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しおりを挟む剣を使うのか魔法を使うのか、気分によって変えるのは判断に迷いが出て良くない。ここでは魔法を使うまでもなく倒せる相手が多いので、初手は剣で対応することにした。
身体を動かすことにもなるからね。魔法だと下手をすれば一歩も動かないことになり、運動にならない。
バッサバッサと切り捨てていく。一角兎の骸は10はゆうに超えて、20、30と、収納に蓄積されていく。
そうすると気になるのが、武器の劣化。
鉄剣は大事に使っているけれど、錆や欠けが気になってくるなぁ。一応手入れはしていて、これがこの剣の限界かな。
『ろー、ギンねぇ、直せるよー』
「えっ、そうなの?」
そういえば念話の練習もしなくちゃ。それはそうとして。
ギンは一抱え程の大きさに膨れて、僕の手渡した鉄剣をそのマシュマロボディに取り込んだ。
もちゅもちゅ、とガムを口内で捏ねているような動きを繰り返して、ポロンと吐き出したのは、新品とも見紛う剣。
「……すご……っ!」
『えへ!えへへ!すごい?!』
「うん!とっても凄い!可愛い。ありがとう」
ご褒美の、魔力の飴玉を作ってギンに渡すと、大喜びだった。
驚いた。ギンは金属を生み出せるっぽい。凄い……鍛治職人に奪われないようにしなくっちゃ。きっと目をギラギラさせて欲しがるに違いない。新品になったことで、『誰かから受け継いだ』感じが無くなったのは残念だけど、あのままでは折れていたかもしれないのでいっか。
「ギンは鉄以外にも金属を作れる?それで剣とか、他の武器も?」
『武器は補修だけっ!鉄とか銅、銀はすぐ作れるけど、ミスリルとか、アダマンタイトとかは時間と魔力がとぉってもかかるの。取りに行った方が早いよぉ。ギンはね、金属とか鉱物の場所は分かるの!』
「おわ、すごいねぇギン。とっても誇らしいよ!」
なでなでしてしまう。癒される。なんだ、ぼっち育ちの僕に遣わされた天使なのかな。
もちろんマシロも可愛いけれど、マシロは話せないから。一方的に話しかけているけれどね!
頼れる仲間をひとしきり撫でて満足し、冒険者ギルドに帰ろうと腰を上げた。もうここで採れる薬草も、一角兎も十分だ。
と思った時、視界の端で複数人が固まっているのを見かけた。
「だから……!イヤっ!」
「何でだよ、困ってんのはお前だろ?断るのはおかしいって!」
揉め事らしい。そろそろと顔を向けると、ギンも小さくなって肩へ乗った。
さほど遠くではない距離に、女の子を囲む男女のグループがいた。身なり的には全員冒険者だ。
囲まれてしゃがみ込んでいる女の子。それを囲むようにして立つ、男の子二人と女の子二人。
その全員が、この前開封の儀を受けたばかりな10歳の、フレッシュな感じを出している。……あれ、僕もフレッシュなのか……?
「一人じゃ危ないからパーティーに入れば良いって言ってんのに、何で嫌なんだよっ?!」
「そうよ、親切にしてるのに!もう行きましょ、放っておけばいいのよ」
「……っだって……、」
強気そうな女の子達は、同じパーティーらしき男の子達を引っ張ってその場から離れようとしているのに、男の子達の諦めは悪い。
何故だろう、と思った時、しゃがんでいた女の子の顔が見えた。あ、ははーん、この子が可愛い顔をしているからかな?だからしつこく言ってるんだ。
四人に囲まれてしゃがみ込んでいる女の子が、なんだか可哀想に思えて、少し距離をとって眺めていた。
マシロにお願いしてそよ風を流させ、遠くの音声を拾ってみると、よりはっきり聞こえるようになる。
「何だよ、文句あるのか?!」
「……ううぅ、だって、怖いもん……っ」
そう震えながら俯く女の子に、男の子達はおろおろしていた。
たしかに、新人のうちはゴブリンにも手こずる。だから複数人で相手をする方が、生存確率は高まるかもしれない。
一人で一匹倒すより、四人で四匹倒す方が楽だろうし?
僕は自立を計画した時から、ランスさんに鍛えて貰ってきたから、今のところ一人でも困っていない。
あの女の子も、見た目では分からないけど一人でも大丈夫な実力を持っているかもしれないし、パーティーを組むとしても怖そうな男の子のいる所とは組みたくないのだろう。
「だ、大丈夫だって。俺たちのパーティーに入ったら優しくしてやるから。ゴブリンだって、お前じゃ倒せないだろ?」
「そうだよ、ここは比較的安全だけど、それでもやっぱり魔物は出るんだから、な?」
「…………ううっ……」
さ、帰ろうかな、と思った時、彼らに向かって一角兎が突進して行くのが見えた。
少し太めのその個体は、ドリルのように回転しながら、四人組の、一番小柄な女の子に突っ込んでいく。
対応出来るのかな?と僅かな逡巡の間に、女の子の薄い胸に風穴が開いた。
「アリサッ?!」
「きゃあああっ!!」
「ひっ、ヒィィィ!!」
女の子は紙のように力なく倒れた。位置的に言って心の臓をひと突き。即死だった。
返り血に染まった一角兎は次のターゲットに狙いを定め、また飛びかかろうとしていた。しゃがんでいた女の子だ。
呆然としていた僕は今度こそ飛び出し、真横から一角兎の首を跳ね飛ばした。パスンッ!と小気味よい音を立てて、空宙で絶命した一角兎が、ボトッと女の子の前に落ちた。しゃがんでいた女の子はか細い悲鳴を上げてへなへなと崩れ落ち、どうやら腰が抜けたらしい。
僕は剣を一振りして血糊を振り払った。感触から言って、他の個体より骨があった。誤差の範囲だけど。
腰を抜かしている女の子は、顔を蒼白にさせたまま、急に現れた僕を見ていた。
「あー、ええと。これは僕の獲物ってことで、いいですか?」
「あ、えと、はい、そうです……」
僕は遠慮なく兎を引っ掴んで魔法鞄……に見せかけた亜空間収納に入れた。
そして真っ青になって、ガクガクと震えている3人に向き直る。
胸に大きな穴を開けた女の子の腰には、魔物避けの匂い袋があった。それなのに、あのすこし大きな一角兎には効かなかったみたい。確かに魔物避けは100パーセント魔物を避ける訳ではないけれど、この草原に現れる弱めの魔物に対しては、十分に効くはずだった。
僕は、この少し大きめの一角兎が、そろりそろりと彼女らに近付いていくのに気付いていた。揉め事に夢中で警戒していないとしたら危ないかなと思って、見守っていたのだけど……僕の対応は、遅すぎたらしい。
そのせいで、この子は、もう、二度と起き上がる事は無い。
流石に人の死は初めて見た。一角兎は侮れない。そう、宿屋で散々聞いていたし、警戒もしていた。
同じ年頃の彼らは、現実を受け止めたくないようにしばらく女の子を揺すっていた。
「え、え、なんで、アリサ……嘘でしょ……」
「そんな、……起きろよ……」
「アリサ、うわ、嘘だろ、マジで、」
二番目に狙われた女の子は、死の直前だったと気付いたのか激しく震えていた。もう、この四人、使い物にならない。
ここは、僕がしっかりしなきゃ。
僕は仕方なく指示を出す。
「そこの男の子は、……アリサさんでしたっけ?この子をギルドに連れて行きましょう。もう一人の男の子は、こっちの震えてる子をおぶってあげて。僕は後ろから。魔物が来ても対処します」
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