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しおりを挟む初心者の迷宮から帰った僕は、冒険者ギルドに向かい、シガールさんに納品した。
「このハクラン、とても良い質ですね……!まさか、この紐、保存魔法付きですか。素晴らしい。ええ、素晴らしい。優良です。これは間違いなく優良です!」
ハクランを手にしたシガールさんは、鼻もくっつきそうな至近距離であちこちから眺め回している。
「これだけ大きく美しい、魔力の篭ったハクランなら、守り蛇が大きかったんじゃないですか?もっと小さいのでも任務としては大丈夫だったんですよ。良くご無事で……」
「そうですね。思ってたより大きかったです」
「アッサリしてますね……。お怪我もしていないようで、良かったです。こちらの迷宮アップルも、もぎたてのような新鮮さですね。傷も無く、素晴らしい。大体ね、帰り道の背嚢の中でもみくちゃになって傷がつき、価値が下がってしまうことが多いのですよ」
「あー、そうなんですか。魔法鞄でないと厳しいかもしれませんね」
「そうなんですが、初心者の迷宮に魔法鞄を持つような人は潜りませんからね……」
「ランスさんは見ましたけど……」
「お知り合いなんですか。ええ、彼はとても良い青年で……」
シガールさんとは話が尽きない。わいわいと話していると、隣のカウンターにリリアンナさんが立った。
「あの、ロキさん……」
おずおずと話しかけられたので、首を傾げて目線を合わせる。リリアンナさんは頬を紅潮させて、困り眉を作った。
「先日は、本当に申し訳ありませんでした……。私、ロキさんがすぐにランクアップするって予感していて、それが現実になったものだから興奮してしまって。個人の情報をペラペラ喋るようなことをして……ごめんなさいっ!」
「はい、いいですよ、それくらい。いずれ分かる事ですしね」
「ありがとうございます……っ!優しい!」
「ふふふ、全然です」
ユノさんという、仲間を選り好みする上大切にしない人にしつこく勧誘されることに比べれば……、僕の許容範囲は広がっているのかな。
「あ!そういえば、しつこい勧誘ってやめさせる方法はありますか、シガールさん」
あー、という顔をして、シガールさんは顎に手を当てた。リリアンナさんもあちゃー、と引き攣った笑みを浮かべている。
「ユノさんのことですよね。新人冒険者たちの中でも噂は広がっていますよ」
そうリリアンナさんはしかめ面をして、シガールさんは仮面のような無表情で言う。
「彼女は『寄生』しようとしていて、優しそうな男のメンバーばかり狙っているようです。まぁそれでもいいと、互いに納得しているのなら言うことは無いのですが」
「先輩冒険者に連れて行かれているのを見ました……」
僕はそういいながら、良心の呵責など一切ないことを隠すように目を伏せた。
「まぁ、誰しもが通る道ですから……、私もかつて少年時代はありましたねぇ。彼らもギリギリ犯罪までは犯さないようにしていますから、なかなか捕縛までは出来ないんですよね……」
「少年時代……」
「彼女を更生させてくれると助かりますが、そう上手くいく可能性は低い。さて、ロキさん。いくつか方法はあります」
「聞きます!」
「一つは、彼女に他のパーティーを紹介する。この悪評でも受け入れてくれるパーティーとなると、素行が悪い所になるので、彼女の方が嫌がる可能性が高い。一つは、決闘を申し込む。勝利報酬として、付き纏わない、今後やったら警邏隊に突き出すなど、契約する。これは可能性はありますが、決闘自体を拒否されるかもしれないので、上手いこと焚きつけなければなりません」
「そうですね。ロキさんとユノさんでは実力差がありますから……勝てっこ無いと、嫌がるかもしれませんね」
「でも、その方法は僕好みです。多少怖い思いをさせたら、もう来なくなるでしょうし……」
ふむと考えていると、シガールさんとリリアンナさんの顔がピクリと引き攣った。
「ロキさん、私たちは知っているんですよ。あなたに初日に絡んで指導料を強請った人、恐怖で再起不能になって他へ移動していきましたよ。一体何をしたんですか……」
「えっと……最初が肝心かなって……へへ」
「ぐっ、かわいい……ご、誤魔化されませんよ!」
そういえば、もう忘れかけていた五人。そのうち、叩きのめしたのが二人、急所を潰した奴が二人、手を串刺ししたお漏らしさんが一人、だったかな。
教会に行って寄付を積み、治癒魔法をかけてもらえば、潰れた箇所も復活するだろうし、そこまで全身ボコボコにした訳でもないから、軽く捻ったくらいだと思っていたけど、違うのだろうか?
そう聞くと、シガールさんは頭を痛そうに抱えていた。
「治癒魔法の寄付金の相場、知ってます?知らないですね、その様子では」
「ええ、行ったことないので」
「ポーションで治るようなかすり傷で銀貨一枚。骨折や酷い火傷などで金貨二枚。機能を損傷したり、欠損などの再生は……大金貨一枚からです」
ええっ。大金貨一枚って、一千万!高い。思っていたより高い。
僕、自分の傷はほぼ完全に治せるし、なんなら人の傷も治せると思う。というのもあって、軽めに見積もっていた。
何故そんなに高いのかと言うと、ポーションと違い傷跡も残らず治るから、みたい。ポーションだって傷跡残らないと思うけどなぁ。僕の身体がおかしい?
「アレを潰された二人と、他三人では失ったものが違いすぎて仲違いしたらしいですよ」
「ああ、そうなりますよね……わぁ、一つの素行の悪いパーティーが壊滅した訳ですね、僕によって」
「何だか良い風にまとめましたね」
「彼女にどれだけ報ふ…指導……ンンッするか、考えてみます。決闘は必ず、受けさせますから」
「出来るだけ穏便にお願いしますね……はぁ」
「任せてください」
ふむ、決闘でスッキリすると思うとワクワクしてきたぞ!
ハラハラ顔の二人はさておき、僕は意気揚々と宿へと帰った。
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