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23 Eランク 初心者の迷宮
しおりを挟むシガールさんに聞けば、GからEへ飛び級する例は、割とあるらしい。元々実力はあるけど、事情があって冒険者登録するのが遅くなった人とか。
だから悪目立ちすることはないと思った。のだが。
「わぁあっ、凄いですね!ロキさん!この短期間にEランクに飛び級だなんて!さすがです!」
そう言ったのは、隣の受付にいたリリアンナさん。大きく高い声は良く通って、それに反応した人たちがザワザワと顔を上げ、僕を見つめる。うわわ、面倒だな。
「……すみません、ロキさん、私、少し、指導、してきますね。失礼」
「ええっ、ちょっと、サブ、うぷっ、ちょっ……」
シガールさんは能面のような笑顔のまま、素早くリリアンナさんの首根っこを引っ掴んで説教部屋、もとい、奥の小部屋に連行していった。
仕事が早くてなによりです。ちーん……と拝んでいると、そそくさと近寄ってきたのが、もう一人。
「ロキくん、凄いね!やっぱり、凄い人だったんだぁ!」
そう言うなり抱きつかれそうになり、サッと躱す。
「?!えっ、いったぁい……?」
ゴン、と鈍い音を立てて転んだのは、ユノさんだった。
どうしてこんなに構うんだろ?早く他の人見つけて誘う方が早いし、確実だろうに。
そんな彼女は放っておいて、改めて掲示板を眺めに行った。
Eランクに上がったので、Eや、もう一つ上のDランクの依頼も受けられる。
迷宮関連の依頼も存分に入っていて、比較的易しそうな、迷宮茸や迷宮果実の依頼を受けることにした。期限は特にない、常設の依頼だから、初めて迷宮に入る僕にはいいだろう。
「えっ、ちょっと、無視しないで……!ロキくんったら!」
「あの、依頼をお願いします」
「は、はい、大丈夫ですよ」
こっそり結界を張ってユノさんを完全にガードしつつ、受付嬢に依頼票の処理をお願いした。うん、これでもう用は無い。
「もう、ロキくん、迷宮行くなら是非、ほんとにほんとに一緒に……!」
「人の話を聞かない人と、話すことは無いです」
僕は最後にそれだけ言って、ダッと走って逃げた。
はあ、ユノさんがいるなら冒険者ギルドに少し……ちょっと……行きたくなくなってしまう。
ちょうどいいや。そう思った僕は、翌日、一番近くの迷宮に向けて出立していた。
どこまで自分一人で出来るか挑戦もしない内に、パーティーは組みたく無い。組む時は、一人では限界だと思った時だ。正確には、一人と二匹か。
僕は一通り装備を確かめる。今日は日帰りの予定だけど、不測の事態に備えて野営の準備も。
こういう時、本当に亜空間収納を拝みたくなる。重たくならない、嵩張らない、盗まれる心配もない。魔力消費は僕にとっては微々たるもの。魔力が多くて良かった。マシロという、多分、格の高い精霊に加護してもらえたおかげだ。
一日の終わりに余った魔力を使って、日々収納スペースを広げている。じわじわ、ゆっくりでも、確実に。
今テクテクと向かっているのは、フォルナルクから徒歩15分程度の所にある、低難易度の迷宮。
それは一般的に『初心者の迷宮』と呼ばれている。
どの町にも大体一つはこの『初心者の迷宮』がある。出る魔物の種類は違っても、Eランク程度の冒険者が探索するのに最適な迷宮だ。
親切だよね。迷宮を作るのは魔界の仕業らしいのだけど、こうして難易度の低いものから高いものまで作ってくれるから、僕たち冒険者は実力に見合ったものを選ぶことが出来るというわけ。
迷宮が攻略されると、中の難易度は徐々に下がっていく。そうして最後には消滅するのだけど、そのスパンはとても長いとされている。だって、この初心者の迷宮も、フォルナルクが出来る前からあるらしいからね。
町から近いとはいえ外壁の外なのは、迷宮から出てくる魔物もいるから。魔界と在界との接続は迷宮の最下層だけなのに、迷宮以外にも魔物が生息している理由の一つだ。
初心者の迷宮ではまず無いだろうけど、魔物の異常暴走、スタンピートと呼ばれる現象が起こることもある。
その時、迷宮の入り口が町の中にあったら……、目も当てられない。
だから町にとって収入源であっても、街の外に出しておくのだろう。
とは言え、初心者の迷宮までは広く道が拓けていて、馬車も通れば、物を売り歩く商人もいる程栄えているから、あまり町の外という感じはしない。
朝は早いけれど、初心者の迷宮に潜る人たちが入り口に群がっていた。
ぴょこんと伸び上がって覗くと、ギルド職員らしき制服を着た人が、入退場を管理していた。
その正面に立て札がかけられていて、罠に関する情報や、内部での盗難・殺人に注意しろと書かれていた。怖ぁ。
文字が読めない人も多いからか、ギルド職員は僕にも説明してくれた。
「迷宮の魔物は外の魔物とほとんど同じだけど、無限に産まれてくるんだ。だから心置きなく始末していい。この中では、死体は一定時間経つと迷宮に吸収されてしまうから気をつけて」
「魔物が?人もですか?」
「そう、人も。だから、殺人には気をつけてね。証拠が残らないんだよ。あと、初心者向けだけど罠はしっかりあって、宝箱なんかは不安だったら開けない方が良い。即死することもあるから」
「えっ……結構厳しい作りですね。気をつけます」
中で死んだらどうなるんだろうと思っていたけれど、魔物と同じく吸収されるらしい。そしてどうやら、下手な魔物より人間の方が警戒するべき対象のよう。
今日は様子見なので、宝箱を見つけることは出来なくとも、魔物と人間両方に気をつけることに慣れようかな。あれ?いつもの延長のような気もする。
認識タグを四角くてゴツい魔道具に翳して、送り出される。
事前に調べたら、この迷宮は三階層しかなく、魔物もファングボア各種が主で、他は虫類が少し。
それなら肉屋が大盛り上がりする所だが、ファングボアは最低でも僕の体重より重いくらいあるし、大きさも僕が丸まったサイズと同じか、それ以上。
そのため、魔法鞄のない初心者はほとんど持って帰
れない。
魔法鞄を持つような中堅冒険者なら、難易度の高い迷宮の方が稼げるから、ここには来ないだろう。
血抜きして、解体している途中で消えてしまうなら、魔物を倒し、力をつけることを目的とした方が良い。
そう、経験値という言葉は無いけど、魔物を倒すと、『魂の強化』がされる、と言われている。
僕はまだ、それを感じたことはないから半信半疑だ。フォルナルクに着くまで、雑魚とは言えどかなりの数の魔物を倒しているのに、誰しもがわかる『魂の強化』がわからないので、僕は特別たくさん必要なタイプなのだろう。
魂の強化がされると、力がついたり、体力がついたり、魔力が上がったり、様々な恩恵を得られる。
それを待ち望み、冒険者たちはせっせと魔物を倒すのだ。
この迷宮の入口はまるで、森に出現した大きな洞穴。
その洞穴を潜ると、何か膜に包まれたような感触がして、『あ、あの防音の魔道具と同じ感覚だ』と思った時には、目の前に灰色が広がっていた。
石壁。
所々苔むしており、少しの湿気と、カビ臭さ。
フードを取って視界を確保しても、それでもとても暗い。マシロにお願いして、光の球を作って浮かばせてみた。
ふよふよと浮かび、僕の前を照らす。あまり強すぎないちょうど良い光源に調整した。
「小さいギンみたいだね。あ、少し前のマシロにも似てる」
『ギンは、ギンも、少しは光る……よ?』
『あれはたまごだったから!仕方ないの!』
「ギンは光らなくていいんだよ。マシロって卵生だったんだね……って、それより、罠とかあったら教えてくれる?マシロもお願いね」
『うん!任せて!鉱物で出来た罠ならすぐわかる!』
『うんっ!魔力で出来た罠なら任せて!』
「ああ、そっか……魔力で出来た罠なら、僕でもわかりそうだね」
魔物、人間の他、壁などに含まれる魔力なども脳内にマッピングされる。便利過ぎるな、魔法。こうもイメージしやすいのは、やっぱりあの友人に借りた小説が分かりやすかったからだろうか。
ありがとう。もう、名前も思い出せない友人。
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