泥ねずみと呼ばれた少年は、いっそ要塞に住みたい

103 マリーside

１５歳になった頃、両親が他所へと移住したと聞いた。ショック、というより、怒りが先に込み上げた。

あたしが捨てるんじゃなくて、親があたしを捨てるのは違うでしょ？おかしいよね？あたし、可哀想よね？

パーティーメンバーは同情してくれて、あたしたちもフォルナルクとかいう町へと移ってみた。意外と栄えているし、両親は貧民に落ちていてザマァって思えたし、ここを活動拠点にすることにした。

パーティーとしてコツコツ堅実に活動した結果、１年ちょっとでＣランクにもなれた。でも、冒険者の生活はやっぱり不安定なのが不満だった。

だって、依頼をこなす度に武器のメンテナンス、食料品のチェック、大量の荷物を抱えて移動して……って、稼いでも稼いでも消耗品に消えていく。

野営なんかしたらあたしの取り合いで大変だし、まぁ、相手してあげたら翌日は働かなくて済むからいいけど、水浴びも出来ないのも辛い。男たちの汗の匂いも耐えられない。

そんな毎日行き当たりばったりの生活より、宿屋で軽やかに給仕していた時の方が、断然楽だった。

栄えているだけあって、男の人はそこそこいた。鞭の種類を変えてみれば、あたしを欲する男の人も多くて。

だから、あの人も、あたしの虜になると思った。


少年と思えるほど若い男の子。ミスリルの、透き通るような輝きを放つ認識タグを持てるのは、Ａランカーしかいない。
その子はランクアップしたばかりなのか、しげしげとタグを眺めていた。


やった！ついてる！


超優良物件を発見して、声が震えそうになりながらもナンパした。

パッとこちらを振り返った少年は、びっくりするほど綺麗だった。
きらきらと光る銀髪に、ミルクのように真っ白で、傷ひとつない肌。大きな紫の水晶が目に嵌っていて、まつ毛なんかあたしより長い。

……絶対、将来、めちゃくちゃイケメンになる……！

そう予感して、興奮に身体が熱くなりそうだった。

いけない、いけない。外面は整えなくちゃね。
あたしはどうにかこうにか引き留めようとしたけれど、何故か……逃げられちゃった。


どうしてだろ？あたし、結構可愛いし、スタイルも抜群。
経験は豊富だし、常に予定は詰まってるくらい人気なんだけど。


あの人は、絶対に、余裕のある人だった。その辺の、一回酒場に行くのも必死な男とは違う、絶対にお金に困っていない、余裕を感じたの。


Aランカーを虜にさえすれば、あたしは勝ち組。

そう、確信した。


翌日から少しずつ情報を集めることにした。

最近Ａランカーになった銀髪の少年、ねぇ。
名前はロキと言うみたい。どこかで聞いたような気もしたけど、Ａランカーになるくらいだもん、強さに定評があるなら、昔耳にした可能性もあるってことよね。

なんと、自分の商会を持っているみたいで……あたしの思った通り、半端ないお金持ちらしい。社員にも手厚い商会の代表だと他領で有名らしくて、もう、最高に興奮した。あたしの見る目ってすごくない！？

だからあたしは男と遊ぶでもなく、真面目に冒険者活動をしながら彼を待っていたのに……全然、会わない。何で？

同じ街にいるのは確実なのに、一ヶ月を過ぎても会えなかった。焦れたあたしは、商会の社員寮というところに行くことにした。