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107 マリーside
しおりを挟むあのロキってAランカーを捕まえたくて、商会の社員寮の前で出待ちをしていたんだけれど、……ぜんぜん、見つからない。かすりもしない。
そこにはあたしの他にも、恐らく雇って欲しい人たちが集まっていた。ふうん?あたしは働きたくないけど、確かに、従業員から始めるのは悪くない手だと思った。
冒険者より安全で、安定した稼ぎ。ふーん、いいじゃん。
早速経歴書を書いて門番へと渡したのだけど――何故か、あたしのだけは受け取ってくれない。
他の人は、一度だけなら受け取って貰えて面接を受けられるのに。門番はチラリとあたしの顔を見て、目を細め、『あなたは応募資格がありません』と言う。だから、何で?
「それって差別じゃない?あたしが冒険者だから?女だから?若いから?ねぇ、この商会は差別するの?」
「あなたは会長に直接接触し、しつこく言い寄りました。そんな方を雇うことは未来永劫ありません、とのことです」
「はっ……!?ロキさんが!?やだぁ、あたしのこと覚えててくれたんだ……っ」
周囲の人が『アンタ迷惑だってよ』なんて声をかけてきたけど、違う。ロキさんがあたしを働かせたくないってことは、雇用の関係になりたくないってこと。だって、恋人になったら他の人に気まずい思いさせちゃうもんね?
そうに違いない!ふふっ!
なら、やっぱり冒険者として、女として会った方がいい。
それから数日粘ったけれど、一向に会えない。一応毎日可愛い服でお洒落しているのに無駄になって、苛々しちゃう。……このままじゃ、あたしの路銀も底をつく。パーティーメンバーに言ってまたお金貰わなくっちゃ。
誰に強請ろうかな、と思案しているあたしに、男が声をかけてきた。
「お嬢さんは、ロキさんを知っているの?」
「えっ……と、誰?」
この辺じゃ見かけない、パリッとしたジャケットを着こなしている青年だった。いい所の使用人かな?
「ボクの主もロキさんに会いたがっているのに、なかなか接触出来なくて。あ、ボクは執事見習いをしている身で……」
「そうなの!あたしはね、ロキさんとお話ししたの。ある日ばったり……声をかけられてね」
実際に声をかけたのはあたしだったけど、ほんの少しの嘘で青年の目の色がガラリと変わる。ふふ、気になる?気になるでしょお?
優越感、気持ちいい~~っ!
「それはすごい!どんなお話しを?」
「Aランクになったから、一緒に依頼をこなして色々教えてあげるって。ああ、あたしはCランクのパーティーにいるんだけどね」
「へぇ。でも、約束した訳じゃないということ?こうやって出待ちをしているってことは……」
青年にチラリと流し目をされる。ギク。やっぱりすぐに分かるかぁ。でもでも、あたしはこういう嘘は得意なの。
青年の分かっていることと、あたしの望みを上手に織り交ぜて、っと……。
「その時はあたし、断ったのよ。だってあんまり知らない人なんて、怖いじゃない?でも、後から有名人だって聞いてそれなら信頼できると思ったから、やっぱりお願いしようと思ってここに来たの。でも、だめね。全然会えないの」
「そうだったんだ。可哀想だね、それなら……指名依頼をしたらどう?あ、お金なら貸すよ。ロキさんに教わったら魔物も狩りやすくなって、稼げるようになるんじゃないかな」
「ええ……っと?」
戸惑うあたしに、執事見習いの青年は言う。貴族に仕えるだけあって頭が良いみたいで、ぽんぽんと話が進む。
「ロキさんは貴族からの指名依頼は全部受け付けてないんだけど、君なら大丈夫。だって、平民の、しかも後輩冒険者にあたる可愛い女の子。ロキさんを指名するだけのお金を頑張って捻出したのに、断ることは出来ないよ」
「そ……そうかな?」
「うん。商会長だもの、イメージを崩すようなことはしないさ。でも、お金を借りたことは誰にも言っちゃだめだよ。君が頑張って貯めたことにしなきゃ、健気さをアピールできない」
「ふうん……たしかに、そうね」
青年に肩を抱かれて、早速ギルドへと向かった。ケチなことにお金は『借りる』ことになるけど、ロキさんと恋人関係になればきっと出してくれる。万が一だめでも、青年が言うように魔物を狩りやすくなるだろうしね。
門番が怪訝そうにこちらを見ていたけど、もういいわ!
あたしは、地面に不自然なぷるぷるしたものがあったなんて、全く気が付かないまま、ロキさんに指名依頼を出したのだった。
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