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しおりを挟む野外訓練の終わった次の休日は、陛下へ謁見する機会が待っていた。
ブランドン侯爵家当主のロイド様や、レイ様、それからケイレニアス殿下やキャロライン様まで見守る中、僕の魔導人形一号、イチゴちゃんのお披露目だ。
謁見の内容は技術説明会に近いだろうか。
場所は玉座のある広間ではなく、陛下の応接室へと通された。
一通り形式ばった挨拶をして、顔を上げると、陛下は僕を見つめて『ほぉ……』と感嘆のような声を漏らしていた。
「これが……魔導人形と。人の子にしか見えぬ……」
「陛下、こちらはロキです。人の子です」
陛下の声に、ケイレニアス殿下が呆れたように横槍を入れた。僕は戸惑ってしまって固まる中、ロイド様が轟くような笑い声を上げる。
「ははははっ!陛下のご冗談はいつも面白い!確かにロキは人形のようですし、凄まじい力を持ちますが、人間ですよ、一応」
「ほっほっ!そうか!余はてっきり、舞姫に似せて作ったのかと思ったぞ。して、ロキ殿。そちらが魔導人形か?」
「はい、イチゴと名付けています」
「いやはや。やはり人の子のように見えるぞ。むしろロキ殿の方が人形じみた綺麗な顔をしておる」
「……恐れ入ります」
ここは笑うところなのか分からず、とりあえず頷いておいた。尊き人のご冗談、難しい……。
それでも陛下は満足そうに頷いて、イチゴちゃんをじっと観察することにしたらしい。
みんなに見つめられているイチゴちゃんは、カクンと小首を傾げた。
「マスター!イチゴのお仕事ハ?」
ぷくぷくの手を挙手するイチゴちゃんに、僕は普通に話しかける。どれだけ意思疎通が出来るのか、披露するために。
「イチゴは苺、好き?」
「好きヨ、でも、マスターの魔力が一番好きなノ」
「ありがとう。お店の会計係は、出来そう?」
「うん、でも、ずっと会計はしたくないヨ。計算チェックはしてあげるケド」
「そうかぁ、じゃあ、接客は?」
「うん、そっちのがいいネ!綺麗なお姉さん、好きヨ」
ちなみにイチゴちゃんは食べ物は食べられない。好きだと言っているのは香りや見た目の話だ。
僕と普通に会話をするイチゴちゃんに、陛下は興味津々のようだ。
「可愛すぎないか?!この丸いマシュマロほっぺ、ぽんぽこのお腹に大きな瞳……!天使か!」
「本当に!この衣装もオリジナルですの?はぁ、女の子を産んだら絶対に着せたいわ……」
陛下とキャロライン様がめちゃくちゃに食い付いて下さった。イチゴちゃんに実際触れてみたいと言うので許可を出すと、恐る恐る、まるで孫を見つめる祖父のような優しい眼差しで撫で撫でをしていた。
抱っこするのは阻止した。イチゴちゃんが重過ぎて、多分腰を痛めてしまうから。オルくらいかなぁ、抱っこ出来るのは。
それからキャロライン様の発言に、隣にいたケイレニアス殿下が咽せていた。その気持ちは何となく分かります。赤い耳をした殿下を見て、なんだか微笑ましい気分になった。
こうして紹介をしておくのは、この魔導人形を作るに当たってなんら後ろ暗いことなんてしてないですよ、というアピールにもなるし、誰かがこの魔導人形を排除しようとした時には『陛下に許可されている』という印籠にもなるから。
それだけ、魔導人形というものは画期的で、注目を集めやすいものだということ。
国王陛下はケイレニアス殿下をもっと歳をとらせてギラギラ感をなくしたような、穏やかな方だった。僕の話は殿下を通じて色々聞いているらしく、この魔導人形の完成を口実に爵位をくれようとしたみたい。もちろん、必死に断らせて頂いた。
そんなことになったら僕、確実にまた引き篭る。
貴族なんていう社交を好む生き物にはなれない。僕の根っこはガリ勉の陰キャで出来ている。モグラみたいに、たまに地上に顔を出して、お友だちとお茶をしたり、狩りを楽しんだら、また一人になる、多分僕は、その繰り返しで生きていきたい。
謁見が終わると、殿下の応接室へと移動した。
一度来たことがあるだけで、安心感が違う。陛下とロイド様もいないし、殿下とキャロライン様とレイ様だけなので、ほっと緊張が解ける。
案の定キャロライン様に魔導人形をおねだりされそうになったが、素材が高価な上まだまだ改善の余地もあり、それだけ注ぎ込むより人を雇った方がよいということと、彼女の従魔にしたアクアスライムの話にスライドさせることで回避した。
「可愛くってとっても気に入っているわ。お水も飲み始めて美肌に磨きがかかったし、満足してるの。ただ、時々物足りなさそうにするのがねぇ……」
「ああ……そうなのですね」
「先日の野外訓練の時は、この子とっても興奮してたのよ。でも、普段わたくしはほとんど外出しないから……つまらない思いをさせてしまっているみたい、と、最近気づいたの」
キャロライン様は、手のひらにアクアスライムを乗せてぷよぷよと転がした。慈愛に満ちた表情に、ケイレニアス殿下も優しい顔をされている。
「これからはもっと散歩をして、この子も気晴らしになるようにしようと思うの。ロキも、それでいいと思う?」
「ええ、良き心掛けだと思います。私も従魔についてはほとんど独学で恐縮ですが」
「でも、ロキの従魔はイキイキしているように見えるわ」
「そうでしょうか。……サン、生き生きしてるの?」
サンを呼び出す。しどけないアオザイ姿で出てきたサンは、キャロライン様を見て、クスリと笑いながら長椅子へと座り、足を組んだ。
「マスター♡この小娘、マスターに気に入られたくて必死みたいよ、可愛いじゃない」
「ちょっ……サン、もう!すみません、キャロライン様……」
「いいの、ある意味その通りだから。ああ、ケイ様、そういう意味じゃなくって……」
ケイレニアス殿下はサンの言葉に苦笑して、『大丈夫だ』という風に首を振る。
「私もそうだよ。ロキ程の人物、味方につけたいと思うのは自然な欲望だ」
「…………それもどうかと思いますが…………」
「マスターは渡さなくってよ!妾、本当にマスターのものになって良かったですわぁ♡」
「もう、サン……ややこしくするんだから……。殿下もキャロライン様も私を買い被りすぎです。とにかく、サン、君が幸せなら何よりだよ、いつもありがとう」
「ああんっ♡好きですぅマスター♡」
サンはくねくねして僕にぎゅうと抱き付くと、また亜空間小屋へと帰っていった。キャロライン様は僕たちを見て触発されたのか、『わたくしも負けませんわ!』と、従魔と親睦を深めることにしたみたいだった。
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