124 / 158
123
しおりを挟む「私の息子が、こんなに立派になっていて、本当に嬉しい。お友だちにも、恵まれて、こんなに幸せそうで……私、本当に胸がいっぱいよ……」
「あの……ヴァネッサさん。ここから、出たいですか?」
僕がそう問いかけると、ヴァネッサさんはきょとんとした。本当にもう、『悔いはない』みたいな穏やかな顔をしている。
「僕と従魔契約をすれば、ここから出られると思うのですが……」
「!?そんな。息子のお世話もほとんど出来なかったのに、世話になることは出来ない……」
「ロキの母ちゃんなんだろ?従魔になったらロキを世話してやれよ!まぁ、ロキはほとんど自立してっけど!」
オルの言葉に、ヴァネッサさんがぐっと心を惹かれているのが分かった。強く手を握りしめて、顔を歪ませている。
「でも、やっぱりだめ。私があなたの従魔になったら、主の眷属契約が解消になる。絶対に気付かれて、あなたを殺しにくる」
「ヴァネッサさんの主とは、ヴァンパイアですか?」
「いいえ。ヴァンパイアロード。一層から五層までを支配する、とてもとても強いお方なの……そこの三人で相手が出来るとは思えない。こんなことを言ってごめんなさい……」
僕は、ヴァネッサさんの話を聞いて、助けたいと思った。
だってこの人は、何も悪いことはしていない。美しかっただけで、翻弄されてきた。それは僕もそうだったし、これからも多分そうだけど、僕には対抗手段がある。
まだ母親だとは認識できないけれど、ここで見捨てるということも到底出来なさそうだった。なにより、ここで従魔にしない場合、ヴァネッサさんは誰かに殺されるか、殺すか、永遠に閉じ込められるか、だから。
「オルの勘って、すごいね。ここまで分かったなんて」
「ん?分かんなかったけど?ただ、オレはよく『当たる』だけ!」
「ありがとう、オル。僕は、ヴァネッサさんを従魔にしたい。そうしたら多分ヴァンパイアロードが来ると思うのだけど……一緒に、戦ってくれる?」
「「もちろん」だ!」
ランスさんも、オルも。覚悟を決めてくれていた。
「じゃあ、ヴァネッサさん。……従属して」
「……っ!……ありがとう、ありがとう……!」
パァァッとヴァネッサさんが光って、僕と繋がり、絆が結ばれる。
従魔の印は、ヴァネッサさんの両手首に、紫の刺青のように浮かび上がった。
その、次の呼吸をした瞬間。
「……来る!」
結界を展開すると同時に、小部屋が破壊された。
天井が落ち、壁も跡形無く、粉塵を巻き上げて崩れていく。
結界はまだ無事だった。段々と視界が開けると、先ほどまでいた迷宮とは全く違う、暗い宮殿のような所に変貌していた。
「ヴァネッサ。わたしの、ヴァネッサを。……お前が!」
そこには、宵闇の長い髪を垂らした壮絶な美貌の、ヴァンパイアロードが浮かんでいた。激怒のあまり、額に青筋を立てて。
周りを囲まれていた。全員、彼の眷属のハーフヴァンパイアなのだろう。10人以上、それもおそらく皆手練れの。頭上には無数の蝙蝠が蠢き、こちらを威嚇している。
「ランスさん、オルはハーフヴァンパイアを。ギン、ケルン、ミズタマは補助してあげて、サンは蝙蝠!ネロは遊撃。ヴァネッサさんは、ごめんなさい、ちょっと引っ込んでいて!」
僕はヴァネッサさんは戦闘要員から外し、亜空間部屋へと避難させる。
ヴァンパイアロードは、真っ直ぐに僕へと向かってくる。僕がヴァネッサさんを従属させたのを、魔力の質で嗅ぎ分けたよう。
「どこに!彼女をどこにやった!今すぐに返せ……!ようやく、後少しで我のものになるところだったのに……!」
「無理強いをしているのに?僕には、全くその気持ちが分かりません」
ガキンッ!
ヴァンパイアロードの長剣と、僕の竜骨の双剣が一点で重なる。こちらは両手を使っているのに、長身痩躯から放たれる一撃は重い。
まともに打ち合っては不利だ。重点をずらして受け流しながら、手数を増やして押していく。
「お前、ヴァネッサに似ているな……!?血縁者か!?」
「息子です。よくも、母を殺しましたね」
「ハッ……、あの虚弱な人間の肉体はほぼ死にかけていたんだ、むしろ魔物になることでよほど強靭になった。褒めてもらいたいな、息子よ」
「僕はあなたの息子ではありません!」
キンッとヴァンパイアロードの首元を切り裂いた!
ヌルッとズレた首をーーとんとん、と片手で位置を直している。やはり、死なないか……!
「ヴァネッサの息子にしては、異様な強さだ。悪くない」
「くっ……」
にやりと笑うそいつの、身体能力も反応速度も、僕より上。
こちらだって魔力で強化しているのに、剣を打ち合うだけでかすりもしない!
「……っ!」
薙ぎ払われて、左手の剣が飛んでいってしまった。一瞬の隙。
無手に気を取られた僕の眼前には、ヴァンパイアロードの不敵な笑みがあった。
キン!
頬を長剣がかする。ピリッとした痛みと共に、床に引き倒され、足で踏みつけられた。
「……我はな、美しいものが好きなんだ」
「……な、に……?」
「お前ほどの美貌を殺すのは惜しい。……我が眷属に加えてやろう」
「!や、めっ、」
「あともう少し成長してからの方が好みではあるが……やむを得ん」
チラリと赤い舌を出して唇を舐めたヴァンパイアロード。口の端から、犬歯が鋭く伸びていく。
「ロキ!」
視界いっぱいに奴の顔が迫って――
86
お気に入りに追加
717
あなたにおすすめの小説

運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!
ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。
自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。
しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。
「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」
「は?」
母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。
「もう縁を切ろう」
「マリー」
家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。
義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。
対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。
「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」
都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。
「お兄様にお任せします」
実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる