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迷宮攻略も二日目!

しっかりと宿屋で湯船に浸かって疲れを取り、初心者の迷宮へと向かう。転移とか出来ないかな、と思ってやってみたが、迷宮まで然程離れてもいないのに、かなり魔力を食いそうなのでやめた。

一歩先、三歩先と、目に見える範囲なら出来た。けれど、距離が遠いと難しい。マシロに明確に『ここ!』と伝えにくい。転移するポイントのような場所を探しておくことにしよう。
それに、転移に頼りすぎると足腰も弱りそうだものね。フォルナルクに滞在中は、あまり必要じゃないのかも。




昨日うろついた所から改めて探索をすると、意味あり気な、重厚な扉に守られた部屋に行き着いた。そこにはもう何人か待機していて、扉が開くまで順番待ちしているらしい。

認識タグがEだと言うと、少し優先してもらえた。Fランクだと戦闘に時間がかかるからだそう。
上級者なら然程待たないで済む、というのは納得の理屈だ。


中に人がいる場合は、扉に嵌め込まれた小さなガラス部分から分かるみたいで、そこには人が群がって観察していた。
うわ、そうか、手の内はあまり見せずに戦った方がよさそう。それか、何かで小窓を塞ぐか。

程なくして僕の番が来て、部屋に入ると、赤い猪。
レッドファングボアがいた。

突進より先に炎球を飛ばすくらいで、僕は難なくそれを避けると飛び上がり、自重を利用して心臓を貫いた。

戦闘時間、15秒。も、かからなかったかもしれない。

まぁ、まだ第一層だものね。得意気になってはいけない。

レッドファングボアはスパイシーな味のするお肉だったと思う。調味料の中でも唐辛子のような、香辛料は割と高いので需要が高そうだ。

階層主を倒したご褒美で宝箱も出てくる。ギンに開けてもらうと、中身はポーションひとつ。体力回復ポーションだ。あんまり要らないけど、一応保険として持っておこうかな。
大切なお肉とポーションを、背嚢に仕舞う振りで収納していると、下層へ続く扉が開いた。

長い長い階段を降りると、そこは青空が広がっていた。
混乱する僕を嘲笑うように、やたら禍々しい蝶々が視界を横切る。絶対迂闊に近寄ったらダメなやつだ……。


そこは穏やかな森が広がっていた。変わりすぎじゃない?


なるほど。迷宮内は全て統一されている訳じゃないみたい。同一地点の地下に潜っていくイメージがあったけど、実は全然違う空間にいるのかもしれないし、こういうものだと思っていないとやっていけない、そんな気がする。

僕はガサゴソとポッケをひっくり返し、もう一度依頼票を見返す。

『ハクランの採取:新鮮なものに限る、大小不問、20本』
『迷宮アップルの実の採取:最低10個、多いだけ買取ります』

今まで石壁を目にしていたから不自然に感じていたけど、こう、森なら納得である。
迷宮に生えるものは地上のものより味が濃いらしい。沢山取れたら自分用にしよう。

甘いものに飢えている僕は、果物が大好き。お金を稼げるようになっても、まだまだ余裕とは言えないし、甘味は高くて気後れする。
果実の良いところはそれだけで一つの味として完成されているところと、タダでもぎ取ってこれるところだ。お金に余裕が出来たら、ケーキやクッキーも食べたいな。


魔物と人間の他、魔力を含む薬草や木の実を感知しながら進む。罠は突然の落とし穴の底に、待ち構える剣山や、木の根にひっかかると縄に捉えられて永遠に鳥に突かれるとか、森感溢れるものに変わった。

僕の対処法はというと。


『ここ、剣山あるよ~』
「ありがとう!ギン、助かるよ」


と、ギンがいるので剣山の位置は容易く分かるし、仮にギンが縄に捕まってもにゅるりと抜け出せるから何の問題もなかった。

何度か複数種類の薬草を採取して、ようやくハクランに出会えた。もう覚えたぞ、この魔力!

ランとは蛇に好かれる花らしい。そこにいたのは、守るような仕草をする、5メートル以上もとぐろをまいた蛇。

ランスネーク。一度決めたランを恋人のように守る特性を持つ。ううん、ここまで大きいランスネークとは思っていなかった。精々足で潰せるくらいかと。

そう怖気付く僕を見抜いたのか、鮮やかな紫と緑色の縞々を身に纏ったランスネークは、僕の喉笛を噛み切ろうと迫った。それを必死で避けつつ、亜空間収納から眠り薬を取り出し、霧状にして撒く。

幾度か攻撃を交わしていれば、段々と動きは鈍くなり、毒々しい色のランスネークは眠っていった。その間に、僕はハクランを20株と少し、採取させて頂く。

ハクランの群生地を守る蛇。というのは何だか神秘的で、好ましい。だから、僕はハクランを少しだけ分けてもらった。


『根こそぎ取らなくていいの?』

「んー、なんか、他人の大切にしてるものだと思うとね。ハクランは、ここだけじゃないだろうし」

『ロキは優しいねっ!しっかり取ってるけど』


だって、Eランクの依頼だからね。こんなデカいしつこそうな蛇と闘うには割に合わないよ。

とても艶々した白い花弁が萎れるのは忍びなくて、根っこを湿らせた脱脂綿で包んだ上、束ねた紐に『保存』の魔法をかけた。これで、薬師が紐を解くまで新鮮な状態を保てるだろう。









迷宮アップルは、人工で栽培しているアップルとは違い、たっぷりの蜜を含むらしい。

蜜を含むということは、魔素をたくさん含むと言う事だ。僕は脳内マッピングで簡単に見つけ出すことができた。

ただ、問題なのは、それを好む魔物の処理である。
一匹一匹は大したことのない、バタフライやキャピタル。
それが無数に、しかも前世で見たサイズとは比べ物にならないほど大きいものが襲ってくるのは、正直、気持ちが悪い。


「……っ!」


果樹園への侵入者と認識された。
一気に標的にされて無心でバッタバッタと切り捨てていると。


「…………君は……?」


聞き覚えのある声。
え、と思って振り向くと、相変わらずの王子様然とした、ランスさんがいた。








「いや、そうかぁ、ロキかぁ。びっくりした。こんな美少年になっているだなんて」

「僕だって、驚きました。ランスさん、長いことイヤゴー村にいたから」


二人で虫の大群を処理した後、迷宮アップルを齧りながら、収穫していた。僕は背嚢――魔法鞄に見せかけた亜空間収納に、ランスさんは本物の魔法鞄に。


「いや、なんか居心地悪くなったから、移動して来たんだよ。で、ぷらぷらしてたら雷ファングボアの肉が欲しいって、宿屋の奴が言うから取りに来たんだ。ここの迷宮は初めてだし、散歩がてら」

「そうなんですね。やっぱり、あの宿屋はダメになっちゃいましたか?」

「そうだねぇ、君がいなくなってからボロボロだし、マリーちゃんは必死に『お嫁さんになる!』とか言い出すから、俺困っちゃって。ははは」

「全然困ってなさそうですね」

「まぁ、この顔とも付き合い長いから。ロキも、苦労しそうだねえ」


よしよし、と頭を撫でられる。理想のお兄さんのようなこの人は、7歳からの付き合いだ。20代前半かと思っていたら19歳、僕の9つ年上でしかなかった。ええっ、すごい。なんというか、経験の豊富さがこの人を大人っぽく見せているのかな。

ランスさんは僕の泥ねずみ姿しか見てないから、このつるりとした顔に気付くはずないと思っていた。
何故気づいたのかと聞けば、僕の太刀筋を見て本人特定されたみたい。恐るべし、ソロBランク冒険者。


「今までにも良く見てきたよ~、マリーちゃんみたいな子は、とっても多いんだ。愛されて、やる事なす事肯定されて、全てが思い通りに行くはずって思ってるコ」


そのしみじみとした言葉に、ユノさんを思い出した。自分の可愛さに、愛される事を微塵も疑わなかった。確かに、少し似ている。

ランスさんの目が少し、鋭くなる。


「一度でも助けたり恩を感じさせたら、絞り切るまで離さない。一度でもうっかり失言でもすれば、妻みたいな顔をする。だからね、ほんと、気をつけなね。ロキ。君、本当綺麗な顔してるから。」


首を傾げてランスさんの目を覗き込めば、死んだ魚みたいな瞳をしていた。え、何があったのだろう。



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