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64 ククリ
しおりを挟む「ぼく、ずっと迷宮人様に憧れていたんです!出没、あ、いえ、攻略する迷宮はもう高難易度迷宮に移ったと聞いていたので、まさか会えるなんて奇跡のようです!」
話の聞き役に徹しているとククリは落ち着いたのか、僕をうっとりと見つめるようになった。
「手際良く救出して、救出代も貰わず、名前も名乗らず。もう、めちゃくちゃカッコいい。もっと年齢のいった人かと思っていましたけど、ぼくと同じか、もしかしたら年下だなんて!めちゃめちゃ尊敬です!」
「はは、いえ、通りかかっただけですから……」
僕はやや引き気味だ。なんだかヒーローに憧れる少年のような顔をしている。となると僕は……いや、それはちょっと恥ずかしい。
彼が眠るまでそばに居てあげようと思っていたのに、これでは逆に興奮させてしまっている。
「はぁ、もうあの二人と組む気になれませんし、ぼく、迷宮人様の小間使いとか、荷物運びとか、ああっ、もう、いっそ下僕にしてもらえませんか?!ぼく、フットワークは軽いです!何かお力になれませんか!?」
うん、あんな事があった直後なのにここまで元気なのは凄い。本来明るい性格なのか、ハイになっているのか分からない。言っている事はなかなか……どうして、迷宮人に惚れ込んでいるようだ。
「迷宮人様、じっくり見ると本当に綺麗な顔をしていらっしゃいますね。火傷跡さえ無ければ……、あ、いえ、余計な事を言いました、すみません」
「いえ……あの二人の事はもう良いのですか?家族などは?」
「実は、最近あの二人は身体も急成長して、その、欲求もすごいらしくて。前々からちょっと撫でられたりとかはあったんで、もしかしたら……と思うと。それに、追いかけられて死ぬほど怖かったのでもう戻れません。仲間としては好きだったのが、吹き飛びました」
「そっか、前から……。そういう事なら、少し魅了の香りを吸い込んだだけで、かなり効果があったのかもしれませんね」
「はい……。家族は居ますが、冒険者として自立していますし。……どうですか?」
ククリは子犬のような顔で懇願する。ううん、どうしようかな。ある程度魔法の使える従業員、いいかもしれない。当然、ククリは僕が事業をしているだなんて知らないと思う。
「まずは休みましょう。んんっと、仕事はいくらでもあるのですが、冒険者として連れて行くことはないと思います。それでもよければ。でも、落ち着いてよく考えて下さい。話はそれからです」
「!はい!どこまでもついていきます!」
ちゃんと聞いているのか不安なくらい前のめりに返事が来た。もう僕は諦めた。断ってもストーカーしてきそうな熱量だ。
一人で寝かせても大丈夫そうなので、三人用の天幕から出る。その際、ククリには職人の手慰みに作ってもらったうさぎのぬいぐるみを持たせた。
何となく似合うだろうなと思って渡してみたのだが、本当に似合う。その上本人も相当喜んで抱きしめていた。うん、職人も喜ぶ。このぬいぐるみも抱き枕としてルームウェア専門店に置こうかな。
翌日は起こした彼らを一旦転移陣まで送っていった。三人の雰囲気は最悪だったので、巻き込まれないようそそくさと、迅速に、機械的にね。あとは本人たちの問題だ。
「必ず待ってますからっ!迎えに来て下さいねっ!!」
ククリはそう叫びながら消えていった。最後まで元気な子だ。
その後特にトラブルもなく第二十層――最終層に着いた。
目を見ると石化する蛇を捕まえた。光の糸で作った拘束魔法で捕縛。ふと目を合わせると同時に、石化させる魔法が飛んできたので、避ける!
僕なんて二、三人飲み込めそうだし、蛇小屋にいれるとボスとして君臨しそうな大きさだ。思いっきり、容赦なく威圧をして、石蛇がガタガタ震えている間に、双剣で捌いた。各部位に分けてから収納する。
あの石化の魔法を放つ目を抉り出せば、何かに使えそうだ。小さめサイズのストーンスネイクはあまり長時間石化させる効果は持たないけれど、ヤツはかなり強力な魔法だった。
トア爺と弟子たちに持っていけば喜ぶかな。それとも魔道具にしようかな。
石化も精神攻撃の一種だ。自分の意思でも身体を動かせなくなる。そのまま何年か経って風化するとぼろぼろと崩れる様は、本物の石像に酷似しているみたい。
迷宮主の部屋に着き、一息休憩を入れる。レイ様からもらった茶葉で紅茶を淹れてみて、うまく淹れられるようになったなと自分を褒めた。
侯爵家で雇われてから、食事はシガールさんや使用人たち、わざわざ本邸まで来たランスさんとわいわい食べることが多くて、それもそれで楽しいけど、たまにこうやって一人と従魔たちとで静かに食べるのも良い。
しっかりと休んだ後、また殺気を纏って警戒心を上げて、古びた大きな木扉を潜った。
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