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「えっ……、はい、従魔は登録が必要です」


ぶらり薬草採取から帰ってシガールさんに聞くと、やはりギンの登録は必要らしい。

スライムを従魔にするというのは良くあることなのだそうだが、ギンはシルバースライム。ほとんど目撃例のない、シガールさんも二度見する程のレア魔物なんだそう。


『ふふん、ギンはねぇ、えらいスライムなんだ』


へぇえ。ギンは胸を張っているのか、逆三角形になっている。なに、かわいい。


「基本的に従魔ならスカーフやピアスなど、装身具をつけて頂くのですが、スライムは中央に従属印が出ます。ほら、ロキさんのスライムも、綺麗な印になっています。これが従属した目印で、分かりやすいので、装身具は不要です」

「そうなんですね。説明ありがとうございます」

「いえ。こちらこそシルバースライムを見せて頂いて光栄です。戦うとなると厄介らしいですよ」

「そうなんですか?」

「ええ、まず遭遇はしないのですが、魔物大全には記録があります。魔法は反射し、物理攻撃も殆ど躱され、武器も錆びさせられ、具現化した剣が山ほど降りかかってくるらしいです。ほら」


いつのまにか開いていたのか、ぶっとい本の後ろ辺りのページを見せられた。おお、たしかにシルバースライム。

僕はその存在を知っていた訳ではなく、単に他のスライムは色別にレッドスライムとか、グリーンスライムと呼ばれるという法則を知っていただけだった。あ、アクアスライムだけ別か。

身体も伸縮自在で、今は僕の肩の上に乗っているギンをなでなでしていると、リリアンナさんと目があった。ものすごく満面な笑みでにっこりと笑いかけられる。
ひぇぇぇ。怖い。


「……そうでした、ロキさん」


コトリ、とシガールさんは筆立てのようなものを机に出し、スイッチを押した。その瞬間、もやっとしたなにかが僕とシガールさんだけを覆う。

なんだろう、とシガールさんを見ると、彼はいつのまにかスカーフを口元に巻いていた。


「これは防音の魔道具で、スカーフは読唇術に備えてです。そんなに大した話ではないのですが、ここではリリアンナに聞こえるので……」

「え、は、はい。何でしょう?」

「ロキさんの担当となった時、リリアンナに事情を吐か……聞きまして、彼女が貴方を気にかけるのは、貴方の顔を見たからだそうです」


吐かせたって言いかけたな。やっぱりシガールさんは上司という位置付けっぽい。


「僕の顔?それが何か?」

「むさ苦しい男どもの中に放り込まれた清涼剤……一輪の花……のような癒しを感じたようです」

「はぁ……?」

「それだけではありません。今日、あなたはレア魔物を従魔として連れて来ました。リリアンナだけで無く、他の受付嬢、冒険者たちから視線を感じるでしょう?あれは、レア魔物に好かれるような何か。もしくはレア魔物を服従させる強さ……があるのかという探る視線。あとは期待と嫉妬の視線です」

「つまり、警告、ということですか?」


ごくり。唾を飲み込む。ギンを連れていることによって、絡まれやすくなってしまったのか。


「ええ、まぁ……忠告、くらいですね。将来性のある冒険者はモテやすいし、僻みもされる。色んな意味で手を出してくる輩が増えるでしょう。騙されたりしないよう、くれぐれも、気を付けて下さい」

「ああ……そうですね。心配してくださって、ありがとうございます。対処に困ったら、頼らせて下さいね」

「ええ、私で良ければ」


僕はまた軽くフードをあげて、シガールさんにニコリと微笑みかけた。
彼の表情はスカーフで顔の大部分を覆われているものの、ハッとした目を見れば驚いたのだろうとわかった。

いい人だ。僕はある意味驚かれ慣れている。
シガールさんは驚いたものの、沈黙を守ってくれた。『汚い』でも『綺麗』でもない、評価される事自体うんざりな僕にとって、フラットな対応はとても稀で、ありがたい。













「今日は……討伐にしようかな」


掲示板に貼られた紙をペリっと取る。Gランクの冒険者は、GかFランクの依頼しか受注出来ない。それ以上の魔物を倒しても素材代だけで、討伐代は貰えないので損になる。

目をつけたのは『一角兎:10体分』で、Fランクの依頼だ。薬草採取に適したエリアに、増えすぎた一角兎を減らしたいという薬師ギルドからの依頼。

肉代の他、討伐代も入ってくるのは嬉しい。これをシガールさんの所へ持っていこうとすると、リリアンナさんから声がかかった。


「おはようございます、ロキさん!依頼の受注なら、担当でなくても大丈夫ですよ~」

「そうなんですか。……では、お願いします」

「はいはーい!」


依頼用紙と認識タグで何かやった後、二つとも返された。
今回はシンプルな依頼だから意味はないが、複雑な依頼だと一語一句確認したい時もある。だから、依頼用紙も持ち運べるのは助かる。


「では、どうかお気をつけて。一角兎はとっても素早く突撃してくるので……」

「倒したことはあるので、お構いなく。行ってきますね」

「あ、はーい……」


口元だけで愛想笑いをして、身を翻した。ううん、マリーを身近に見ていたからか、距離感の近い異性は苦手だ。短鞭を思い出す。


そんな心の傷を再認識しつつも、今日は平原へとやってきた。


人も遠くにしか感じられないし、近づいてきたらすぐに分かる。これを機に、色々魔法を試してみる。攻撃魔法は、風と火を除いた各属性の刃や弾丸状で。球状ならボウリング玉から、どんどん大きくしたり、小さくしてみたり。銃弾くらいの小ささが使いやすいかも、イメージを浮かべやすいからか速度も速い。

それから、トア爺からもらった薬草に関する本で見かけた、採取した薬草などを保存する魔法。
物質そのものではなく、それを束ねる紐や、箱に保存魔法をかけることによって、簡単な封印のような効果を齎す。つまり、開けるまで、時間が経たない。持続時間は込めた魔力の分だけ。


この魔法は水属性か光属性にあたる。光属性の中でも空間系の魔法はするりと覚えてしまえるので、相性が良いみたいだ。水属性で保存するよりも、劣化速度が断然遅い。

それが使えるならと、『結界』も試してみた。盾の代わりに使えるものから、大きな箱形で、野営にも使えそうなものまで。色を変えたり、透明度を変えたりもしてみた。

こちらは、外部からの攻撃に耐え、内側からの攻撃には関与しないから、結界の中から外にいる魔物に攻撃も出来る。高みの見物……ではない、高みの攻撃だ。ただし集中力が必要とされる為、長くは持たない。いざという時だけ使おうっと。

あとは索敵。魔物だけでなく人間の魔力の大きさ、質を脳内でマッピングする。


「マシロ、もっと少なく……そう。うん!いい感じだよ」


標的を絞らないと、激しい頭痛がしたので、なんとか種類を分けることで整理し、映し出す。

知りたいのは魔物と、人間の位置。今日はその中でも、討伐対象である一角兎をハイライトさせる。
草原に隠れるように散らばった赤い点を追いかけて、僕は地面を蹴った。
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