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番外編
レオン(3)
しおりを挟むあの行為を目撃したのも二回目。最初より冷静になった私は、フェリスくんに抱くこのもやもやが何なのか、分析してみた。
村長の息子のやり方は、大人の猿真似でしかなく、乱暴で、自分本位で、フェリスくんを道具としか扱っていない。もしもう少し大人ならば拒絶することは簡単だろうに、そう出来ないのは幼馴染という、長い付き合いだからか、または村社会であるからか。
フェリスくん本人の清らかさも際立ち、綺麗なものを穢しているような、ざらざらした不快感を感じるのだ。
赤の他人の、それも恋人同士の行為なのに、やけに気にかけているのは、フェリスくんの純粋な清廉さを守ってあげたくなってしまったから。
あんなことをされても、私の前では気丈に振る舞い、一生懸命にもてなしてくれるような子だ。あの子の心は、並の人より強く、そして優しすぎる。
差し伸べる手すら遠慮してしまいそうな子。
どうか、気付いて欲しい。
自分の心が、悲鳴を上げていること。
いやあ、久しぶりに全力で索敵した。
『朝飯前』だからね。夜明け前の薄暗い時間に出発し、脂猪を探した。討伐そのものよりも索敵の方が難しい魔物。
その甲斐あって、見つけた時には嬉しくて一瞬で叩っ斬っていたね。これで文句は言わせない、と。
ヴァネッサは魔術士だけあって、魔法鞄とは別に収納魔法が使える。鞄に施すよりも異空間を開けるやり方の方が遥かに高難易度のため、一定時間しか保たないのだが、今回はそれを使わせてもらって脂猪を丸々そのまま村へと持ち帰った。
その迫力に、全ての村人が屈した瞬間だった。
「村長さん。いかがですか」
「ひっ……こ、これは、間違いない!夢にまで見た脂猪じゃ!勇者様!ありがとうございます!」
「フェリスくんがこの村出身だと分かれば、こんな贅沢は贅沢でなくなるでしょうけどね。国から謝礼金も出ますし」
「しゃ、謝礼金、ですと……?」
「ええ。『優秀な子を育ててくれてありがとう』の一時金です」
「そ、そうなのですか……おお……」
ほんのちょっとしたお小遣い程度の金だが。
村長の頭の中では、カチカチと遅めの計算がされているようだった。
「フェリスは……本人の意思で決めさせますじゃ。行く……となれば、倅の結婚相手に相応しいからのう、旅の間、悪い虫が付かないようにしてくれ。それから、旅を終えたら無事に返すように」
「善処しますね」
私はふんわりと笑った。もちろん悪い虫は付かせないし、無事に迷宮踏破すれば故郷への里帰りは可能。ただ、その頃まで私が手を出さない保証はない。我慢するけど。
広場では脂猪に感謝して宴をするという。手のひらをくるりと返した村人たちが、飾り付けや準備を始めた。
騒ぎに乗じて、フェリスくんの家をちらりと見ると……なんと、外から板が打ち付けられている!
フェリスくんが何をしたのか。ただ昨日、私たちをもてなしてくれただけなのに。即効開けさせようと思ったが、立ち上がったところで考えを改めた。
フェリスくんを解放すれば、あの村長の息子が黙ってはいないだろう。
村人のほとんどは懐柔した。しかし、彼は違う。
今は自宅にいるからまだいい。もし、村長の家や、全く無関係の知らない場所へ閉じ込められたら?
あの少年なら、やるだろう。
私には、確信があった。
それならば、心苦しいが夜まで待とう。多分彼の様子では断られてしまう確率は高いが、少しでも話したい。
宴では、多くの男女が私に擦り寄ってきた。こういうことは慣れている。村人であれば『一晩』が目的であり、断っても『なんだ、残念』くらいのものだ。聖剣に引き寄せられた神官の方がよほどしつこかった。
フェリスくんも、そうなればいいのに。
村長の息子は、どうやら別の女の子に言い寄られて気分を良くし、ホイホイと着いて行ったようだ。ああ、自分の浮気はいいけど恋人のは許さないタイプか。クソだな。
私は恋人は作らず専門の方に協力してもらうタイプだ。王位継承権は放棄し貴族籍もいまや無い身だが、子種の管理はきっちりと、というマナーは身についている。なんせバラマキ王という反面教師を見ているからね。
納屋へ入っていく少年少女を見届けて、私は行動を起こすことにした。
私はフェリスくんの部屋の窓を破壊し、彼を抱き上げ、綺麗な場所へ向かった。
脂猪を探す途中で見つけた場所だ。
彼の流す悲しい涙は、大半があのクズ男のせいだ。少しでも癒えればいい。
しかしやはり、フェリスくんは着いてくる気はなさそうだった。すっかり諦めてしまっている。
どう、すべきかな。
甘やかしてやれば、着いてきてくれるか?
励ましてやれば、着いてきてくれるのか?
私はその安直な案を却下した。
明日には出立する。私が攫うのは簡単だが、それでは彼に未練が残ってしまうだろう。
彼の心をがらりと変えるような言葉が必要だ。それが、荒療治になったとしても。
少し酒を飲んで、景気付ける。私の横にはフェリスくんがいて、泣き跡が痛々しい。
そんなぼろぼろの彼の心に、申し訳ない。
君の代わりなんて、いる訳がないだろう?
だから私は、必死だ。
自分の心さえ騙して、なんでも無い顔で君を傷付ける。
そうまでするのは、どうしても君が欲しいから。
はやく、目を覚ますんだ。
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