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しおりを挟む迷宮主を倒すと出てくる帰還の転送陣に乗って、迷宮を出た。それからそう経たないうちにランスさんに捕まる。迷宮主を倒すのが、早すぎる……!
「ね!ねぇ!ロキ~!」
「分かりましたから!もう、僕とギンの食べる分があれば、他は売りますよ、適正価格で」
「わー!嬉しいよ!アイツなら、いくら高くても買うから問題ないよ!」
ひたすら狩るの苦痛だったんだよね、とランスさんはとっても良い笑顔だ。
そのまま彼の泊まる宿屋に連れて行かれた。
その、宿屋があまりに立派で大きかったので、僕の早く魔法書を読みたい気持ちはどこかへ飛んでいった。
ひええ、フォルナルクで一番高い宿じゃない?ここ。前世でいうところのホテルに似ている。
中へ入ると、フロントマンらしきスーツに身を包んだおじさまが、ランスさんと目を合わせてニコリと微笑んだ。おわ、常連客らしい。余裕っぷりが窺える。
「ここの料理長がね、前に話した雷ファングボアを欲しがっている人。ヘイドーン!」
ランスさんは大声で呼びながら、ずかずかと厨房へ乱入していった。この大胆さは僕には無いなと思いながらついていくと、大柄な……肉も筋肉も両方しっかりあるタイプの男性がいた。壁みたい。それも、壁の中でも特別しっかりした城壁タイプ。
「ヘイドン、良い知らせだよ。ついにゲットしたよ!この子が!」
ずずいと前に出されたので、ぺこりとお辞儀をする。
「ロキです、初めまして、ヘイドンさん。ランスさんから、雷ファングボアを求めていらっしゃると聞いて……」
「ぬぁんだと!ついにか!良かった、間に合ったぁぁぁ!」
むちむちのごつい腕でガッツポーズをし、たまらなく嬉しそうだ。案内されるままに解体ブースに雷ファングボアを出すと、余りに綺麗な状態にビビられた。
「これ、生きて……ない、よな。そうだよな。傷口は?……え、ここ?殆ど一撃……。すげー腕だな、ロキ様だな」
「え、いえ……あの、出来れば、僕も食べてみたいんです。だから、僕とこの、ギンの分のお肉は残してくれますか?」
「勿論だ、調理もしようか?腕によりをかけて作ってやる!肉以外の部分はロキに返す、でいいな?」
「はい、そうして下さい」
雷ファングボアは滅多に市場に現れないらしい。確かに、出る確率は低いし、倒した人が魔法鞄を持っているとは限らない。
それでもヘイドンさんが求めていたのは、近いうちに貴族が来るとかで、高級肉を仕入れたかったのだと。それも、地元で出る素材で。
「雷ファングボアはもうな、ものっ、すげぇ、……ふわぁぁ~と柔らけぇ。少し焼いただけでもぎゅっ……、と濃縮した肉汁がぶっわぁ!って溢れてなぁ。それだけで既に最高に美味いんだが、そこに俺特製のスパイスとソースをかければもう、多分、気絶するぜ」
「うわぁ、とっても楽しみです!いつ、調理されるのですか?」
「解体したら、いつでも。お貴族様は……三日後だったか。なに、これほどの肉なら『保存』かけるよう依頼するから、新鮮なままだ」
ほう、それはいい事を聞いた。『保存』魔法はお金になるらしい。僕は薬草を提出する時、紐に保存魔法をかけているけど、あれお金取れるんだ。
僕らは数日後にまた伺う約束をした。
そして今は、ランスさんの泊まっている部屋を見学しに来ている。
「机がピカピカ……傷つきそう……水差しがこんなに繊細な……すぐ壊れちゃうじゃないか……えっ、お風呂場がある!すごい、魔道具?えっ?」
「落ち着いて、ロキ、はい、すーっ、はーっ」
「落ち着いてますっ!ただ、普通の宿屋と違いすぎて……!」
「そうだね、綺麗だし、快適だよー、高いけど」
「そうですよ。こんなところに泊まれるなら、あのイヤゴー村でも、わざわざあんな普通の宿屋に泊まる必要は無かったのに……何で?」
ランスさんは、憮然とした顔の僕をくすくす笑うと、考えながら話し出した。
「俺は快適なら、高くても安くても構わないんだ。あの村の一番宿は、高い割に居心地悪かったんだよねぇ~。でも、ロキのところはとても良く掃除してくれて、素材自体も料理もとても美味しかった。それに、長く居座っちゃったのは……ロキが日に日に強くなるのを、育てていて楽しかったから」
「え……僕?」
「そう。あの宿屋一家から酷く邪険に扱われていたのに、腐ることも、卑屈になることもなく、淡々と素振りをしてたよね。今はあの時と顔は大きく違うけど、ロキのその強さとか、素直な心は変わらない。ずっと、末恐ろしい子だなって思ってたよ」
頬杖をついて、整った顔でふふと笑うランスさん。なにかゾクっとした悪寒を感じて腕をさすっていると、気付けば手を取られていた。
「?」
そのまま、浮遊感。背中に柔らかな毛布の感触。
……え、早すぎて、一つも反応出来なかった。
「本当、まだまだ子供だし、将来楽しみな弟子だし、手は出さないって思ってたんだけど……こうも美しく成長されたら、ねぇ?」
色っぽく笑ったランスさんの目は、笑っていなかった。僕に覆い被さって、すぅっと指で、首筋を撫ぜられていく。
「わぁ、めっちゃいい匂いする……、花みたいな香り。ロキ、本当に変わったね」
僕の両手は片手一つでまとめ上げられ、もう一つの手は腰の辺りを探って、シャツを捲り上げられた。
「え、え、嘘でしょ、ランスさん……!」
「んーん?だって、青年になったら絶対、傾国の美姫になりそうなんだもの。その前に捕まえておかなきゃね……?」
ぽち、ぽち、と片手で器用にボタンを外していく。ええっ、理解が、追いつかない。だって、さっきまでそんな雰囲気は。
動けない僕にも、そろそろ恐怖が這い上がってきて、ぶるぶると震え始めた。僕のベルトを勝手に抜いて、弄るランスさんの手。
「はぁ、その潤んだ紫水晶の瞳。抉り出して飾っておきたいくらい。きらきらの銀髪も、すべすべの白い肌も、引き締まった体も、……最高のご馳走だね」
「う、わ、嘘、……嘘、ランス、さんは、そんな……」
とうとう涙目になった僕に、ランスさんはふうと息を吐き、ピコンと額を指で弾いた。えっ、と思えば、先ほどまでの淫靡な雰囲気は吹き飛んでいる。
「ロキ、ね。もっと警戒して。女の子相手なら警戒心強いのに、男には無防備すぎ。男なんてもっと危ないんだよ?」
「は、え……?」
「君は強いけど、俺みたいな上のランクの男に抑え込まれたら、こうだ。そもそも、個室に二人きりなんて襲ってくれと言わんばかりだよ。もっと自覚して?その容姿は男をも惹きつけすぎる」
「そうなんですか……?」
まだ、心臓がバクバクいっている。ポイと返されたベルトを付け直し、ボタンを留めて、ようやく息を吐く。それでも、まだカタカタと指先が震えていた。
「はっと目を引く美貌も、一瞬で魔物を屠る剣技も、見たことのない魔法も、貴族はみいんな大好きなんだ。しかも、親もいない。攫って襲ったところで被害を訴える後見人もいない。……少しは、男に対する恐怖心を覚えた?この先の事だって、ヤられる可能性、あるんだよ、今の君には」
「は、はい……!も、もう!怖かったです!びっくりした!」
「ごめんね、でもホイホイ着いてきたし」
「だってランスさんですし……」
「それだよそれ。油断しすぎ~!抵抗すらしなかったね。あわよくばパクッといってたよ俺」
「パク……」
呆れたような顔をするランスさんは、もう、普段通りのランスさんだった。今のは……教育的、指導だったんだ……?
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