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21 マシロの謎
しおりを挟む僕はすぐに、シガールさんに言って魔物大全を借りた。
借りる人は少ないらしく、『良い心掛けだと思います』とあの分厚い図鑑を貸してくれた。無料なんて、ありがたい。
知識を詰められるだけ詰めると、少し安心出来たような気がする。
シルバースライムの特性として、回避力が高いという事を学んだ。それはつまり、攻撃を察知する能力が高いという事。だからギンにお願いしておいた。
『僕を狙って攻撃されたら、防ぐか跳ね返すかして』と。
ギンは初めておつかいを任されたような誇らしい顔(?)をして、『任せて!』と意気込んでいたので、ギンに察知できる魔物や人間については問題ないだろう。
それから、毒消しポーションを中心に、魔力回復ポーションなども買い溜めておく。従魔のスキルとして、主人の使う魔法の劣化版を使えるらしいので、一日に何度かであれば僕の使う亜空間収納にアクセスできる。だから僕が毒で倒れたらコレ、魔力枯渇で倒れたらコレを飲ませてね、と指示をしておいた。
その指示はギンを不安にさせてしまったようだったが、命には変えられない。ギンがいて良かった。信用できる仲間がいなければ、このような指示はできないから。
そして、防具。
ギンに頼んで皮のベルトには、薄い鉄の板を内部に組み込ませた。なにがどうなってるって?僕にも分からない。
ズボンやブラウスも、一度ギンに取り込ませると異常に強くなった。繊維から変えられているのかもしれない。
このように、僕は『保険』をいくつも作ったのだった。色々考えすぎて疲れたので、今日は少し早いけれど、湯船に浸かる。
「ァアアア……」
『ほぁぁあ……』
ちょっと熱めのお湯。爪先から痺れるような熱が身体を包み、なんて気持ち良いのだろう。ギンも心なしか、ツヤツヤしている。
ぷかぷかと浮かぶギンに違和感満載だ。ただし、可愛いので気にしない。大きさも自由自在なら、体重も比重も操作できる……のだろう、たぶん。
ギンの横にはマシロもぷかぷかと浮いて、気持ち良いと揺蕩っている気持ちが伝わってくる。この調子でお風呂信者を増やしていこう。
汚れを浮かせたあとは、石鹸を泡立てて洗う、洗う。銀髪はますます磨きがかかるようになった。
天使の輪っかが出来るほど。もう少し稼いだら機材を買って、良い香りの石鹸も作りたいな。
お湯は部屋にある排水溝に捨て、湯船は乾燥させてから収納した。風属性魔法とはあまり相性は良くないけれど、『乾燥』は使える。魔法に詳しくない僕ではあまりよく分からないけれど、水の温度も調整出来るのだから、風の温度も調整出来るということだと思う。
その日は不思議な夢を見た。
一面真っ白な世界が、割れて。
怖いはずなのに、怖くない。
会いたかった人に、会える喜びで震える。
そんな夢を見た後、僕は目覚めてびっくりした。
「……マシロ?」
『うんっ!ロキの、マシロだよ!』
目の前には、宙に浮いた、小さな幼女。
ぽっこりと出たお腹。全体的に桃色をした、愛らしい少女が、白い花の中に座ってにこにこと僕を見ていた。
「えっと、マシロって女の子だったんだね……」
そうじゃないのに、混乱した僕の口からは至極どうでもいいことが漏れ出ていた。
『うんっ!だって、マシロはお花の精霊女王だもんっ!』
「精霊、女王……?』
「うんっ!こっちに出てくるのに、力を使っちゃって、ちっちゃくなったけど。ほんとうはエライのよ!』
決めた。今日は休もう。
僕の頭がどうにかしちゃったのでなければ、マシロの話は現実のこと。
マシロのよく分からない話を、とことん聞くことにした。
マシロと話したことをまとめると。
この世界は、『魔界』『在界』『精霊界』の三つがあるらしい。
在界だけが、他二つの世界と繋がっていて、魔界はここで言う迷宮の最下層が出入り口。精霊界は、在界の裏側の世界だそう。所謂平行世界というやつかな。
精霊は人間の魔力が好きで、人間のいる在界が発展すると精霊界も発展する。逆に魔物によって人間が滅ぼされると精霊も滅ぼされるため、人間を加護したり、お願いを叶えてあげることで、人間が魔物を倒す応援をしているのだとか。
驚いたのは、迷宮に現れる宝箱とか、セーフティーエリアなんかの謎は、精霊による『お手伝い』の一種ということ。逆に、罠は魔界の干渉によるもの。
それ、僕なんかが知っていい情報じゃない気がするので、口外しないことに決めた。
『ロキの魔力は甘くって繊細ですごいの。ちっちゃい時に熱出したでしょ?あの時から、見守ってきたの。ロキが野菜や薬草を育ててたから、大きくしてあげたのもマシロよ』
「えっ、そんな前から……!あの時に、僕の魔力が変わったから?」
思い当たるのは、前世を思い出したということだけ。それでマシロに目をつけられたみたい。
『うん!あたしだけじゃないよ、他にもいっぱいいた。だけど、あたしが一番エライから、ロキの魔力がどーんってなった時に真っ先に加護したの』
「どーん」
開封の儀のことかな。意識の無かったせいで、加護された時の感覚を覚えていないのが残念。
『もっとロキの側に行きたくて、精霊界から在界へ越えてきたのよ!だから、ロキの気持ちも言葉も分かるの。凄いでしょ?今はちっちゃいけど、もっと魔力をくれたら大きくなれるんだから!』
えっへんと、僕の手乗りサイズの少女が胸をはっている。
マシロが言うには、花の精霊はマシロだけみたい。だから精霊『女王』なのかな。
僕が風属性魔法を使いにくいのは、マシロはそよ風は好きでも、花を散らせる嵐は嫌いだから。
僕が火属性魔法を使えないのは、マシロは花を燃やす火を嫌うから。
「なるほど……そっか。花の気持ちになってみれば、光は必要不可欠。水も土もないと大きくなれないし、闇は……」
『夜、お休みするのもだいじなのよ~』
「それで、複数属性使えるんだね」
『うんっ!みんな、あたしのこと好きだからねっ!』
マシロが言うと、半透明の小さな光がわっと飛び出して、宿屋の小さな部屋を照らした。白、青、黄色、黒、それから少しの緑と、遠くに赤色も。
精霊は通常、精霊界から人間を加護しているから人の目には見えないのだけど、マシロがこちら側にいるので『見えるようにする』のも可能なんだとか。
ちなみに立派な魔物であるギンは一緒にいていいのかと聞けば、従魔になった時点で、僕の魔力で作り替えられているらしい。へえぇぇ。
だからマシロもギンをつんつんと突いたりして仲良くしているみたい。
マシロ……ちょっと、凄すぎないかな、加護。
正直、男の僕に花、というのは少し複雑な気持ちだ。何だか似合わないと思うのだけど、マシロからすごくすごく好かれているのは伝わってくる。
その力の強さに愛想笑いしつつも、マシロと話せるようになったのはとても嬉しかった。
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