40 / 158
39 魂の強化
しおりを挟む身体強化を解除しているのに、身体が軽い。
魔力が、使ってくれと言わんばかりに溢れている。
頭はスッキリとして、今ならどんな複雑な魔術陣でも覚えられそう。
これが『魂の強化』か。
こんな熱が出るなら、安全な所に居ないといけない。宿屋に帰ってきてて良かった。幸いなことに僕には頼れる従魔がいるから何とかなるけれど、本来これは、パーティーメンバーがいないと危ないかもしれない。
一番嬉しかったのは、自分の身体に少し、筋肉がついていたこと!
「ふおおお……!」
『……?』
骨格が華奢なのか、筋肉が付きにくい体質なのか、なかなか筋肉が付かなかったのだ。身体的にこれだけ動けるのだからもう少し逞しい体付きをしていてもおかしくないのに、見た目が貧弱で舐められやすいのを気にしていたから、今回の変化はとても嬉しかった。……ギンには違いが分からなかったらしい。もっとよく見て!
念の為もう一日休んで、身体を休ませた。柔軟をしたり軽く筋トレをして、新しく生まれ変わったような身体を馴染ませる。
るんるん気分で冒険者ギルドに行くと、シガールさんがぎょっとしたように僕を見て、あっという間に説教部屋に連れ込まれた。え、何?
「ロキさん、なんか出てます。色気?何かありました?仕舞ってもらえます、それ」
「何を言っているんです?あ、昨日、初めて『魂の強化』が起こったみたいで。ちょっと気分は高揚しています」
「……なるほど、なるほど……、え、初めてですか?通常、『魂の強化』は子供は起こりやすいんですが、不思議ですね。ロキさんはもう何度も経験なさっていると思っていました」
「そうそう、僕も不思議だったんですが、ようやくみんなと同じになれて嬉しいです」
「おめでとうございます。それから、ロキさん、何をしました?貴族から、指名依頼されそうになっていましたよ。心当たりは?」
「あ、もしかして、レイって子ですか?やっぱりお貴族様だったんですね。迷宮の中で少し話しただけなんですが……」
シガールさんの話によると、『同年代の冒険者と共に過ごし、実力の具合を把握したい』という依頼だったそうだ。それもブランドン侯爵家、このフォルナルクやイヤゴーも含めた領地の領主でもある貴族からの、正式な依頼なんだそう。
ただ、レイと同じ、10や11歳の冒険者は僕も含め、精々Eランク。だから指名依頼は受けられない。
「はい。なので本人と直接交渉になります。私は反対したのです、『ロキさんはまるで参考になりません、あれを平均に見たら他の子が可哀想です』と……。そうすると余計に火に油を注いだようでして、全く諦めてなさそうでした。おそらく直接来ると思います。まぁ、断れないですよね……」
「断ったら、不敬に……」
「なるかもしれませんねぇ……。もしくは、不敬に処さない代わりに『ウチの傭兵に』と望まれる可能性も。いや、ブランドン侯爵家は結構良心的だと思うので、それはないと思いますが……」
そんな手があるのか。うーん、僕も同年代の実力の具合は、知りたいけど……でも、貴族の子ならまたちょっと違うんだろうな。エリートの英才教育を受けているのだもの。
「よし、逃げよう」
「いやいやいやっ!私が逃したと思われるのでやめてください、お願いします!」
「なんでわざわざ手の内を見せるような依頼を受けなきゃいけないんですか……」
「それはそうなんですよね。パーティーを組む時は信用出来そうな人と組みますからね、一時的であっても。貴族の命令……依頼でも、やはり嫌がられると思います、はい。しかし、それがまかり通るのが貴族なんですよ」
シガールさんはふう、とこめかみを抑えた。シガールさんからは、目をかけて貰えていると感じる。貴族に目をつけられ、いいように使われないように気を遣ってもらっているようだ。
「一応、冒険者達の心象は悪くなるとは伝えていますから、それでももし依頼を承諾せざるを得ない場合、出来るだけ手の内を見せないよう工夫して下さいね。あなたを貴族に取られるのは、ギルドの損失ですから」
「そこまで……まだEランクの僕を、気にかけてくださってありがとうございます。気をつけますね」
「もう『雨の迷宮』、攻略したんですよね。本当はもうDに上げられるのですが、試験を受ける必要もありますし、あの貴族の方が諦めてからにしましょうか。Dであれば指名依頼、受けられるようになってしまいますし」
「そうですね……そうして下さい。指名依頼って、必ず受けなくちゃいけない訳では無いんですよね?」
「はい。しかし、Dランクだと冒険者ギルドも積極的には助けに動かないので、貴族からの依頼を断る時は皆さん工夫していますね。町を移動したり、一時的に行方を眩ましたり……」
つまり、何があっても、依頼を断ったことに対して貴族から報復されても自分で対処しろと言う事か。Dランクの冒険者を一人潰すくらい訳ないだろうなぁ。しかし、そんな暇な貴族もいるのか。
互いを労わるように背中を叩き合った。僕にお父さんがいたらこんな感じだろうか。
説教部屋を出るとすぐ、早速黒髪の美少年と目が合った。うわ、うわわわ。逃げる隙も、対策を練る時間もなかった。
「ロキ!やっぱりここにいた!」
「……はい、レイ、さん」
何となく呼び捨ては、側にいる護衛らしき人から睨まれている気がして『さん』を付けると、レイはむっと眉根を寄せた。
「同じ冒険者だろ。レイ、でいい」
「でも……」
「レイ。言ってごらん」
レイの無表情による圧。この傲慢とも言える圧は苦手だ。
「レイ。……これでいいですか?」
「敬語も要らない。普段、そんな感じじゃないだろう?」
「いえ、シガールさんとか、年上の方にはみんなこうしてます」
「それなら……まあいいか。なぁ、一緒に何か討伐、行かないか?俺、ロキと探索してみたいんだ」
直球だった。ランクを無視した指名依頼未遂も、このように言い換えると何とも愛らしい感じに聞こえるけれど、手の内を晒すようなことはあまりしたくない、それも貴族本人に。
「僕、人見知り激しくて……、共同作業は全く向きません。他の人を誘ってはいかがですか?」
婉曲な断りに、近くにいる護衛らしきおじさまが怖い顔をした。やっぱりそうなるよね。
「いいや、俺はロキと行きたいんだ。共同作業が苦手なら、俺で慣れたらいい。ダメか?」
しゅーんとしょげたように上目遣いをされても、ねぇ。
絶対に諦めないだろうなぁ、これ。今まで生きてきて思い通りにならなかった事などないのだろう。
「分かりました。でも、一度だけです。それに、期待に答えられなくてもお許しを」
「おい、お前、生意気だぞ!」
「パーシー」
鋭い一声で、レイは護衛を黙らせた。ひぇ、護衛のおじさんも怖いし、レイの変わりようも怖い。僕と話していた時の人懐こいような声とは全く違う。どこからその声出しているんだろう。
「ごめん、俺の付き添いがイカツイおっさんで怖いよな。出来るだけ遠ざけるから」
「……」
パーシーさんはピクリと頬を動かしたが、もう口は出さないようだった。
うわ!
気付けば、ギルド中がしーんとして僕らを見ていた。
128
お気に入りに追加
717
あなたにおすすめの小説
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。

【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!
つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。
他サイトにも公開中。

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!
ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。
自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。
しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。
「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」
「は?」
母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。
「もう縁を切ろう」
「マリー」
家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。
義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。
対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。
「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」
都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。
「お兄様にお任せします」
実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる