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しおりを挟むぷちギンは、マリーやクルトル伯爵家、執事見習いの怪しい青年にも一応つけている。
マリーは執事見習いの青年に返済を迫られていた。
やっぱり、たったの数日で借金の利子が膨れ上がって金貨15枚にもなっているみたい。違法な取り立てだけど、平民が貴族を訴える術は無い。途中で消されてしまうから。
そこであの青年は、マリーの借金を返済するため、クルトル伯爵家の使用人になることを提案し、マリーは嬉々として受け入れた。
そして始まる、使用人としての教育の突貫工事。伯爵家で働く使用人には男爵や子爵のお嬢さんもいて、貴族の屋敷で働くにしても上品でなくてはならない。
衣食住はきっちり提供される代わり、給金は殆どゼロに近く、借金の返済に当てられている。かつての僕よりはよっぽど良い環境だよね。殴られもしないし。
お小遣いも与えられなくて、平民のマリーがいくらイライラしたとしても、周りに当たり散らしてはいけないことは、理解しているみたい。
時折伯爵家屋敷の周辺で、ずたずたに切り裂かれた弱い魔物が発見されるようになったらしい。……人間に矛先が向かわなくて本当に良かった。
マリーの容姿は、平民の中ではチヤホヤされるみたいだ。だけど、当然ながら、貴族のご令嬢たちとは比べるまでも無い。
クルトル伯爵が何故マリーに目をつけたのか、何を考えているのかは、僕にはサッパリ分からなかった。ただ、マリーがフォルナルクから出て行ってくれたことには感謝した。
フライワームの外皮やサンドワームの大きな魔石、アダマンタイトスネークの硬い白い歯……など、かなり良い素材が手に入ったので、僕は一週間ほど引き篭もって、全力で魔導人形を作成した。
「できた……!」
ぷはあっと息を吐いて見上げる。見た目は愛くるしい5歳の、ぽっこりお腹の女の子。そのお腹は大きな魔石が入っている。モデルはマシロだ。手乗り五歳児をそのまま普通の人間サイズに大きくした。
『よかったネ!』
そうニコッと笑ってくれる、魔導人形一号は、一号なのでイチゴちゃんと名付けた。苺をモチーフにしたワンピースを着せている。決して幼女趣味ではないよ。
この子はこう見えて戦闘力が高いので、お店の警備にと考えている。化粧品とか売っている店にも違和感なく溶け込めるし、売り子にもなれるし、計算能力も高いので会計にもなれる。
目にはいつぞや手に入れたストーンスネイクの瞳を嵌めて、石化攻撃をオンオフ切り替え出来るようにしてみた。犯人が逃走しようとしたら足止めできるようにね。
魔石が大きいので頻繁に充電……魔力の補充をしなくてもいい。もし切れそうになったら僕の元にやってきてくれるように設定している。
一度完成まで出来たコツは、全力で外形を作ること、だった。マシロも協力してくれたこともあって、見た目は人形と分からないくらいに人間っぽい。マシロと違って羽は生やしてないしね。
絵心というか、芸術的才能は人並みなので、横にマシロを置いて見ながら作れたのは非常に助けになった。
「レイ様!見てください、出来ました……!」
「……流石は、ロキ。その子は、もしかしてロキのタイプなのか……?」
「はっ!?いいえ、まさか!?」
お披露目した途端、レイ様にとんでもないことを言われたので慌てて否定する。
ちょこんと頭を下げていたイチゴちゃんは、赤い瞳をぱちぱちと瞬かせる。
『イチゴは、マスターのタイプ?』
「違うから!レイ様も変なこと教えないで下さい……!」
「ああ、冗談だ。しかし愛らしい魔導人形だ。キャロライン嬢が欲しがりそうな……」
『イチゴ、愛らしいネ!』
にこにこと笑うイチゴちゃん。可愛くて癒される。可愛くて強いなんて、最強だ。
「……確かに。でも、この子は中々手に入りにくい素材を多数使っているので、簡単には作れないんです。拙いことになりますか?」
「……父上と相談する。外に連れ出すのは少し待っててくれるか?」
「畏まりました」
残っている素材を考えれば、あと一体か、二体は作れるかなぁ。またフライワームを倒しに行くのは少し骨が折れる。代替の素材が見つかれば良いのだけれど。
その後ロイド様から『売るつもりが無いのなら報告と紹介だけで良いだろう』と言って頂けたので、僕はホッと息を吐いたのだった。
長期休暇はあっという間に終わってしまった。
もっと迷宮に入っていたかった僕に、レイ様は『これから入れるじゃないか』という。
それは、レイ様やケイレニアス殿下たちが準備していた野外訓練の事だろう。
複数人で組を作り、Eランクの『初心者の迷宮』に潜って戦闘訓練をする。僕たち護衛は、万が一にも護衛対象を死なせないために張り付くのだけど……。
目的はレイ様たちの訓練だから、僕たち護衛は基本的に手を出しちゃいけないんだ。そんなの、面白く無さすぎて寝てしまいそう。
「家から護衛を捻出出来ない家も多いんだ、男爵や子爵家は特にな。だから、高位貴族など余裕のある家から護衛を募って集めるんだ」
「僕はレイ様についているということで良いんですよね?」
「ああ。だが、もしかしたら従魔は他の組につくようお願いするかもしれない」
「そうですか……」
さすがレイ様、僕の従魔も有効活用するつもりだ!
確かに一人一人強いし経験も積んできたから、初心者の迷宮程度なら僕から離れていても、全く問題はない。
「しかし、生徒たちの方が従魔を侮ったり、手を出したりしたら怒らせる可能性もあります。その点が心配です……」
「ああ……そうだな。そこは考えて割り振りする。人間の護衛もきちんと付けているから、万が一のための保険、という意味合いが大きい」
「それでしたら、なんとか……」
僕の従魔は、強い順から言うとギン、サンとネロ、ケルン、ミズタマ。元々はアクアスライムのミズタマでもそれなりに強いのは、徐々に僕の魔力を吸収して強化しているから。
ただしジジとピピは卵専門なので、今回も除外させてもらう。
ギンとサン、ネロは、割と気位が高い。ただの従魔だろとバカにされたりしたら容赦なく威嚇すると思う。ケルンとミズタマはまだ幼い感じだが、段々と成長してきたので、僕以外に命令されたらプイッとその場を放棄して帰ってきそう。
……考えれば考えるほど、従魔単体での護衛は向かない……。
「レイモン!ロキも久しぶりだな」
「ダニエル」
「お久しぶりです、ダニエル様。エリオット様も」
寮で荷解きをしていると、早速ダニエル様がバーンとやってきた。元気が有り余ってらっしゃる。
護衛のエリオット様も、僕を見つけてニコッと笑いかけて下さった。
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