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38 レイ
しおりを挟む「はい、冒険者です……」
「俺はレイ。君は?」
「ロキといいます……」
「硬いな?緊張しなくていい、俺たち、同じくらいの年だろう?俺は11歳。ロキは?」
「10歳です」
ちょっと圧が凄い。整いすぎた顔は殆ど動かず、人形のような無表情で近付いてくるから、恐ろしくて少しずつ後退する。
しかし彼の瞳だけは興味深そうに僕を観察し、『何これ!面白いもん見つけた!』と目で語っているかのように、爛々と輝いていた。
たじたじとした僕。でも有り難いことに、そこへ援軍がきた。
「レイ、順番が来たぞ」
「……ちっ……じゃあまた、ロキ」
「はい。……お気を付けて」
呼びにきた傭兵は舌打ちされて可哀想だ。名残惜しそうに少年は僕から離れて、ゾロゾロと迷宮主の部屋へ入っていった。
ふぅ。ホッとする。
小さな嵌め込みのガラス窓には人が群がっていて見えない。僕が残念そうにしたのを見たのか、ギンがぷちギンを放っている。
『見たいんでしょ。はい、視界共有!』
「おお……」
『ふ、ふんっ!あたしだってそれくらい出来るわよ!』
ギンに対抗意識を燃やすマシロはさておき、ぷちギンの視界がテレビのように、目に映る。目の錯覚なのか、この画面は他の人には見えないようだ。
おお、闘っているのはあの少年と、両脇にいる二人の傭兵だけ。残りは周囲を囲み、いつでも参入出来るように構えている。
迷宮主は大型の骸骨騎士と、その飼い犬のように侍るヘルハウンド。真っ黒い、凶悪な顔つきの犬だ。
黒髪の少年は骸骨騎士に襲い掛かるが軽く跳ね飛ばされ、まずヘルハウンドに狙いを変えたよう。その間に、傭兵二人が骸骨騎士を相手する。
大柄な傭兵二人は余裕そうに、切り掛かってくる骸骨騎士をいなして、少年がヘルハウンドを倒すのを待っているようだった。
少年の剣技はなかなかのもので、何度も何度も切り付けて、じわじわと削り、漸く息の根を止めた。
そして骸骨騎士に狙いを定め、しばらくして、風の刃を放った。
キィンッと――聞こえないけど――聞こえてきそうな大きな刃に、傭兵はさっと避け、骸骨騎士に直撃する。鎧が弾ける!かなりの威力だ。
それでもまだ魔石は取り出せていない。骸骨騎士は少年に斬りかかろうとしているのに、少年は力を使い果たしたのか、肩で息をして動けなさそうだ。
横から傭兵が飛び出してきて、骸骨騎士の魔石を粉砕し、戦闘は終了した。
出現した宝箱を傭兵に開けさせると、その傭兵は腹に大きな穴を開けた!
うわ、あれはすぐに治さなきゃ。ギャラリーが騒めく中、彼らは急ぐように帰還していた。
「やっぱり斥候役がいねぇと、宝箱もおちおち開けられねぇなぁ……」
「どうすんだよ、オレらいねぇぞ」
「大楯で防ぎながら開けるに決まってんだろ」
「俺らのとこには斥候いて良かった……」
それから何組か入っていって、僕の番がようやく訪れる。
「坊主、一人か……あ、従魔もいるのか、しかし、大丈夫か?」
「心配してくれるんですか?ありがとうございます」
「い、いや……俺らと一緒に入ってもいいんだぜ?」
「大丈夫ですよ。ここまで来れたので」
話しかけてきた青年は、考える余地も見せない僕に呆れたように首をすくめた。
「四人以上が推奨されてんのによ……知らねぇぜ、俺は」
彼の呟きを黙殺し、僕は扉の奥へ進んだ。
出現したのは、大きめの骸骨騎士と、ヘルハウンド一匹。それは変わらない。しかし、骸骨騎士は剣ではなく、大剣を手にしていた。
「なんでこう、僕の時ってちょっと違うんだろ……?」
『そりゃあ、魔物は力の強い精霊の力を感じて、強いのを出してくるからよ!あたしってすごいから』
「マシロのせいだったんだね……い、いや、いいんだけど」
納得しつつ、即座にヘルハウンドに水刃を打ち込む。
キンッ――
それはウォーターカッターをイメージして放ったもので、大きく旋回した後落下し、ヘルハウンドの首を落として即死させた。
飛びかかる途中だったヘルハウンドは、宙で動きを止めてべしゃりと落ちる。
ヘルハウンドの死――元々死んでる身体だけど――を一向に気にせず、大剣使いの骸骨騎士は僕を襲う。予想以上に速い。
僕の鉄剣で受け止めたら、剣ごと斬られそうだ。ギリギリの所で躱し、瞬発的に地面を蹴って懐に潜りこむ。
僕にとって、身体強化と隠密は自由自在だから。
気付かぬ内に超至近距離にいた僕に気付かれる前に、鎧ごと、魔石ごと、岩の弾丸でくり抜くように
ぶち抜く。
それからサッとまた距離を取ると、力を失った骸骨騎士が崩れ落ちる所だった。
ふう、中々に手応えのある相手だった。
僕はヘルハウンドと骸骨騎士から素材を引っぺがした。魔石も欠けることなくまるっと回収出来てホクホク。それらを背嚢にしまっている風に収納し、出てきた宝箱はいつも通りギンに開けさせた。
普通の宝箱なら僕も開けるんだけど、人が見ている中ではやりたく無い。なんとなく従魔にやらせている方が、力を隠せる気がする。従魔も力の一部といえば一部なんだけどね。
『ろー、なんかまた本みたい』
『本……え、真っ白じゃないか』
何も書かれていない本。ええ、なんだろう。僕が手に取ると、フワリと浮き上がってぱらぱらと捲られ、最初のページを見せられる。
「なに、これ……あ、すごい、地図だ」
『良かったわねっ!精霊たちからのプレゼントよ!ロキのは特別なんだから!』
てことは、僕って強い魔物に当たりやすい代わり、良い内容の宝箱にも当たりやすいということ?
しゅるしゅるとインクが滲むように描かれたそれは、僕の脳内地図と同じような地図だった。雨の迷宮、第五層とタイトルもあり、その中に僕らしき丸と、ギンらしき、ちいちゃな丸が点滅していた。
「使えるような、使えないような……ああ、脳内地図は今いる所しか映らないから、たしかに便利かも」
うむ、初回攻略特典はなかなかの内容だった。嬉しい!
そして、冒険者ギルドへ戻って卵を納品。ピピとジジの従魔登録も済ませ、セーラさんに毒蛇を提供して宿屋へ戻った僕は、気が緩んだのか、今までにない熱を出してしまった。
これは、魔力暴走?5歳の時に死にかけた、あの熱に似ている。久しぶりに、魔畜臓がパンパンになるような感覚を覚えた。
でも、あの時と違い、命の危険はないと分かる。
身体じゅうの魔力が一層増えて強く濃くなっていくのを、高熱に耐えながらも、ゆっくり寝ていたらいい。
そっか、これが、『魂の強化』。
ギンは冷たくした触手でおでこを冷やしてくれて、喉が渇いたら水差しから水を飲ませてくれた。マシロは水さしに冷たい水を用意してくれて。
なんて出来る子たちなんだ。そう感動出来る余裕を持てるようになった時には、もう翌日になっていた。
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