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明けて翌日。十分気を養った僕は再び冒険者ギルドにいた。
そろそろ迷宮にでも行って力試し……もとい、稼ぎたいなぁと思って掲示板を眺めた。しかし、GやFランクに、迷宮関連の依頼などなく、無意味に唸っていると、元気な声をかけられた。
「こんにちは!この間はありがとうございました!」
そうニコッと笑う彼女は、一昨日助けた女の子だったと思う。ええと、……何の用だろう?
「こんにちは」
当たり障りなく微笑むと、顔を赤くしながらもチラチラと僕を見つめる。
「えっと、その……ロキくん」
あれ、僕の名前を、どうしてこの子が知っているのだろう?シガールさんが呼んでいたのを聞かれていたのかな。
「あたしと、パーティーを組んでくれないかなっ?」
「ごめんね」
あ、脊髄反射で断っちゃった。彼女はポカンとした顔で僕を見つめる。
「え、……えっ?うそ、あたしと、だよ?嫌、なの……?」
そう言って泣き出しそうな顔をした。みるみる内に涙を溜めていく瞳に、小さな子を虐めているような気持ちになるけれど、多分この子、同い年だよね?冒険者になるには10歳以上じゃないといけないもの。
「ええと、僕、誰とも組む気はないんです。他を当たって下さいね。君の名前すら知らないですし」
「ユノですっ!こないだ、そう言ったのに……!」
「そう。ユノさん。僕は誰とも組まないし、組んだとしてもユノさんとは組みたいと思わないので、他を当たってくれますか?」
そう、同じことを二度、出来るだけ淡々と告げた。
少しキツイ言い方になってしまったのは、彼女の媚びるような目を見て、宿屋のマリーを思い出してゾッとしてしまったからだ。
「……ええと、あたしと組みたがる人、多いんだけど……でもあたし、みんな怖くって……」
「?怖い?」
「ロキくんは、そんな目であたしを見ないって分かったし、……助けられた時、すごくカッコよかったし……一緒にいられたら、いいなって……」
はた、とフードに手をやる。ちゃんと、被っている。あー、そうか、この子を助けた時は草原に居たから、見られていたんだ。
僕はフードをきゅっと被り直すも、もう意味はなかった。もごもごと反論する。
「女の子だけのパーティーも少なくないですよ。よく知らない男と組むより、いいと思います」
「そ、それは…!でも、女の子だけだと、力が弱いから……」
どうしようかな。うーん、はぁ……とため息を吐くと、ユノさんはぴくりと肩を縮こませた。
女の子だけだと、力が弱い。
それは、僕も知っている。
事実、女の子の剣士で生き残っている子は、卓越した剣術を持つ、才能豊かな子たちだけ。そんな子は、男女関わらず勧誘されるし、共に戦う子に対して要求する技量も高い。
つまり、このユノという子は、それに漏れた子、だということ。
それに、力が弱くても魔力は平等だ。数年魔力操作に費やせば、女の子でも強くなれる。……というのは常識的な話。
彼女の話はずるずると長引いた分だけこちらが悪者にさせられそうだ。そう判断した僕は、もう何も言わずにその場を後にし、シガールさんの所へ向かった。ユノさんはついてこようとしたが、シガールさんが恐ろしい笑顔をしているのを見て後ずさった。
「……お疲れ様です」
「……そちらこそ」
「いや、ロキさん、フードを取った瞬間、大変ですね。私、知ってましたけど」
「……教えて下さいよ……僕、今気付いたんです、被ってないことに」
「はは、いいと思いますよ。被ってなくても。素敵なご尊顔を拝せますから」
「む……」
「それはそうと。この間の件ですが」
シガールさんはキリッとした空気を醸し出した。何か重要な話をするんだな、と僕も姿勢を正す。
「冒険者を助けると、救助代が支払われます。今回、被救助者も異論は無く、特に死亡したアリサさんのご家族から、遺体をそのまま持ち帰って頂いたことに関しての謝礼金、お礼の気持ちですね。これもいただいております」
「そんな事もあるんですね……」
「そう、でなければ、冒険者は他の冒険者を見捨ててしまいます。金銭のやりとりはギルドが仲介役となっています。ただし今回助けたのがFランクの冒険者だったので、さほど金額は出ません。冒険者は死んでも遺体を持って帰るのは諦めなくてはいけない事が多いので、アリサさんのご遺族からはかなりの謝礼金が出ていますよ」
そう言って提示された金額は、何と銀貨30枚。30万円だ。それに、彼女のパーティー三人と、ユノさんからの救助代、銀貨4枚も貰った。この救助代は冒険者ギルドが建て替え、彼らの支払いになるみたい。
「それから、ランクアップです。納品された物の数や質からいって、Fではなく、一つ飛ばしてEへとランクアップします。より高収入の依頼を受けられますよ」
そろそろ迷宮にでも行って力試し……もとい、稼ぎたいなぁと思って掲示板を眺めた。しかし、GやFランクに、迷宮関連の依頼などなく、無意味に唸っていると、元気な声をかけられた。
「こんにちは!この間はありがとうございました!」
そうニコッと笑う彼女は、一昨日助けた女の子だったと思う。ええと、……何の用だろう?
「こんにちは」
当たり障りなく微笑むと、顔を赤くしながらもチラチラと僕を見つめる。
「えっと、その……ロキくん」
あれ、僕の名前を、どうしてこの子が知っているのだろう?シガールさんが呼んでいたのを聞かれていたのかな。
「あたしと、パーティーを組んでくれないかなっ?」
「ごめんね」
あ、脊髄反射で断っちゃった。彼女はポカンとした顔で僕を見つめる。
「え、……えっ?うそ、あたしと、だよ?嫌、なの……?」
そう言って泣き出しそうな顔をした。みるみる内に涙を溜めていく瞳に、小さな子を虐めているような気持ちになるけれど、多分この子、同い年だよね?冒険者になるには10歳以上じゃないといけないもの。
「ええと、僕、誰とも組む気はないんです。他を当たって下さいね。君の名前すら知らないですし」
「ユノですっ!こないだ、そう言ったのに……!」
「そう。ユノさん。僕は誰とも組まないし、組んだとしてもユノさんとは組みたいと思わないので、他を当たってくれますか?」
そう、同じことを二度、出来るだけ淡々と告げた。
少しキツイ言い方になってしまったのは、彼女の媚びるような目を見て、宿屋のマリーを思い出してゾッとしてしまったからだ。
「……ええと、あたしと組みたがる人、多いんだけど……でもあたし、みんな怖くって……」
「?怖い?」
「ロキくんは、そんな目であたしを見ないって分かったし、……助けられた時、すごくカッコよかったし……一緒にいられたら、いいなって……」
はた、とフードに手をやる。ちゃんと、被っている。あー、そうか、この子を助けた時は草原に居たから、見られていたんだ。
僕はフードをきゅっと被り直すも、もう意味はなかった。もごもごと反論する。
「女の子だけのパーティーも少なくないですよ。よく知らない男と組むより、いいと思います」
「そ、それは…!でも、女の子だけだと、力が弱いから……」
どうしようかな。うーん、はぁ……とため息を吐くと、ユノさんはぴくりと肩を縮こませた。
女の子だけだと、力が弱い。
それは、僕も知っている。
事実、女の子の剣士で生き残っている子は、卓越した剣術を持つ、才能豊かな子たちだけ。そんな子は、男女関わらず勧誘されるし、共に戦う子に対して要求する技量も高い。
つまり、このユノという子は、それに漏れた子、だということ。
それに、力が弱くても魔力は平等だ。数年魔力操作に費やせば、女の子でも強くなれる。……というのは常識的な話。
彼女の話はずるずると長引いた分だけこちらが悪者にさせられそうだ。そう判断した僕は、もう何も言わずにその場を後にし、シガールさんの所へ向かった。ユノさんはついてこようとしたが、シガールさんが恐ろしい笑顔をしているのを見て後ずさった。
「……お疲れ様です」
「……そちらこそ」
「いや、ロキさん、フードを取った瞬間、大変ですね。私、知ってましたけど」
「……教えて下さいよ……僕、今気付いたんです、被ってないことに」
「はは、いいと思いますよ。被ってなくても。素敵なご尊顔を拝せますから」
「む……」
「それはそうと。この間の件ですが」
シガールさんはキリッとした空気を醸し出した。何か重要な話をするんだな、と僕も姿勢を正す。
「冒険者を助けると、救助代が支払われます。今回、被救助者も異論は無く、特に死亡したアリサさんのご家族から、遺体をそのまま持ち帰って頂いたことに関しての謝礼金、お礼の気持ちですね。これもいただいております」
「そんな事もあるんですね……」
「そう、でなければ、冒険者は他の冒険者を見捨ててしまいます。金銭のやりとりはギルドが仲介役となっています。ただし今回助けたのがFランクの冒険者だったので、さほど金額は出ません。冒険者は死んでも遺体を持って帰るのは諦めなくてはいけない事が多いので、アリサさんのご遺族からはかなりの謝礼金が出ていますよ」
そう言って提示された金額は、何と銀貨30枚。30万円だ。それに、彼女のパーティー三人と、ユノさんからの救助代、銀貨4枚も貰った。この救助代は冒険者ギルドが建て替え、彼らの支払いになるみたい。
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