上 下
114 / 158

113

しおりを挟む

ぷちギンは、マリーやクルトル伯爵家、執事見習いの怪しい青年にも一応つけている。

マリーは執事見習いの青年に返済を迫られていた。

やっぱり、たったの数日で借金の利子が膨れ上がって金貨15枚にもなっているみたい。違法な取り立てだけど、平民が貴族を訴えるすべは無い。途中で消されてしまうから。

そこであの青年は、マリーの借金を返済するため、クルトル伯爵家の使用人になることを提案し、マリーは嬉々として受け入れた。

そして始まる、使用人としての教育の突貫工事。伯爵家で働く使用人には男爵や子爵のお嬢さんもいて、貴族の屋敷で働くにしても上品でなくてはならない。
衣食住はきっちり提供される代わり、給金は殆どゼロに近く、借金の返済に当てられている。かつての僕よりはよっぽど良い環境だよね。殴られもしないし。
お小遣いも与えられなくて、平民のマリーがいくらイライラしたとしても、周りに当たり散らしてはいけないことは、理解しているみたい。

時折伯爵家屋敷の周辺で、ずたずたに切り裂かれた弱い魔物が発見されるようになったらしい。……人間に矛先が向かわなくて本当に良かった。

マリーの容姿は、平民の中ではチヤホヤされるみたいだ。だけど、当然ながら、貴族のご令嬢たちとは比べるまでも無い。
クルトル伯爵が何故マリーに目をつけたのか、何を考えているのかは、僕にはサッパリ分からなかった。ただ、マリーがフォルナルクから出て行ってくれたことには感謝した。









フライワームの外皮やサンドワームの大きな魔石、アダマンタイトスネークの硬い白い歯……など、かなり良い素材が手に入ったので、僕は一週間ほど引き篭もって、全力で魔導人形を作成した。


「できた……!」


ぷはあっと息を吐いて見上げる。見た目は愛くるしい5歳の、ぽっこりお腹の女の子。そのお腹は大きな魔石が入っている。モデルはマシロだ。手乗り五歳児をそのまま普通の人間サイズに大きくした。


『よかったネ!』


そうニコッと笑ってくれる、魔導人形一号は、一号なのでイチゴちゃんと名付けた。苺をモチーフにしたワンピースを着せている。決して幼女趣味ではないよ。

この子はこう見えて戦闘力が高いので、お店の警備にと考えている。化粧品とか売っている店にも違和感なく溶け込めるし、売り子にもなれるし、計算能力も高いので会計にもなれる。

目にはいつぞや手に入れたストーンスネイクの瞳を嵌めて、石化攻撃をオンオフ切り替え出来るようにしてみた。犯人が逃走しようとしたら足止めできるようにね。

魔石が大きいので頻繁に充電……魔力の補充をしなくてもいい。もし切れそうになったら僕の元にやってきてくれるように設定している。

一度完成まで出来たコツは、全力で外形を作ること、だった。マシロも協力してくれたこともあって、見た目は人形と分からないくらいに人間っぽい。マシロと違って羽は生やしてないしね。
絵心というか、芸術的才能は人並みなので、横にマシロを置いて見ながら作れたのは非常に助けになった。


「レイ様!見てください、出来ました……!」

「……流石は、ロキ。その子は、もしかしてロキのタイプなのか……?」

「はっ!?いいえ、まさか!?」


お披露目した途端、レイ様にとんでもないことを言われたので慌てて否定する。
ちょこんと頭を下げていたイチゴちゃんは、赤い瞳をぱちぱちと瞬かせる。


『イチゴは、マスターのタイプ?』

「違うから!レイ様も変なこと教えないで下さい……!」

「ああ、冗談だ。しかし愛らしい魔導人形だ。キャロライン嬢が欲しがりそうな……」

『イチゴ、愛らしいネ!』


にこにこと笑うイチゴちゃん。可愛くて癒される。可愛くて強いなんて、最強だ。


「……確かに。でも、この子は中々手に入りにくい素材を多数使っているので、簡単には作れないんです。拙いことになりますか?」

「……父上と相談する。外に連れ出すのは少し待っててくれるか?」

「畏まりました」


残っている素材を考えれば、あと一体か、二体は作れるかなぁ。またフライワームを倒しに行くのは少し骨が折れる。代替の素材が見つかれば良いのだけれど。

その後ロイド様から『売るつもりが無いのなら報告と紹介だけで良いだろう』と言って頂けたので、僕はホッと息を吐いたのだった。










長期休暇はあっという間に終わってしまった。
もっと迷宮に入っていたかった僕に、レイ様は『これから入れるじゃないか』という。

それは、レイ様やケイレニアス殿下たちが準備していた野外訓練の事だろう。

複数人で組を作り、Eランクの『初心者の迷宮』に潜って戦闘訓練をする。僕たち護衛は、万が一にも護衛対象を死なせないために張り付くのだけど……。
目的はレイ様たちの訓練だから、僕たち護衛は基本的に手を出しちゃいけないんだ。そんなの、面白く無さすぎて寝てしまいそう。


「家から護衛を捻出出来ない家も多いんだ、男爵や子爵家は特にな。だから、高位貴族など余裕のある家から護衛を募って集めるんだ」

「僕はレイ様についているということで良いんですよね?」

「ああ。だが、もしかしたら従魔は他の組につくようお願いするかもしれない」

「そうですか……」


さすがレイ様、僕の従魔も有効活用するつもりだ!

確かに一人一人強いし経験も積んできたから、初心者の迷宮程度なら僕から離れていても、全く問題はない。


「しかし、生徒たちの方が従魔を侮ったり、手を出したりしたら怒らせる可能性もあります。その点が心配です……」

「ああ……そうだな。そこは考えて割り振りする。人間の護衛もきちんと付けているから、万が一のための保険、という意味合いが大きい」

「それでしたら、なんとか……」


僕の従魔は、強い順から言うとギン、サンとネロ、ケルン、ミズタマ。元々はアクアスライムのミズタマでもそれなりに強いのは、徐々に僕の魔力を吸収して強化しているから。
ただしジジとピピは卵専門なので、今回も除外させてもらう。

ギンとサン、ネロは、割と気位が高い。ただの従魔だろとバカにされたりしたら容赦なく威嚇すると思う。ケルンとミズタマはまだ幼い感じだが、段々と成長してきたので、僕以外に命令されたらプイッとその場を放棄して帰ってきそう。

……考えれば考えるほど、従魔単体での護衛は向かない……。


「レイモン!ロキも久しぶりだな」

「ダニエル」

「お久しぶりです、ダニエル様。エリオット様も」


寮で荷解きをしていると、早速ダニエル様がバーンとやってきた。元気が有り余ってらっしゃる。
護衛のエリオット様も、僕を見つけてニコッと笑いかけて下さった。


しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

処理中です...