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87 ロキの魔蓄蔵/ケイレニアスside
しおりを挟む「25回だと……っ?!14で?!」
思いっきりドン引きしたらしい。殿下は顔に出さない教育を受けている筈なのに、高貴なお顔が如実に表現してしまっている。
僕の告白に、控えていた護衛の騎士達も動揺しているようだった。そっか。鍛錬を重ねる彼らの方が、その厳しさを体感して知っている。
「一般人なら10回が限度、英雄級でも20回だと、聞いているが……?」
「それは、その。私は亜空間収納が使えるので、迷宮での野営は苦にならないんです。それでずっと潜っていたら、どうやら魔素の濃い所で闘い続けると『魂の強化』が起こりやすいと」
「それは知っているが……あまり魔素が濃い所には居続けられない、狂ってしまうからな」
「確かに聞いたことがあります。しかし、魔素に負けない程の魔力量があれば、身体を守ってくれるんだと思います」
「それを身につけるのに『魂の強化』が……つまり、最初の段階で魔力がある程度ないといけないのか」
「一回あたりの『魂の強化』も、人と比べると重たいようです。負担がかかる代わりに、飛躍的に強化されます。ただ、沢山魔物を倒さないと発生しませんが」
迷宮に潜っていると、たまに魂の強化の起こっている人を見かけた。僕の目の前で、グンと魔力が増大し、大喜びしていた。
それからすると、僕の魂の強化は、一日寝込んだり、伸び代も大きいといった違いがあった。
殿下の思考がぐるぐると巡っていくのが手に取るように分かる。卵が先か、鶏が先か。
おそらく『魂の強化』の度合いは、その身に最初に宿した魔力量に比例する。必要な魔物の数も比例して増えるから、僕は人一倍魔物を倒さなければいけなかった。
そしてその最初から魔力が高かったのは、偶然とはいえ魔畜臓をスパルタ教育で大きくしていたからだと思う。
普通に考えて5歳やそこらの子供に出来るとは思えないし、押し込むことで普通は魔畜臓は破裂すると思うだろう。僕は『濃縮』のイメージがあったからか無事だった。
「………………………………実現は無理だ……、こんなに知的好奇心を掻き立てられるというのに。レイモンド、なんてやつを拾ったんだ……」
「殿下。拾ったのではなく、『拾わせてもらった』に近いです。侍従や護衛としては破格の待遇を用意してやっと、手に入れられたくらいなんです」
な、と頭をポンポンされる。我ながら高い買い物だと思うよ、レイ様。しかも終身でなく、たったの三年契約だしね。
その頃には僕の商会は一体どんな事になっているか……。
遠い目をしていると、殿下はキリッとした顔に戻っていた。
「レイモンド、婿入り予定もないのであれば、やはり私の側近になって欲しい。私には優秀な側近が必要なんだ。どうか」
「……それはロキ込みの提案ですね?私を抱き込めばロキは付いてくるとお思いのようですが……残念ながら、違うのです」
「……そうなのか?」
「ええ、彼は自由を愛する男なので。従者兼護衛は学園を卒業するまでという契約です。勿論、私はその後も共にいて欲しいとは思っていますが、彼の気持ちを無視する訳にはいきません」
そう言って、レイ様は僕の手を握った。何だか恥ずかしい。『自由を愛する男』なんて、海賊みたいじゃないか。いや、海賊ほど男らしいと褒めてくれたのか。嬉しい。
貴族ならばスザンヌ嬢のように、平民の気持ちなど汲み取る価値もないとする人が多いというのに、レイ様は違う。そこがとても良いと思う。
「……そんな悠長なことを言ってて良いのかい?私が攫ってしまうよ?」
「ははは、殿下。彼の強さをご存じでしょう?無理ですよ。ドラゴンを手懐ける方が容易いのではないでしょうか」
「こんなことを言って。ロキ、ドラゴンと並べられていいのかい?」
「ドラゴンですか。炎龍なら倒したことはありますが、ドラゴンに会ったことはないですね」
「……」
「殿下、このくらいで振り回されていたら身が持ちませんよ」
「……そのようだ。おかしいな、私も結構やんちゃな方だと思っていたが、ロキを前にすると余程大人しい気がしてきた」
その後、話は僕の商会の話になり、レイ様はいくつか商品を献上、もとい、宣伝をしていた。アオザイや浴衣、着ぐるみの他、化粧品セット、グミ状ポーションなど。レイ様の美肌ぶりを見た殿下は、化粧品セットをキャロライン嬢へ贈りたがった。
これらの商品も、貴族向けに普段よりも数段お金をかけた高級ラインのもの。きっと満足いただけると思う。
「これは、キャロラインも喜びそうだ。ありがとう。いや、本当に欲しいな……」
殿下は僕をチラチラと見て物欲しそうな顔をしてらした……もう何も出ませんよ?
殿下の所望したものは、職人の手掛けた、煌びやかでいて上品な包装と共に、殿下へと送られた。
レイ様は殿下の側近にはなりたくないらしい。ダニエル様は別として、他の側近は宰相令息と魔術師団長令息で相性が悪いのと、一度引き受けると仕事上機密事項などに触れる為、辞めることは難しい。つまり、一生王都暮らし。逆にそれを望む多くの人にとっては安定した超エリートコースとも言える。
貴族の嫡男ではない令息は、自分の兄弟が爵位を継ぐと貴族で無くなる。それまでに仕事先を見つけて法衣貴族――領地を持たない貴族になっておくか、婿入りか、していなければ平民になってしまう。
なので殿下の側近にスカウトされたら全力で飛び込むくらいの良い就職先なのだが、レイ様は頑なだった。
「いいんだ。平民になっても。ロキに雇って貰おうかな」
「それはまた趣味の悪い冗談ですね……」
――――――――――――ケイレニアスside
レイモンドの寵愛を一身に受ける、Bランク冒険者のロキ。
初めて会った時からら、どこかで見覚えのある顔だと感じていた……もう少しで、思い出せそうで思い出せない。
それにしても本当に天使と見紛う程の美貌。ある意味、魔物だと言われた方が納得してしまうかもしれない。昔から無愛想で常に淡々とし、私の側近という普通なら飛びついてくる地位にも興味を持たないレイモンドが、唯一執着している。一時期は魔に魅入られたとも思った。
近くに来させて良く見れば見るほど、あの造詣に魅了されてしまう。それだけでなく、本人の素質もまた、びっくり箱のように次から次へとポンポン飛び出してくるものだから、飽きないんだ。
それでいて、性格は慎重で、淡白。かつ、時に大胆で、自由。そんなの、気になるのは仕方ないじゃないか。
待て、勘違いをするな。……私は、キャロラインを愛している。それとは別に、ロキには好奇心を刺激されてしまう。ロキには嫌がられそうだが、私に媚びず、見た目通りではない人間は大好きなんだ。そしてキャロラインは私と似ているところがあるから、おそらく彼女もそう。
そうだな……キャロラインの側にロキを置かせたい。私の側に置けば、愛人だなんだと騒がれてしまう、それは本望ではない。
「キャロライン。……提案があるのだが」
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