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アレイストン国立魔法学園は、15歳になった貴族の男女の大半が、三年間通う。

クラスは三つ程あり、成績では無く、家の派閥の関係だとか、高位か低位か、なんてことを考慮した振り分けになっていて、レイ様は殿下やダニエル様と同じAクラスだ。
男爵や騎士爵の令息令嬢はCクラスに多く、Bクラスはその中間。

貴族の男女と言っても例外はあって、一部、平民も居る。貴族は貴族用の入学試験を受けるけど、平民も平民用の入学試験で、優秀な成績を残した平民だけが入学する事が出来る。

そんな平民は、Cクラスに居るみたい。優秀な平民を獲得するべく動くか、平民とは話したくもないと避けるかはその家の方針に寄る。レイ様は前者だろう。僕がいい例だ。


初日から殿下にお姫様抱っこされていたと言う事で、早速有名になっていたのは、あの蛍光すらしているようなピンクの髪の女の子。
可愛らしい顔立ちの美少女であり、希少な光属性の精霊持ちで、かつ、豊富な魔力量ということもあって、入学初日から一躍話題の人となった。

学校に入学した時って、『誰が一番可愛い?』って話は良くあるよね。貴族もおんなじらしい。そう考えると可愛らしい。










授業が始まれば、僕は護衛として教室の外の廊下に控えている。
純粋に従者だったら、部屋や使用人部屋で他の仕事をしている時間。僕の場合、仕事は魔法で出来てしまうので、部屋の警護だけはギンやサンに任せている。

教室には二つの扉があるから、それぞれ二人ずつ、護衛が立っていて、他は窓側、建物の外に出て行った。


この配置は護衛同士で話して、効率良くローテーションを組むことになったのだ。


Aクラスには高位貴族が多いから、自然と護衛も多い。
殿下の護衛は、護衛の中では多分、唯一騎士爵を持っており、ベテラン感溢れる30代後半くらいの男性だ。

今日はこの人と同じ扉を守っている。エリオット様の方はまだ、話しやすいのになぁ。


「……おい、お前、護衛だろう?本なんか読んでていいのか?」


殿下の護衛騎士様は僕を睨みながら、低い声で言う。顔はこちらには向けず、真面目に真正面を向いたまま。


「ええ。大丈夫です。周囲の警戒は怠っておりません」

「本を読みながら言われてもな。ブランドン侯爵家ともあろうお方が、こんなのを護衛にするとはな……」


はぁ、とため息をついている。余計なお世話である。


「……魔力感知で半径100メートルの範囲の魔力生命体は補足しております。それに加えて、教室を囲み死角のないよう従魔達を配置しておりますし、何かあれば1秒とかからず駆けつけられますので、十分かと」


僕は早口で告げる。『魔導人形に関する魔法書』が良いところなのだ。


「…………はっ?何を、」

「これ以上の手の内を見せるのは勘弁願いたいです。ご不満があればブランドン侯爵家へ直接お願いします」

「……クソ生意気な坊主だな……」


護衛騎士様はそれ以上、口を開くことは無かった。僕も魔法書に集中して、彼のことは頭の片隅にも残らなかった。











授業を終えて移動中、はたとレイ様が足を止めた。


「久しぶりですね、スザンヌ嬢」

「ええ、お変わりないようですね、レイモンド様」


目の覚めるような鮮やかな海色の髪の美女。スザンヌ・パッヘル侯爵令嬢。レイ様の婚約者だ。

彼女はBクラス。仲が悪いと言う事で離されたのかもしれなかった。

スザンヌ嬢はレイ様を睥睨した。刺さるような視線は、はたと僕に向く。


「……新しい従者ね?」

「ええ。前任者は威圧感がありましたから、学園には馴染まないかと」

「そうですわね。最も、そちらの彼はまるで稚児のようですけど」


ふふっ、と嘲るように笑い、スザンヌ嬢は去っていく。彼女の姿が見えなくなると、レイ様はふうと息を吐いていた。


「……僕、稚児に見えます?」

「いや、まさか。苦し紛れに悪口を言おうとしただけだろう。気にするな」


いくら幼く見えても稚児は言い過ぎだよね?

初めて会った僕でもなかなか強烈な印象を受けた。後でレイ様を労ってあげようっと。








中庭を通れば、気候の温暖な地域な為か、色とりどりの草花に飾り付けられた庭園が美しい。

広い中庭は学生達の憩いの場として用意されており、所々にベンチやガゼボも設置されている。ここでランチでもしたら気持ちよさそうだ。

ニャアン、と鳴き声がして、レイ様の耳がぴくりと動いた。
気になるのだろうか。彼の後ろに着いていくと、真っ白な子猫。…………と、戯れているのは、あのピンクの髪の少女だった。


「……あっ!こんにちは。ネコちゃん、可愛いですよね!触りますか?」

「……いや、結構。制服に毛が付く」


無表情を動かさないレイ様に、ピンクの子は構わず笑いかけた。


「わたし、リリーと言います。チャムリー男爵家の!貴方のお名前は……」

「……行くぞ。興味がない」


本当は猫を触りたそうだったのに、レイ様は無愛想に踵を返した。

リリーって言うのかぁ。へぇ……。

へぇ……?

あっ!

唐突に思い出した。

リリーという名前。ピンクの髪色。

10歳の時、『開封の儀』で会った事がある。
あの時の僕はまだ顔に火傷痕があったから、彼女には大層嫌われていた。あれ、あの子は僕と同い年だから、一年早く入学していることになる。

元々孤児ならば、誕生日が明確でないことは多いから別に不思議なことではないけれど、王子様と同学年を狙って捩じ込んだんじゃないか……?と邪推してしまう。


「えっ……ちょっと待っ……!」


リリー嬢の手がレイ様に伸びた。その手がレイ様の制服に届く前に、僕は割り込んで結界を展開する。

硬質なガラスのような感触に驚いたリリー嬢は、サッと手を引っ込めて僕を睨み、……ぱっと目を見開く。


「何よ、貴方。え?とっても綺麗な顔!えと、お名前は……」


その少しの言葉で分かる、相手をする意味も無い。
レイ様もスタスタと先を行くし、僕はリリー嬢を一瞥し、彼の背中を追った。


その道すがら、レイ様が呟く。


「はあ、ああいうタイプか……殿下が心配だな」

「ケイレニアス殿下は大丈夫なのでは?頭の回転は早そうな方だと思いましたが」

「そうだが、殿下は箱入りだからな。ああいう肉体的接触には慣れていないと思う」

「……レイ様は?慣れているんですか?」


思わずジト目になる。レイ様はそんな僕を面白そうに見つめて、


「冒険者をやっていれば、食堂にも行く。そこであしらい方を学んだ。あの令嬢の接し方と同じ」

「確かに市井の出だとそういう方は多いですね……。実は、僕、彼女に会ったことあるみたいです、向こうは知らないでしょうけど……」


僕は『開封の儀』で会っていることを話した。
そういえばあの後、精霊の加護を授かった子が貴族の養子になったとか噂になっていたような気がする。

しかしそこで疑問なのが、リリー嬢の魔力量はちゃんと調べられているのかということ。倒れた僕と、ふらついただけの彼女とではだいぶ違うと思う。


「……それも気になるな。魔力量以外に、養子にする旨みがあったのかもしれない。一応、気に留めておくか……」



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