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魔力暴走しかけた日から一週間も経つと、体内の魔力をより正確に感じ取れるようになった。
というのは、『魔畜臓』以外の所にも、微量に魔力は漂っていると気付いたのだ。
その魔力は魔畜臓から細く、薄く、ほんの少しだけ漏れてきた魔力で、もしかしたら魔畜臓には極々小さな穴が空いているのかもしれなかった。魔力で身体を満たす為に。
身体全体に満ちている魔力を『基礎魔力』と呼ぼう。基礎代謝カロリーのような感じで。魔畜臓に押し込む魔力は前より強く濃くなっているのに比例して、基礎魔力も増えているように感じた。これを動かしてみる。……動く。腕、足、指先。
これ、体内なら魔法使えるのかな?
そう思うと試さずにはいられないのが人間だと思う。友人から借りた本にも書いてあった。僕はちゃんと一冊まるまる読んだからね!
イメージするのは筋肉の増強だ。腕に魔力を集めて、パンプアップ。いでよ、僕の上腕二頭筋!
「……」
うんともすんとも言わない、鶏ガラのような細腕。
……筋肉は出てきませんでした。
でも、力は違う。見た目は変わらないけれど、明らかに力が出ている。試しに井戸の水を汲んでみると、するする。するするである。
まるで綿でも運んでいるが如く。
おっと、マリーが怪訝な顔で見ていた。慌てて必死そうな顔を作ると、ぷいと顔を背けられる。
ふうっ、危ない、危ない。
これ以上仕事増やされたらたまったもんじゃない!
僕は自己流の身体強化で、力仕事も楽々とこなせるようになった。身体強化を解くと酷い筋肉痛になったが、それも一ヶ月経つ頃には無くなって、より強い負荷を欲するようになってしまった。少しずつ、筋肉も付いてきた、ような気がする。たぶん。
台車を引いての食糧調達や、洗濯、水汲みという力仕事の時間が短縮された分、僕は少し余裕ができて、取引先のお店の人と、少し話せるようになった。
そうなると、行く度に少しだけ、おまけをくれるのだ。僕はありがたくそれをお腹に収める。
ある日は野菜の種をもらい、裏庭に撒いた。そこは日陰では無い上、手前に茂った背の低い木のせいで、パッと見、なにかが植わっているとは分からないからだ。
ふふ、これでお野菜ゲットだ!
毎日身体強化を使って三ヶ月もすると、常時身体強化をしているような状態になっていた。余命ってなんだっけ?トア爺の話ではもう僕死にそうなんだけど、体調はすこぶる良い。
だって身体の中は魔力で漲っている。まるで元気ハツラツドリンクを飲んだ後のようだ。
魔畜臓には(多分)魔力をぐいぐい押し込んでいるからスペースは全然あるし、押し込む程に身体へ流れる魔力は強くなり、身体強化も容易く起動出来る。
驚いたのは、マリーに頭を叩かれた時だ。
「何してるの!」
ゴンッ!と音を立ててグーで殴られた。裏庭で野菜たちのお世話をしていたのがバレたのだ。マリーはいつも朝遅いからと油断していた。
「痛っ……石頭!なんで勝手に庭をいじくっているの?!ママとパパに言いつけてやる!」
そう言いながら、マリーは赤くなった手を抑えつつも、ニヤニヤと笑って駆け出した。
僕はあんまりに殴られた頭が痛く無かったので、呆然として見送っていた。
えっ、痛くない。あれ?むしろマリーの方が痛がっていた?
マリーは健康で、僕より一回りは身体は大きいし、手加減が無い分子供といえども結構痛い筈だ。実際、前に殴られた時は翌日までじんじんと腫れていたと思う。
ところが今殴られても、軽くはたかれたくらいの衝撃しか無かった。これは、身体強化のおかげかな。全身身体強化をしていると、まるで全身スーツ型のバリアを張っているような、無敵の気持ちになれるのだ。
そして実際、バリアのように機能してくれたことが分かった。
「泥ねずみ!おまえ、マリーに何をした!」
僕が感動していると、旦那さんがやってきて、僕の相変わらず細っこい腕を掴んだ。
そして僕の太ももよりも太い腕を振り上げ、その勢いで僕の腹を殴る!
「んグッ……!」
ゴリィッ!
変な音と共に、僕は体をくの字に曲げて吹っ飛ぶ。
咄嗟に腹を庇うも、流石に痛かった。身体強化バリアは無敵ではないらしい。ただ、体が吹っ飛ぶほどの攻撃の割には、痛みは少しは軽減されているようだ。
旦那さんはギョロギョロと血走った目玉を動かして、僕の育てていた野菜畑――一メートル四方くらいしかないミニ畑だ――を見ると、途端に目を細めて、ニヤッと笑った。
「お前、居候のくせに庭を勝手に改造したのか?ああ、そんなに泥が好きなら野菜を作れ。いいな。泥ねずみめ。あーあ、汚ねぇもん触っちまった」
「え……」
「いいの?パパ。こいつ、遊んでたんじゃないの?」
「ああ、こいつ、腹減ってたんだろ。でも、これでうちの食費を少し浮かせるかもしれねぇ。……それはそうと、マリーの手が赤くなっていた!なんて奴だ、這い回るしか能のないやつが!」
旦那さんは立てかけてあった木の棒を持ち、僕を打った。バン、バン、幾度も背中を叩かれる。
「うっ……」
頭を押さえて、蹲った。
激情のまま棒を振るう旦那さんが鎮まるまで、亀のように静かに縮こまっているしかない。
大丈夫、大丈夫、背中に集中して……!
やっと解放された時には、背中がバキバキと痛くて起き上がれなかった。そんな僕を、遠くからマリーがニヤニヤしながら見ていた。
「ははっ、似合ってるぅ~!パパ、かっこよかった!」
「そうだろう?よし、今日の夕食は少しいいのにしよう!」
「やったぁ!わぁい」
「いてて……」
寝る前に、殴られた所を見ようと体を捻る。少しだけ見えた背中は、内出血で真っ黒に変色していた。身体強化をしていなかったらもっと酷かっただろう。前に棒で折檻された時は、血だらけになっていたから。
それに比べれば、血は出ていない。でも、見た目通りボロボロだ。今日は背中を付けて寝られないだろう。
『早く治りますように』
僕は身体強化が出来るなら、体の損傷も治せるんじゃないかと気付いた。そう感じて背中に魔力を集めて、怪我が治るイメージをする。……うわ、身体強化とは比べ物にならない程、ぐんぐん魔力を消費する!
すっからかん寸前まで魔力を消費して、少しだけ身体の痛みは遠のいた。うん、もう何回かしたら治りそうだ。
その予想は当たっていて、三日後には綺麗な背中に戻っていた。
それはつまり、この顔の火傷跡も治る可能性を示唆していて。
「……いや、今治しても余計なことになりそう。ちゃんと独り立ちして、力をつけてからだ」
僕は、敢えてこの顔は治さないと決めた。
というのは、『魔畜臓』以外の所にも、微量に魔力は漂っていると気付いたのだ。
その魔力は魔畜臓から細く、薄く、ほんの少しだけ漏れてきた魔力で、もしかしたら魔畜臓には極々小さな穴が空いているのかもしれなかった。魔力で身体を満たす為に。
身体全体に満ちている魔力を『基礎魔力』と呼ぼう。基礎代謝カロリーのような感じで。魔畜臓に押し込む魔力は前より強く濃くなっているのに比例して、基礎魔力も増えているように感じた。これを動かしてみる。……動く。腕、足、指先。
これ、体内なら魔法使えるのかな?
そう思うと試さずにはいられないのが人間だと思う。友人から借りた本にも書いてあった。僕はちゃんと一冊まるまる読んだからね!
イメージするのは筋肉の増強だ。腕に魔力を集めて、パンプアップ。いでよ、僕の上腕二頭筋!
「……」
うんともすんとも言わない、鶏ガラのような細腕。
……筋肉は出てきませんでした。
でも、力は違う。見た目は変わらないけれど、明らかに力が出ている。試しに井戸の水を汲んでみると、するする。するするである。
まるで綿でも運んでいるが如く。
おっと、マリーが怪訝な顔で見ていた。慌てて必死そうな顔を作ると、ぷいと顔を背けられる。
ふうっ、危ない、危ない。
これ以上仕事増やされたらたまったもんじゃない!
僕は自己流の身体強化で、力仕事も楽々とこなせるようになった。身体強化を解くと酷い筋肉痛になったが、それも一ヶ月経つ頃には無くなって、より強い負荷を欲するようになってしまった。少しずつ、筋肉も付いてきた、ような気がする。たぶん。
台車を引いての食糧調達や、洗濯、水汲みという力仕事の時間が短縮された分、僕は少し余裕ができて、取引先のお店の人と、少し話せるようになった。
そうなると、行く度に少しだけ、おまけをくれるのだ。僕はありがたくそれをお腹に収める。
ある日は野菜の種をもらい、裏庭に撒いた。そこは日陰では無い上、手前に茂った背の低い木のせいで、パッと見、なにかが植わっているとは分からないからだ。
ふふ、これでお野菜ゲットだ!
毎日身体強化を使って三ヶ月もすると、常時身体強化をしているような状態になっていた。余命ってなんだっけ?トア爺の話ではもう僕死にそうなんだけど、体調はすこぶる良い。
だって身体の中は魔力で漲っている。まるで元気ハツラツドリンクを飲んだ後のようだ。
魔畜臓には(多分)魔力をぐいぐい押し込んでいるからスペースは全然あるし、押し込む程に身体へ流れる魔力は強くなり、身体強化も容易く起動出来る。
驚いたのは、マリーに頭を叩かれた時だ。
「何してるの!」
ゴンッ!と音を立ててグーで殴られた。裏庭で野菜たちのお世話をしていたのがバレたのだ。マリーはいつも朝遅いからと油断していた。
「痛っ……石頭!なんで勝手に庭をいじくっているの?!ママとパパに言いつけてやる!」
そう言いながら、マリーは赤くなった手を抑えつつも、ニヤニヤと笑って駆け出した。
僕はあんまりに殴られた頭が痛く無かったので、呆然として見送っていた。
えっ、痛くない。あれ?むしろマリーの方が痛がっていた?
マリーは健康で、僕より一回りは身体は大きいし、手加減が無い分子供といえども結構痛い筈だ。実際、前に殴られた時は翌日までじんじんと腫れていたと思う。
ところが今殴られても、軽くはたかれたくらいの衝撃しか無かった。これは、身体強化のおかげかな。全身身体強化をしていると、まるで全身スーツ型のバリアを張っているような、無敵の気持ちになれるのだ。
そして実際、バリアのように機能してくれたことが分かった。
「泥ねずみ!おまえ、マリーに何をした!」
僕が感動していると、旦那さんがやってきて、僕の相変わらず細っこい腕を掴んだ。
そして僕の太ももよりも太い腕を振り上げ、その勢いで僕の腹を殴る!
「んグッ……!」
ゴリィッ!
変な音と共に、僕は体をくの字に曲げて吹っ飛ぶ。
咄嗟に腹を庇うも、流石に痛かった。身体強化バリアは無敵ではないらしい。ただ、体が吹っ飛ぶほどの攻撃の割には、痛みは少しは軽減されているようだ。
旦那さんはギョロギョロと血走った目玉を動かして、僕の育てていた野菜畑――一メートル四方くらいしかないミニ畑だ――を見ると、途端に目を細めて、ニヤッと笑った。
「お前、居候のくせに庭を勝手に改造したのか?ああ、そんなに泥が好きなら野菜を作れ。いいな。泥ねずみめ。あーあ、汚ねぇもん触っちまった」
「え……」
「いいの?パパ。こいつ、遊んでたんじゃないの?」
「ああ、こいつ、腹減ってたんだろ。でも、これでうちの食費を少し浮かせるかもしれねぇ。……それはそうと、マリーの手が赤くなっていた!なんて奴だ、這い回るしか能のないやつが!」
旦那さんは立てかけてあった木の棒を持ち、僕を打った。バン、バン、幾度も背中を叩かれる。
「うっ……」
頭を押さえて、蹲った。
激情のまま棒を振るう旦那さんが鎮まるまで、亀のように静かに縮こまっているしかない。
大丈夫、大丈夫、背中に集中して……!
やっと解放された時には、背中がバキバキと痛くて起き上がれなかった。そんな僕を、遠くからマリーがニヤニヤしながら見ていた。
「ははっ、似合ってるぅ~!パパ、かっこよかった!」
「そうだろう?よし、今日の夕食は少しいいのにしよう!」
「やったぁ!わぁい」
「いてて……」
寝る前に、殴られた所を見ようと体を捻る。少しだけ見えた背中は、内出血で真っ黒に変色していた。身体強化をしていなかったらもっと酷かっただろう。前に棒で折檻された時は、血だらけになっていたから。
それに比べれば、血は出ていない。でも、見た目通りボロボロだ。今日は背中を付けて寝られないだろう。
『早く治りますように』
僕は身体強化が出来るなら、体の損傷も治せるんじゃないかと気付いた。そう感じて背中に魔力を集めて、怪我が治るイメージをする。……うわ、身体強化とは比べ物にならない程、ぐんぐん魔力を消費する!
すっからかん寸前まで魔力を消費して、少しだけ身体の痛みは遠のいた。うん、もう何回かしたら治りそうだ。
その予想は当たっていて、三日後には綺麗な背中に戻っていた。
それはつまり、この顔の火傷跡も治る可能性を示唆していて。
「……いや、今治しても余計なことになりそう。ちゃんと独り立ちして、力をつけてからだ」
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