65 / 158
64 ククリ
しおりを挟む「ぼく、ずっと迷宮人様に憧れていたんです!出没、あ、いえ、攻略する迷宮はもう高難易度迷宮に移ったと聞いていたので、まさか会えるなんて奇跡のようです!」
話の聞き役に徹しているとククリは落ち着いたのか、僕をうっとりと見つめるようになった。
「手際良く救出して、救出代も貰わず、名前も名乗らず。もう、めちゃくちゃカッコいい。もっと年齢のいった人かと思っていましたけど、ぼくと同じか、もしかしたら年下だなんて!めちゃめちゃ尊敬です!」
「はは、いえ、通りかかっただけですから……」
僕はやや引き気味だ。なんだかヒーローに憧れる少年のような顔をしている。となると僕は……いや、それはちょっと恥ずかしい。
彼が眠るまでそばに居てあげようと思っていたのに、これでは逆に興奮させてしまっている。
「はぁ、もうあの二人と組む気になれませんし、ぼく、迷宮人様の小間使いとか、荷物運びとか、ああっ、もう、いっそ下僕にしてもらえませんか?!ぼく、フットワークは軽いです!何かお力になれませんか!?」
うん、あんな事があった直後なのにここまで元気なのは凄い。本来明るい性格なのか、ハイになっているのか分からない。言っている事はなかなか……どうして、迷宮人に惚れ込んでいるようだ。
「迷宮人様、じっくり見ると本当に綺麗な顔をしていらっしゃいますね。火傷跡さえ無ければ……、あ、いえ、余計な事を言いました、すみません」
「いえ……あの二人の事はもう良いのですか?家族などは?」
「実は、最近あの二人は身体も急成長して、その、欲求もすごいらしくて。前々からちょっと撫でられたりとかはあったんで、もしかしたら……と思うと。それに、追いかけられて死ぬほど怖かったのでもう戻れません。仲間としては好きだったのが、吹き飛びました」
「そっか、前から……。そういう事なら、少し魅了の香りを吸い込んだだけで、かなり効果があったのかもしれませんね」
「はい……。家族は居ますが、冒険者として自立していますし。……どうですか?」
ククリは子犬のような顔で懇願する。ううん、どうしようかな。ある程度魔法の使える従業員、いいかもしれない。当然、ククリは僕が事業をしているだなんて知らないと思う。
「まずは休みましょう。んんっと、仕事はいくらでもあるのですが、冒険者として連れて行くことはないと思います。それでもよければ。でも、落ち着いてよく考えて下さい。話はそれからです」
「!はい!どこまでもついていきます!」
ちゃんと聞いているのか不安なくらい前のめりに返事が来た。もう僕は諦めた。断ってもストーカーしてきそうな熱量だ。
一人で寝かせても大丈夫そうなので、三人用の天幕から出る。その際、ククリには職人の手慰みに作ってもらったうさぎのぬいぐるみを持たせた。
何となく似合うだろうなと思って渡してみたのだが、本当に似合う。その上本人も相当喜んで抱きしめていた。うん、職人も喜ぶ。このぬいぐるみも抱き枕としてルームウェア専門店に置こうかな。
翌日は起こした彼らを一旦転移陣まで送っていった。三人の雰囲気は最悪だったので、巻き込まれないようそそくさと、迅速に、機械的にね。あとは本人たちの問題だ。
「必ず待ってますからっ!迎えに来て下さいねっ!!」
ククリはそう叫びながら消えていった。最後まで元気な子だ。
その後特にトラブルもなく第二十層――最終層に着いた。
目を見ると石化する蛇を捕まえた。光の糸で作った拘束魔法で捕縛。ふと目を合わせると同時に、石化させる魔法が飛んできたので、避ける!
僕なんて二、三人飲み込めそうだし、蛇小屋にいれるとボスとして君臨しそうな大きさだ。思いっきり、容赦なく威圧をして、石蛇がガタガタ震えている間に、双剣で捌いた。各部位に分けてから収納する。
あの石化の魔法を放つ目を抉り出せば、何かに使えそうだ。小さめサイズのストーンスネイクはあまり長時間石化させる効果は持たないけれど、ヤツはかなり強力な魔法だった。
トア爺と弟子たちに持っていけば喜ぶかな。それとも魔道具にしようかな。
石化も精神攻撃の一種だ。自分の意思でも身体を動かせなくなる。そのまま何年か経って風化するとぼろぼろと崩れる様は、本物の石像に酷似しているみたい。
迷宮主の部屋に着き、一息休憩を入れる。レイ様からもらった茶葉で紅茶を淹れてみて、うまく淹れられるようになったなと自分を褒めた。
侯爵家で雇われてから、食事はシガールさんや使用人たち、わざわざ本邸まで来たランスさんとわいわい食べることが多くて、それもそれで楽しいけど、たまにこうやって一人と従魔たちとで静かに食べるのも良い。
しっかりと休んだ後、また殺気を纏って警戒心を上げて、古びた大きな木扉を潜った。
101
お気に入りに追加
717
あなたにおすすめの小説
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!
つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。
他サイトにも公開中。

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる