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66 Bランクへ/ヘイドンさん

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ギルドを出てククリとの合流場所に向かうと、ずっと待っていたらしいククリが駆け寄ってきた。


「わあっ、本当に、本当に、こんな短時間で最下層まで行ったのですね!流石です!」

「いえ、お待たせしました。迷いは……無さそうですね」

「はいっ!むしろ一秒でも長くお側にいたいんで!」


ハッハッと舌を出して喜ぶ子犬を幻視する。この泥パック、見えている?てくらい懐いているみたい。

まずはククリに宣誓魔法をかけて、僕に関するあらゆる情報を他言しない、しようとすると記憶を失うことを約束させた。
他にも裏切れないとか細々とした制約は他の従業員を雇う時に散々使ったテンプレートを使いまわしているので慣れたものだ。













そうして安全を担保してから、二人で転移した。


「ウォエッ……」


この光景ももう、毎回恒例となりつつある。
完全に崩れ落ちたククリの背中をさすってあげながら、フォルナルクまで帰ってきた。

冒険者ギルドへ行けばリリアンナさんが営業スマイルを張り付けて、手続きをしてくれる。


「はい、確認が取れました。Bランクに昇格です。おめでとうございます!あの、今度、ランチでも……」

「手続きありがとうございます、では」


ふふ。やっと、貴族にも対抗できるBランクになった!

Bランク以上の冒険者は、冒険者ギルドを後ろ盾に持つのと同じだ。貴族が嵌めようとすれば、積極的に介入してくれるらしい。でなければ、ランクアップの旨みなど無くなってしまうからね。

僕は三年間はブランドン侯爵家のものだけど、その後のことは分からない。だから、こんな風に身を守るものを持っておいて損はない筈だ。


「はぁ、はぁ、うぇ、……あれ?ええっ?」


転移した直後に泥パックを外したのに、ククリは今気付いたらしい。僕の顔を見て驚き、固まり、口をぽかんと開けていた。


「改めて自己紹介をしますと、ロキ、です。これから僕の持つ商会の社員寮に向かいますから、そちらで生活してください」

「はひ……」


ククリは顔を真っ赤にして頷いた。











その後、シガールさんに面通ししたククリは意外な才能を見せた。

風の魔法を使った諜報員である。
ギンは僕に関する悪意には敏感だけれど、今の流行だとか、全く関係のない噂だとかには興味がない。ところが、ククリであれば判断出来る。

ククリの容姿は悪く言えば平凡で、数日経てば忘れるような顔。諜報員として潜んだり、噂を操作するのに非常に高い能力とも言える。加えて、可愛らしい系統なので警戒心も抱きにくい。


一応諜報員としての先輩はギンだから、ギンと意思疎通をして欲しい。

そこで役に立ったのが、サンだ。
ギンから得た情報を、サンがククリに伝えることで、ククリの諜報活動は効率的になる。


そのためのハンディカムのような魔道具は、言霊送受信機と違い距離の制限はあるけど、比較的簡単に作れたので、シガールさん、ククリ、サンには渡しておいた。


そんなサンは自慢の糸を量産するのは渋った。
たくさん出すなら魔力が欲しいと強請り、ギンに平手――手というか触手――打ちされていた。

僕はギンを宥めるのに苦労した。

どうやら僕の魔力の塊はギンも独り占めしたくなる程美味しいらしい。それも、昔より、『魂の強化』を重ねた今の方が圧倒的に濃密だそうで。


それでもやっぱり彼女の糸は欲しいので、量産するのではなく定期的に少量、魔力の飴を上げる時に出してもらうことにした。


「はぁん、ああ、なんて、濃厚で、濃密で、妾、もう、ああん……」


なんて喘ぐようにうっとり、くったりしている。レイ様やククリにはとてもじゃないけど聞かせられない……、大変、不健全だと思う。


「もうこの味を知ってしまったら、他の男の精気なんて不味くてダメですわ。……マスター、責任取ってくださいまし……」

「はいはい、魔力はいくらでもありますから。でも、きちんと働いてくださいね」

「はぁい……」


これで、サンが屋敷で働く男の人に手を出す心配はしなくて済みそうだ。良かった。

亜空間小屋には、サンもアラクネ姿でくつろげる小屋を作ってあげた。人間の屋敷では窮屈だろう。
嬉々として巣をつくるサンはやはり魔物。いくらアオザイの似合う美女でも、惑わされてはいけないと、一番話す機会のあるシガールさんとククリには厳しく言い含めておいた。

ククリは本当に僕を崇拝していることを証明するためにか、泥パックを取った姿に心酔したのか、『ロキさまに着て欲しい服を描いてきました!』と、ルームウェアのデザインを複数持ち込んできた。


基本の形は僕の考案したものなのだけど、ククリによって、更にラインナップが増えた。僕はその新しい服についてはククリにモデルをしてもらおうとしたのだけど、断固として拒否されてしまった。

シガールさんもこの時ばかりはククリの味方で、レイ様も然り。なんで?

僕、モデル雇えるのかな……?三人に阻止されそうな気をひしひしと感じる……。


僕の商会は、これで、化粧品店と、冒険者向けコンビニ店、ルームウェア店となった。

社員は増えて、評判も上々。

そこに、社員寮の戸を叩く知り合いが来た。















「ロキ。いや、ロキ様。どうかこのしがないおっさんを雇って下さい」

「えっ……え?顔を上げて下さい、ヘイドンさん」


その人は、フォルナルクの高級宿で料理長として働いていたはずの、ヘイドンさんだった。
あれ。でも、ヘイドンさんはレシピの収入がかなりあるはずで、実際に身なりも清潔感がある。


「むしろ、もう働く必要もないんじゃないですか……?なんでまた」

「いいえっ!確かに資産は増え、嫁も子供も問題なく食わしていけます。でも、おれは、あの……、ロキ様にアイデアを頂いた時の心の震えがっ!今でも忘れられなくて!」


ヘイドンさんが言うには、レシピ収入が増えたあたりで料理長を辞め、自宅レストランを始めたらしい。しかし始めてみると、料理をするよりも計算や店の事務的なことをする時間の方が増えてしまい、なにか違うと感じて、売却したと言う。


「おれは気楽に料理のことだけを考えて、新しい料理に頭を悩ませたり、おれの料理で幸せになった顔を眺めていたいんだ。小難しいことは考えたくないし向いていない!どうか、従業員として雇ってくれ!」

「それは、もちろん大歓迎です!ヘイドンさんの腕は一流ですから、僕も嬉しいです。そうですね……まずは社員寮の食堂を任せてもいいですか?少しずつ料理人が増えてきたら、僕の商会として、料理を提供するお店を考えてもいいですね」

「ありがとうございますっ!!」


ヘイドンさんには悪魔のレシピ、唐揚げを教えてあげた。これってすごく研究しがいのある食べ物だと僕は思う。
柔らかいもの、カリッと歯ごたえのあるもの、大きさ、味付け、子供向けや大人向け。

彼もそう思ったのか、笑いながら震えていた。ちょっと怖い。けれど、ものすごいやる気が出たみたいで、早速職場に放り込めば、テキパキと仕事をしていた。
きっとそのうちオルが来て、大量に味見をしていくことだろう。


ヘイドンさんは家族持ちなので、社員寮には住まないみたい。資産もあると言うくらいだからいいお家に住んでいるのだろうなぁ。

僕はヘイドンさんの作るご飯が大好き。
僕の料理もそこそこ美味しい家庭料理だけど、やっぱり本職は違うもの。


こうしてまた、僕の商会の社員特典『美味すぎる食堂の格安利用』が加わり、応募者がさらに殺到するのだった。





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