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48 レイモンド side

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レイモンドは焦っていた。彼に相応しいブランドン侯爵家の家紋が入った短剣を用意している間に、渡したい相手の方が姿を消してしまった。


「これを渡せば、後ろ盾になれると……伝えるつもりだったのに」

「思った以上に行動が早すぎましたね……」

「何かあったんだろうか……」


早くしないと、他の貴族に取られてしまう。そんな焦りもあり、レイモンドはロキの足跡を追った。侯爵家の名前を使えば、情報を手繰り寄せるのは容易いと、そう思っていた。

冒険者ギルドのサブギルドマスター、シガールとの話を思い出す。


『少し体調が悪そうだったのでその日は休むよう言いました。彼も素直にそうするようでしたよ。何故体調が悪かったのか?……それは、守秘義務に関わるので……』

『これからの彼に関わる重要なことなんだ。もう彼は、二度と姿を現さないかもしれない……っ!少しでも情報を!』


最初はシガールも話さなかった。しかし、ロキが姿を消してから三日経ち、一ヶ月が経ち、半年も過ぎると、ようやくシガールの重い口が開いた。


『あの日。信頼できる大人として認識していた、とある女性から、護衛任務完了後に襲われかけたんです。相当ショックだったようで、真っ白な顔をしていて……』


その後すぐ、件の女性を探して突き止めたが、女は鼻を鳴らし、いけしゃあしゃあと言い放った。


『良質な子種をねだっただけのこと。男の子なら簡単なことでしょう?全く、あそこまで拒否されるなんて、私のプライドが傷付いたわ』


その薬師は一級の腕を持ち、市井にあまり居ない、エルフだった。自然と共に生き、淡白なものを好み、性への関心は薄いと聞くこの種族の女が、たった10歳の少年に欲をぶつけようとしたなど信じられなかった。しかしその言葉を聞いて、この女によってロキは心を傷付けられたのだと分かった。

それだけではない。どんどん時間は経つごとに、手に入るロキに関する情報を繋ぎ合わせていくと。


彼は長い間、虐待されてきたこと。
10歳まで顔に酷い火傷跡があり、時には石も投げつけられていたこと。

ランスという師匠にあたる冒険者。探して話を聞けば、危機感を煽る為、襲うフリをしたこと。

ユノという少女に付き纏われていたこと。

薬師セーラのことがあった翌日、ロキに好意を抱くリリアンナという受付嬢と話したこと。その後、唐突に姿を消したこと。


(彼に欲望をぶつける人物が、多すぎたのか……)





レイモンドもまた、その一人だったはずだ。友達のような顔をして近付き、八つ当たり。冷え切った距離のまま別れ、そのままだ。

誰にも頼れず。甘えられず。
何を思って消えたのか。

自ら命を絶つとは、どうしても思えなかったし、考えたくもない。
あの美貌を探すのは簡単なはずだった。一人の美少年とスライムの従魔。相当目立つ組み合わせだ。

それに、かなり強かった。あの強さの冒険者は殆ど迷宮攻略を目指し、富を得る。彼も迷宮に潜っているのだろうと密偵を放っても、どこにもいない。

手に入れたいと動き始めると同時に、砂が指の間から零れ落ちるように、逃してしまった。

だから最初から、全力で囲っておけば良かった。会ったその日に言いがかりでもつけて屋敷に連れて帰って、己から離れられないよう契約を結ばせて。

ギリギリと奥歯を噛み締めながらも、後悔に苛まれるレイモンドは、そう教訓を得ながらも、いつかまた再会出来るはずだと思っていた。

それなのに、ロキは消息を絶ったまま、気付けば三年の月日が流れていた。








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