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17 シルバースライム
しおりを挟む買い物を済ませてもまだ昼前。今日は薬草摘みにでも行こうかな。
薬草採取の依頼は常にあるし、余計に取ったとしてもランクアップ分以外は自分で使う用に残しておける。僕の亜空間収納は時間が経たないからね!
「マシロ。今日は薬草を摘もうと思う。何の魔法がいいかなぁ」
ぽよぽよとご機嫌に跳ねるマシロを肩に乗せ、認識タグを門番に見せびらかして、町を出た。
都市や町や村は、基本的に森に囲まれているか、そうでなければ川や海に接している。日本のように住宅地が並んでいることも、畑が続いていることもなく、力強い自然の森とそこに無数に生息する魔物や動物たちに囲まれている。自然破壊とかそういうのとは無縁だ。
人間の住む所も、きっと住まなくなれば森に覆われてしまうのだろう。
森の中はキリキリと不快な音を立てて泳ぐ巨大なムカデのようなものや、おなじみスライムがぶにぶにと行進している。それから、ぬめぬめした軟体の何かが触覚を生やして、葉の上を這いずっている。
……良く、この中を、歩けたなぁ。今思うと、ちょっとした興奮状態だったのかもしれない。
今手に持って枝払いをしている鉄の剣は、客からのお下がりだ。もうすぐ10歳、ということで無言で差し出してきたので、遠慮なく頂いた。かなり使い込まれているので、彼が小さい時に使っていたものだろう。ランスさんに続いて、2本目のお下がりの剣。
森を駆け抜けてきたのもあって、結構ぼろぼろだった。
パシパシと払っていると、出た。牙猪だ。口に入り切らないほど大きな牙の猪が、突進してくるのをひらりと避ける。大きさは前世の牛くらいだろうか。割と大きめのファングボアだ。
もう一度こちらに向かってくる!
「マシロ!」
水を打ち出してみる。ぎゅぎゅっと凝縮した水を、光の速さで脳天へ。
パスン、と気の抜けたような音がして、ファングボアはドォォオン……倒れていった。呆気ない。やはり、この辺りの魔物は味気ない。
「マシロ、ありがとう。やっぱり持つべきものは相棒だねぇ」
マシロにご褒美の魔力を少しあげて、今日の成果を収納に仕舞う。
「マシロ、薬草の場所を教えて。あっ、使える花とかもあったらお願い」
そんな僕の横着なお願いを、マシロは嬉々として叶えてくれた。有用な草花がほんわり光って、位置を知らせてくる。
そのガイドを頼りにしながら、薬草や、石鹸に必要な木の実や、香り付けに使いたい花をたっぷりと採取できた。
「んっ?」
気付けば、僕の後ろを着いてくる一匹のスライム。
一歩歩けば一歩進み、僕が止まれば奴も止まる。
「なんだろ?」
しゃがんでみる。けれど攻撃してくる様子はない。
「なんか色味が……?」
透き通っているように見えるけれど、角度によっては不透明で、鏡のように反射する。
「銀色だ。……ってことは、シルバースライム?」
その言葉に、うんうん、と頷くような動きをした。なに、かわいいの?
「仲間になりたいの?」
とある有名ゲームみたいに、一列になって、角もカクカクと曲がるように着いてくるんだろうか、と冗談を言ってみたのだが、果たして、それは概ね正解だったらしい。
ぱぁあとなんとなくスライムは光輝くように点滅して、ぴろんと触手をのばしてきた。
「ええと、どうすれば……?」
首を傾げて戸惑っていると、しびれを切らしたスライムは、僕の髪の毛を一本、ぷちんと千切って、ぱくん、取り込んだ。
じっと見ているとピカッと強く光り、ぷよぷよボディの真ん中に模様が現れた。円陣のような、僕にはわからない記号が複雑に絡んだようなマークだ。薄くてゆらゆらしている。
『わーい!かりけいやくできたぁっ!』
「え、うわ、子供?!」
子供のような幼い声。耳からではなく、脳へ直接言葉を送り込まれているようだ。
『ねんわだよ、えっと、ロキ……ろー!』
「それって僕のこと?」
『そう!名前つけてっ!』
「んーと、じゃあ、ギン!」
そう言うと、先程浮かんだ円陣のマークが濃い紫色に固定された。さっきまでは陽炎みたいにゆらゆらしていたのに、今は宝石よりキラキラと輝いた円陣が浮かんで……綺麗。
「ギンは、僕の仲間?」
『ふくじゅう!れいぞく!ろーのためにたたかうの!』
うわ、なんか重い……それより、聞きたいことがたくさんありすぎて困るなぁ。魔物を連れた冒険者は、まだ見たことがなかったから。
僕は辺り一帯を警戒しつつも、見晴らしの良い所まで移動して、腰を下ろしてギンを抱えた。
ギンは思ったよりぬめぬめしていなくて、むしろ、マシュマロに近い。さらさらのふわふわで、指が沈み込む。なに、これ、癖になりそう。赤ちゃんのほっぺというか、程よい弾力があるし、ややひんやりしている。マシロとはまた違う、もっと柔軟性のあるぷにぷにだ。
「ギンは、なんで僕に従属したの?」
『ろーの魔力、おいしい!さいこう!だいすき!いままで会ったことない、みりょくてきな魔力なの!』
「へ、へぇ……」
ギンの勢いに、すこし引いた僕だったが、ぐっと堪えて続きを促す。
『従属すると、ろーの魔力をもらえる!たくさんくれたら強くなる!でも、ろーが危険な時はもどせる、たんくだよ!』
「それは、勝手に持っていくの?僕が定期的に上げるの?」
『繋がっている分、勝手に少しずつもらってる。でも、ろーの回復速度よりうんと少ないからだいじょうぶ。だから、良く働いた時はごほうびにちょうだい!』
「へぇー、そうなってるんだ。分かった。宜しくね、ギン」
『うわーい!』
試しに魔力を捻り出して飴玉のように固め、ギンに放り投げるとぱくんと食べていた。ぎゅるんぎゅるんとものすごい動きをしていたので恐らく美味だったのだろう。
従魔って奴かぁ。嬉しいな。そういえば、ギンとマシロってどういう関係になるのかな?
マシロは相変わらずひとつまみ程度のぽよぽよで、ギンは一つかみの銀色のぽよぽよ。二人を出してみれば、小さなマシロに服従するように、ギンは後を追いかけていた。
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