僕は人畜無害の男爵子息なので、放っておいてもらっていいですか

カシナシ

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本編

39 オーランド・シュガー

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 ロローツィアはオレの婚約者であり、幼馴染でもあり、そして、素晴らしいことに、聖者でもある。

 オレはロローツィアと婚約を結べてラッキーだった。ロローツィアはぽやっとしてるように見えて、さっぱりとした気持ちの良いオメガだ。下手に色気付くこともない彼が好ましくて、オレなりに大事にしようと決めていた。

 そんなロローツィアは12歳になってから、『ちょっと強くなってくる!ついでに浄化もしてくるね』と頻繁に浄化の旅へ出るようになった。
 オレがロローツィアを守ってやるし、せっかく可愛いのだから、そんなに強くならなくていいのに。けれど呑気に応援をしていた。オレもオレで、忙しくなってしまったから。


 オレは貴族の子供らしく、社交をしなければならない。数々の茶会で顔を広げていき、母親に連れられて行ったとある茶会で、エカテリーナ様と出会った。

 将来の王妃となる、美しく可憐な人。幼なくともすでに完成された美を持っているその人に、『婚約者といられなくて寂しいわよね……』と上目遣いで言われて、舞い上がった。

 キスをしたのは多分、オレの方から。だってあんな美しい顔に目を閉じて待たれたら、誰だって行くだろう?

 それから秘密の恋人となるのに、時間はかからなかった。結ばれることはないけれど、別に両立してたって何も問題はない。

 初めて恋人らしいことが出来て、夢中になっていた。あわよくば側にいたい。オレは彼女の近衛騎士になるため、鍛錬に励んでいた。









 ロローツィアのことをほとんど忘れかけていた頃、学園へ入学して気付いた。ロローツィアは、とても可愛くなっていた。オレの自慢の婚約者であり、アルファとして、早くモノにしたいと本能が刺激される。


 エカテリーナ様や殿下に『婚約は解消するな』と指示されて、それは言われるまでも無かった。エカテリーナ様とも婚約したいような気もするけど、出来る訳もなく、であれば、ロローツィアがいい。


 なのにエカテリーナ様が目の前にいると、もう、そのぷるぷるで艶やかな唇にしか目がいかなくなる。不思議だ。

 つまり、ロローツィアが目の前にいれば、ロローツィアが可愛い。エカテリーナ様が目の前にいれば、エカテリーナ様が。

 オレは、目の前にいる人を大事にするタイプらしい。





***





 いつものように秘密で落ち合い、ひとしきりその唇を堪能した後、エカテリーナ様に愚痴った。


 ロローツィアにオレとのキスを拒否されて、落ち込み……というか、苛立っていた。無理やり口付けて、その柔らかさに驚いたのはこちらの方。幼馴染とキスなんてと思いきや、そうではなかった。これなら抱けるかもしれないと思うくらいだったのに、ロローツィアはそうでないことが悔しくてたまらない。

 アルファとしての、プライドが揺らぐ。



「ロローツィアのやつ、オレのことなんかどうでもいいらしい……っ、婚約者なのに、他の男とばかり仲良くして……っ」

「まぁ、オーランド様、可哀想……っ!でもそれなら、オーランド様はアルファだもの。オメガに強制ヒートをさせられるのではなくって?それなら絶対、聖者様だって振り向くわ。……ちょっと、ヤキモチ妬いちゃうけど」


 可愛らしく唇を尖らせるエカテリーナ様へ、チュッ、と軽くキスをする。


「ロローツィアはまだ、オメガとして未発達なんだ。だから、強制ヒートさせようにも、無理だし、そもそも可哀想だ。はあ、でも、少しくらい意識して欲しいよな……」

「それなら、わたくし、いいの知っているわ!ママとパパが秘密で使っているお薬なんだけど……少しだけ盛り上がるみたいなの。今度、持って来させるわ!」

「えっ……、そ、そうなんだ。夫婦仲、良いんだな……」

「そうかしら?多分、オーランド様のご両親も使っているんじゃない?あっ、聞いてみたらどうかしら。気まずくなければ……」

「きっ、気まずいに決まっているだろっ!分かった、それならお願いする。副作用は……」

「無いに決まってるわよ!じゃなきゃママもパパも使わないでしょっ!」



 そんな会話をして、後日エカテリーナ様の遣いという男が薬を置いていった。










 だからわくわくしていた。薬は、ほんの少しだけ入れた。それで少しだけロローツィアが興奮したなら、『オーランド、大好き!』となるに違いないと。美人さはエカテリーナ様の方がまさっているが、素朴な可愛さはロローツィアも負けてない。

 もし求められたんなら、答えるのはやぶさかじゃない。婚約者なのだから問題ないし、可愛いロローツィアの身体を好きなように出来ると考えると、興奮した。もちろん逆も然りで、ロローツィアの前にいるオレは、ロローツィアのもの。遠慮なく来てくれ!


 ところが、ロローツィアは逃げた。ロローツィアの足が速いことは、よく知っている。追いつけはしないし、何より、平手打ちされたことがショックだった。このオレを、拒絶。そこは、この魅力的なオレに縋り付くところだろう!?


 がっかりしたオレは、街に降りてナンパし、軽くお茶をした。少し垢抜けないその子はオレを恥ずかしげに見つめてくるし、可愛く見えてきた。男として求められずに傷ついた心が、癒えていく。

 ひとしきりチヤホヤされて満足したオレが寮へ戻ると、衛兵に拘束され、謹慎処分を受けたのだった。



 なんでだよっ!?




 オレがロローツィアに使った薬は、とても強い違法な媚薬だったらしい。知らなかったとは言え、悪いことをしてしまった。しかし、それなら、ロローツィアは今?

 それは教えてくれなかった。


 オレにはどうしても、エカテリーナ様がそんな嘘を付くとは思えなかった。だから、きっとあの渡してきた男が裏切ったのだと思った。もしくは、薬を作った奴が。エカテリーナ様では、絶対に、ない。




 謹慎期間が明けて学園へ戻ると、オレは『婚約者に薬を盛った野郎』という不名誉なそしりを受けることになった。仕方ない。それは事実だとして受け止めた。けれど、ロローツィアだって悪い。オレをないがしろにするから!


 ロローツィアは最近、妙にグレイリヒト・シュトーレンと仲が良い。ロローツィアは気づいていないが、グレイリヒトの方は確実に、ロローツィアを狙っている。自由時間は囲い込むようにロローツィアに付きっきりで、オレを見つける度に睨んでくるのだ。

 もしかすると、ロローツィアが強制ヒートになった時、コイツが相手をしたのかもしれない。そう思うだけでぐらぐらと腹が煮えるようだ。


 エカテリーナ様は、オレにヤキモチを妬いてくれるのに。浮気なんかしないのに。あ、殿下?殿下は権力者だから仕方ない。

 やっぱり、恋人としてはエカテリーナ様が一番なんだ。


 学園では身の置き所が無く、オレは騎士養成学園へ転入することになった。元々騎士を目指していたから、あっさりと転入試験をパスする。


 エカテリーナ様とは残念ながら、毎日会うことは出来なくなる。しかし、『最近殿下に怪しまれているみたいだから、今だけ』と言われてしまえば頷くしかない。

 転入する前に、ロローツィアを試すことにした。本当にオレのことが好きなら、学園を辞めてついてきてくれるはずだ。エカテリーナ様も、そう賛成してくれた。


 しかしロローツィアは、首を横へ振った。やっぱり、ロローツィアはオレを大事にしてくれないのか。腹立たしさと悔しさに、ロローツィアを睨む。けれど、エカテリーナ様が慌てて部屋を出て行ってから、事態が急速に変わっていった。




 エカテリーナ様のお父上が、国家転覆罪で捕まったのだ。









***




 エカテリーナ様は侯爵令嬢ではなくなり、殿下との婚約も破棄された。それから浄化してもらって、気付く。




 オレは、騙されていたんだ!
 




 今思えば、エカテリーナ様を目の前にした時の動悸は、偽物だったんだ。ロローツィアを好きだと思う気持ちだけが、本物だったのに。それにようやく気づいたのだから、今度こそロローツィアを大事にする!



 でも、もう、遅かった。



 オレもすぐに、ロローツィアとの婚約を破棄された。親父は婚約が解消にならないようにしてくれていたのに、どうやら王妃様による干渉があったらしい。本当に余計なことをと思う。

 騎士養成学園に転入をしても、ロローツィアを忘れられない。贈り物をたくさんしているのに、つれないところがむしろ、いい。金に目の眩む奴より余程、好ましいじゃないか。

 そうだ、ロローツィアは勤勉だし聖者だし、嫁として最高のオメガ。今考えても、既成事実を作ってでも確実に嫁にするべきだった。



 見ていてくれ、ロローツィア。オレ、今度こそお前を大事にする。立派な騎士になって、惚れ直させてやるからなっ!



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