泥ねずみと呼ばれた少年は、いっそ要塞に住みたい

カシナシ

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魔力反応は5。一つはファングボアのもので、他4つは人間だ。割と近くにいる。

急いで向かうと、三人の男の子たちがファングボアと交戦していて、彼らの後ろに女の子……って、ユノさんだ。

弓使いの男の子は、ファングボアにっているし、剣士の子も奮闘しているけれど、浅い傷しかつけられていない。分厚い脂肪に跳ね返されている。

大楯で体当たりをしている体格の良い子は、良い動きをしていた。けれども致命傷を与えられない様子。


「助けはいる?」

「……っはい!お願いします!」


剣士の彼は、自分では倒せないと判断したらしい。僕はちゃんと返答を聞いてから、ブモブモと鼻息の荒い猪の心臓をひと突きした。

何だかこの剣、ギンに作り替えさせたら凄く調子が良いんだよね。不思議と。ぬるっと斬れるから気持ち良い。

一瞬で片がついたのを、彼らは呆然と見ていた。あちこちかすり傷は負っているようだけど、大怪我ではなさそう。僕はほっと安心のため息をついた。


「はぁ、はぁ、……っん、ありがとうございます」

「助かりました。えっ、ウソ、もしかして、同じくらい……です……?」


大楯の子が、僕を見て不思議がっているようだ。彼よりも僕はかなり小柄だからだろう。


「うん、10歳です。君たちも?」

「ええっすごい!そうなんだ!僕らもね……」

「あたしも10歳なんです!ロキくん、また会いましたね!やっぱり素敵ですぅ!」


ずずいと割り込んできたのは、それまで存在感を無にしていたユノさんだった。男の子達は途端にむっと顔を顰め、彼女を睨む。


「ユノちゃん、君、何にもしなかったじゃないか!あれだけ、杖術が得意って……!」

「そうだぞ!しかも、迷宮内で叫ぶなんて、他のボアも寄ってくるような真似をして!」

「なによ、あたしが叫ばなかったらロキくんは来なかったの!危なかったくせに!」

「なんだと!?」


目の前で喧嘩をし始める彼らに、何となく察する。離れてもいいかなと後ずさった時、ユノさんは逃すまいと言わんばかりに腕に巻きつこうとした。すすすっと避けて、大楯の彼の後ろに隠れる。


「ロキくぅんっ、やっぱりあたし、あなたじゃないとダメみたいで……っ!この人たち、全然頼りにならないんですぅ……!」

「なに?!もう、そんな事を言うなら置いてくぞ?!あれだけ頼み込まれたから入れてやったのに!」


主に剣士の子とユノさんが言い争う。僕は結界でユノさんをガードしつつ、男の子たちに言った。


「このファングボアは君たちに譲ります。たくさん傷ついているし、あまり高くは売れないだろうから。それより、パーティーメンバーは信頼出来る人を選んだ方がいいと思います。後ろから刺されても納得出来るくらい、ね」


僕の言葉に、男の子達は気まずそうな顔をした。三人だけなら良いパーティーだと思うのだけど。

ユノさんの実力は分からない。分からないけれど、一般的に、他のパーティーメンバーに負担を強いて何もせずに『魂の強化』を狙う行為は、『寄生』と言って嫌がられる。よく宿屋で酒のツマミにされていたもの。


「ほーんと、そうですよねぇっ!ロキくん、さすがっ!」

「僕は君には言っていないですよ……」


ユノさんはどう捉えたのか、彼女にとって彼らが信頼に値しない、と解釈したらしい。何故か僕の隣にドヤ顔で立っていた。え、何、なんで?


「君たち、僕はそろそろ帰るけど一緒に帰りますか?ギンもいるし、命を失うようなことはないと思います」

「いいのっ?!ぜひ、お願いしますっ!」

「助かる!オレたちにはまだ、迷宮は早かったみたい、だ……」


皆んなで帰路につく。さりげなく彼らの真ん中に入って、ユノさんから離れた。
それからユノさんが何か話しかけようとしても謎の団結力で遮って、ギンの可愛さと有能さを自慢したり、道中現れたファングボアを、狩り方を見せると歓声が上がった。は、恥ずかしい。

三人は特に、ギンが先行することで数々の罠を回避出来たことに、ひどく感動していた。


「従魔って凄いんだ……!ぼくも興味出てきちゃった」

「オレも。すごすぎる!」


褒められて逆三角形になっているギンを撫でる。
申し訳ないけど、ギンほどの従魔を手に入れるのは困難だろうなぁ。罪悪感を感じて苦笑いをする。


「君たちも良い出会いがあるといいですね。僕たちみたいに」


そうふわりと笑うと、四人ともが顔を赤くしてそわそわしていた。普通のスライムは、ギンほど強く無いからね。この時の僕は、ギンと同じく誇らしげな顔をしていたかもしれなかった。













冒険者ギルドの前まで来て、僕らは別れた。僕はまだ自分の依頼をこなしていないし、彼らはパーティーからユノさんを外す手続きをするらしい。

なんとなくフードを被らずにいたまま帰ってきたけれど、ユノさんがずーっとずーーっとガン見してくるからとても煩わしい。


「ね、ロキくん、ユノ、何でもするから……パーティー組も?」

「断る。僕に自殺願望はないので」

「何でぇ……?あたし、可愛いでしょ?」

「……………………」


いい加減にしてくれないかな。と、そう思った時だった。


「ユ・ノ・ちゃーん。今月のお代、頂いてないよー?」


濁声がユノさんを捉えた。ヒィッと息を呑んだユノさんが僕の後ろへ隠れるより先に、太い長い腕がユノさんを掴む。


「あっれー?この子は……、あっ!ヤバイ!君には用はないからね!ユノちゃん、ささささっ!こっちに行くよ!」

「いやっ!嫌ぁぁっ!助けて、ロキくん!!」

「え、ボス、こいつは」

「水色ローブの新人は手を出すなって!ヤベェサイコなんだって!」

「ひぃっ」


ポカン。と惚けている内に、嫌がるユノさんを抱えて男たちは風のように消えていった。その間、5秒。

あー、そうだった。新人のうちって、素行の悪い先輩冒険者に『保護代』みたいなものを払わなくちゃいけないらしいね。僕はコテンパンにしたので見逃されているのだろう。それにしても『サイコ』とは失礼な。

ユノさんはこれからどんな目に遭うのか分からない。けれど、あまり性格の良くない僕は、助けようとも思えなかった。
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