泥ねずみと呼ばれた少年は、いっそ要塞に住みたい

カシナシ

文字の大きさ
上 下
18 / 158

17 シルバースライム

しおりを挟む

買い物を済ませてもまだ昼前。今日は薬草摘みにでも行こうかな。
薬草採取の依頼は常にあるし、余計に取ったとしてもランクアップ分以外は自分で使う用に残しておける。僕の亜空間収納は時間が経たないからね!


「マシロ。今日は薬草を摘もうと思う。何の魔法がいいかなぁ」


ぽよぽよとご機嫌に跳ねるマシロを肩に乗せ、認識タグを門番に見せびらかして、町を出た。

都市や町や村は、基本的に森に囲まれているか、そうでなければ川や海に接している。日本のように住宅地が並んでいることも、畑が続いていることもなく、力強い自然の森とそこに無数に生息する魔物や動物たちに囲まれている。自然破壊とかそういうのとは無縁だ。

人間の住む所も、きっと住まなくなれば森に覆われてしまうのだろう。

森の中はキリキリと不快な音を立てて泳ぐ巨大なムカデのようなものや、おなじみスライムがぶにぶにと行進している。それから、ぬめぬめした軟体の何かが触覚を生やして、葉の上を這いずっている。

……良く、この中を、歩けたなぁ。今思うと、ちょっとした興奮状態だったのかもしれない。

今手に持って枝払いをしている鉄の剣は、客からのお下がりだ。もうすぐ10歳、ということで無言で差し出してきたので、遠慮なく頂いた。かなり使い込まれているので、彼が小さい時に使っていたものだろう。ランスさんに続いて、2本目のお下がりの剣。
森を駆け抜けてきたのもあって、結構ぼろぼろだった。

パシパシと払っていると、出た。牙猪ファングボアだ。口に入り切らないほど大きな牙の猪が、突進してくるのをひらりと避ける。大きさは前世の牛くらいだろうか。割と大きめのファングボアだ。
もう一度こちらに向かってくる!


「マシロ!」


水を打ち出してみる。ぎゅぎゅっと凝縮した水を、光の速さで脳天へ。
パスン、と気の抜けたような音がして、ファングボアはドォォオン……倒れていった。呆気ない。やはり、この辺りの魔物は味気ない。


「マシロ、ありがとう。やっぱり持つべきものは相棒だねぇ」


マシロにご褒美の魔力を少しあげて、今日の成果を収納に仕舞う。


「マシロ、薬草の場所を教えて。あっ、使える花とかもあったらお願い」


そんな僕の横着なお願いを、マシロは嬉々として叶えてくれた。有用な草花がほんわり光って、位置を知らせてくる。
そのガイドを頼りにしながら、薬草や、石鹸に必要な木の実や、香り付けに使いたい花をたっぷりと採取できた。


「んっ?」


気付けば、僕の後ろを着いてくる一匹のスライム。
一歩歩けば一歩進み、僕が止まれば奴も止まる。


「なんだろ?」


しゃがんでみる。けれど攻撃してくる様子はない。


「なんか色味が……?」


透き通っているように見えるけれど、角度によっては不透明で、鏡のように反射する。


「銀色だ。……ってことは、シルバースライム?」


その言葉に、うんうん、と頷くような動きをした。なに、かわいいの?


「仲間になりたいの?」


とある有名ゲームみたいに、一列になって、角もカクカクと曲がるように着いてくるんだろうか、と冗談を言ってみたのだが、果たして、それは概ね正解だったらしい。

ぱぁあとなんとなくスライムは光輝くように点滅して、ぴろんと触手をのばしてきた。


「ええと、どうすれば……?」


首を傾げて戸惑っていると、しびれを切らしたスライムは、僕の髪の毛を一本、ぷちんと千切って、ぱくん、取り込んだ。

じっと見ているとピカッと強く光り、ぷよぷよボディの真ん中に模様が現れた。円陣のような、僕にはわからない記号が複雑に絡んだようなマークだ。薄くてゆらゆらしている。


『わーい!かりけいやくできたぁっ!』

「え、うわ、子供?!」
 

子供のような幼い声。耳からではなく、脳へ直接言葉を送り込まれているようだ。


『ねんわだよ、えっと、ロキ……ろー!』

「それって僕のこと?」

『そう!名前つけてっ!』

「んーと、じゃあ、ギン!」


そう言うと、先程浮かんだ円陣のマークが濃い紫色に固定された。さっきまでは陽炎みたいにゆらゆらしていたのに、今は宝石よりキラキラと輝いた円陣が浮かんで……綺麗。


「ギンは、僕の仲間?」

『ふくじゅう!れいぞく!ろーのためにたたかうの!』


うわ、なんか重い……それより、聞きたいことがたくさんありすぎて困るなぁ。魔物を連れた冒険者は、まだ見たことがなかったから。

僕は辺り一帯を警戒しつつも、見晴らしの良い所まで移動して、腰を下ろしてギンを抱えた。

ギンは思ったよりぬめぬめしていなくて、むしろ、マシュマロに近い。さらさらのふわふわで、指が沈み込む。なに、これ、癖になりそう。赤ちゃんのほっぺというか、程よい弾力があるし、ややひんやりしている。マシロとはまた違う、もっと柔軟性のあるぷにぷにだ。

「ギンは、なんで僕に従属したの?」

『ろーの魔力、おいしい!さいこう!だいすき!いままで会ったことない、みりょくてきな魔力なの!』

「へ、へぇ……」


ギンの勢いに、すこし引いた僕だったが、ぐっと堪えて続きを促す。


『従属すると、ろーの魔力をもらえる!たくさんくれたら強くなる!でも、ろーが危険な時はもどせる、たんくだよ!』

「それは、勝手に持っていくの?僕が定期的に上げるの?」

『繋がっている分、勝手に少しずつもらってる。でも、ろーの回復速度よりうんと少ないからだいじょうぶ。だから、良く働いた時はごほうびにちょうだい!』

「へぇー、そうなってるんだ。分かった。宜しくね、ギン」

『うわーい!』


試しに魔力を捻り出して飴玉のように固め、ギンに放り投げるとぱくんと食べていた。ぎゅるんぎゅるんとものすごい動きをしていたので恐らく美味だったのだろう。

従魔って奴かぁ。嬉しいな。そういえば、ギンとマシロってどういう関係になるのかな?

マシロは相変わらずひとつまみ程度のぽよぽよで、ギンは一つかみの銀色のぽよぽよ。二人を出してみれば、小さなマシロに服従するように、ギンは後を追いかけていた。
しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

投獄された聖女は祈るのをやめ、自由を満喫している。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「偽聖女リーリエ、おまえとの婚約を破棄する。衛兵、偽聖女を地下牢に入れよ!」  リーリエは喜んだ。 「じゆ……、じゆう……自由だわ……!」  もう教会で一日中祈り続けなくてもいいのだ。

【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!

つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。 他サイトにも公開中。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

処理中です...