泣きそうなオルの顔。
「はぁーっ、三日も眠ってたんだぞ!レイも心配してたけど、今は学校に行ってる。体調どうだ?」
「わ……っ、久々の『魂の強化』だ。めちゃくちゃ体軽くなってるよ。最高の気分」
恐らくさっきまで熱で魘されていたのだろう、着せられたアオザイが汗で張り付いてびっちょり濡れていた。けれど身体は強化されて、益々魔力が漲っている。
どうやらブランドン侯爵家の屋敷に寝かされているみたい。聞けば、あの迷宮から帰ってきて、オルが僕とランスさんを運んで飛んでくれたらしい。
『ロキ~~っ!嬉しい!あたし、開花したのよ~っ!』
ぽんっ!とマシロが出てきて、僕は驚きに固まった。
手乗り五歳児だったマシロが……ひとかかえほどの五歳児になっている……!
ふくふくほっぺやまんまるのお腹はそのまま、サイズアップ。それでも人間の五歳児よりは小さいけれどね。イチゴちゃんの妹みたいな見た目になった。
髪にくっついていた花も、蕾ではなく満開に花開いているし、マシロがどう?どう?とひらひら踊るたびに、花びらが物理的に降ってきた。えっ、散らかる。
『これで、在界に来る前くらいにあたしの力が戻ったの~っ!この花びらは、他の精霊たちがあたしとロキに捧げてくれる愛だからね!大切にしておいてねっ!』
なで、なで。大きくなったマシロの頭を撫でながら、考える。
ええと……つまりは、これからは時々花びらを貰うことになるってことかな。僕が女の子だったら良かったのかもしれないけど、男に花びらって……。
『大丈夫!ロキは女の子より可愛いし美人だから!』
「それ慰めているのかな……?」
「そう言えば、ロキの花の匂いがより香るようになった気がする。本当にずっと嗅いでられる!」
「マシロ……?何かしたね?」
『いいでしょっ!』
花の精霊の加護って……男にはなかなかシビアなような気がして、遠い目になった。
ロキの精霊王がうらやま……いや、何でもない。マシロが大好きだからね!
「そうだ、ギルドからの伝言。ランスとロキはあのAランク迷宮を踏破したから、星ひとつもらえるんだって!星ってなんだ?」
「あー、冒険者のタグにね、星が貰えるんだ。多い程良いんだって」
「オレ知ってるぞ、集めると良いモンもらえるやつか!」
「合っているような違うような……」
まあいっか。抱きついてくるオルとハグをし合って、無事を確かめた。オルの肌にはかすり傷は細かくついていたけど、もう瘡蓋になっている。大きな怪我もほとんどなかったみたい。
「ハーフヴァンパイアも結構強かったな!なかなか攻撃当たらないし、こっちも狡賢くなんなきゃだめだった」
「狡賢く?オルが?」
「うん。剣に付与するタイミングを変えれば、刀身の長さが急に変わるからさ。それで奴らも間合い取れなくてサクサクだったぜ」
「おお……オルが考えてる……」
僕が感嘆していると、騒ぎを聞きつけたランスさんやシガールさんも入ってきた。
「はぁ、良かった……!ただの魂の強化で」
「ただのって……」
「いや、ロキの母親とか、色々精神的に負担だったでしょう?それの反動なら心配だなって」
「ロキ様の、お母上を保護したと聞いております。……従魔として。流石に驚きました」
シガールさんもまた、心配そうに僕の顔色を伺っているようだった。
そういえば、そうだなぁ、新しいメンバーにもなるし、紹介しなくちゃ。
「ヴァネッサさん、ヴァンクリフト、出てきてください」
おっ……?
シュッと出てきたヴァネッサさんは、ゆったりとしたアオザイを。ヴァンクリフトはかっちりしたスーツを着用していた。中々格好良く決まっている。
「妾が渡したの。ヴァネッサは戦いたくないって言うし、ヴァンクリフトはキツめの服がいいって。我儘よねぇ」
妖艶美女のサンが言う。この三人が並ぶとなんだか美形基準が狂いそうになるなぁ。
「私は……ロクスウェルと、そう呼んでも良い……?」
「もちろん。その……あなたが付けてくれた名前だから」
「ロクスウェル……本当に、本当にありがとう。でも……この人も、従魔にしちゃったの……?」
ヴァネッサさんが、困ったようにヴァンクリフトを睨みつけている。あー、そうだよね。逃げたがっていたものね。でも、もう僕の従魔になったので好きなようにはさせない。
「大丈夫ですよ。ね?ヴァンクリフト、ヴァネッサさんを口説いたりだとか……」
「ああ、そうだな……やはり容姿は最高に美しいと思う。だが、ここに、容姿が美しい上に我を屈服させる程の男がいるだろう……?」
「!?」
ヴァンクリフトは僕の頬をそうっと撫でた。近いし、その赤い瞳の輝きが不穏なのですけど……?
「我はもう主のものだ。好きなようにしてくれていい。主なら……」
「……いかがわしい雰囲気で言わないで下さい。それより、ヴァネッサさんに謝ってくださいね。辛い思いをさせたのですから」
「そのことだけど……私、こうして貴方のそばにいられるようになったから、別にいいのよ。ロクスウェル。あの時死んで土に還っていたら、貴方とこうしてお話することも出来なかったもの」
「ヴァネッサさん……」
本人がそういうのなら、僕から言うことではない、か。僕もヴァネッサさんのおかげで一皮剥けたようだし、ヴァンクリフトのおかげでもあるのかな。そう思って彼の方を見ると、
「ふっ、そういうことだ。主、感謝してくれて良いぞ」
と宣っており、ジト目になってしまった。
クイッと襟元を寛げるヴァンクリフトは、サンと同じくお色気属性のようだった。30代前半くらいの、成熟した男の色気に当てられて、僕の従魔だというのに負けそうだ……。
ヴァネッサさんはそんな風に豹変したヴァンクリフトを見て、安心したようにホッと息を吐いていた。ええと、それならよかった、次の標的が僕だということを除けばね。
ヴァネッサさんは戦闘はした事がなかった。ハーフヴァンパイアに相応しい身体能力はあるけれど、気性としては大人しく、舞を踊ったり、絵を描いたり音楽を奏でるのが好きみたい。それから僕を産んだ名残なのか、子供服を縫うのがとても好きなんだとか。
僕の部屋にはヴァネッサさん用の寝椅子を置いて、イチゴちゃん用や、お店に置く商品として子供服を縫ってもらうことにした。
ちくちくと針を通すヴァネッサさんは、とても、とても穏やかな顔をしていた。
107
お気に入りに追加
717
あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!
つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。
他サイトにも公開中。

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる