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ちっちゃな胸のおっきな悩み
△02▽ 何が望みなんだよ
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「お、おかしい……」
どうしてこうなった。
「やったー! 初めて最下位にならずに済みました!」
苦悩しているくららの横から誠実の喜ぶ声が聞こえてくる。
「な、何でこんなことに……」
結論から言えば、灰時が一番に勝ち抜け、その後誠実とくららの一騎打ちとなったのだが、そこでもあっさりと誠実に負けてしまった。
いや、そもそも最初にきたカードが良くなかった。ものの見事に弱いカードばかりで、だからといって弱いカードを強いカードにできるいわゆる『革命』ができるかと言われれば、それもできず何の対抗策も打ち出せないまま気付いたら負けてしまっていた。
「くらら。約束覚えているよね?」
灰時が有無を言わさないような笑顔でくららを見つめる。
「いっ、一位の人が最下位の人に~ってやつだろ? ちゃんと覚えてるよ!」
(くそっ! おれも漢だ。こうなった以上覚悟を決めるしかねぇ……!)
いや、まぁ女なんだけれども。
「な、何が望みなんだよ……」
灰時のことだ。なんか変な、その……、い、いやらしいこととか頼んでくるかもしれないが、内容によってはまぁ、善処できないことも……とか、もやもや考えていると、思いもよらぬ言葉が灰時から聞こえてきた。
「くららの悩みを打ち明けてほしい」
「……へっ?」
本当に、思ってもみない言葉だったので、口から間抜けな言葉が出てしまった。
「くらら今、何か悩んでいるんじゃない?」
灰時の顔は至って真面目で、真剣に話を聞こうとしているようだった。
「部屋に入って来たときも、なんか元気がない声だったし……」
「えっ、いや、それは……」
……言えるわけがない。まさか胸が小さ過ぎて悩んでいただなんて。
「ねぇ、くらら。俺たちどんなことも三人で話し合って解決していこうって決めたよね。悩みがあるなら、ちゃんと話してほしいんだ。だって俺たちは恋人であり、家族なんだから」
「そっ、そうですよ! オレ、また姉さんに悩みがあるとか全然気付けなかったけど、悩みがあるならちゃんと話してほしいです!」
横にいた誠実も、状況を察してか、同じように声を上げる。
「いや、そんな大したことじゃないから別に……」
「くらら!」
「姉さん!」
二人に同時に詰め寄られる。
「うっ……」
だめだ。もう逃げられない。これはもう言うしか道は残されていないようだった。
意を決して、言葉を紡ぐ。
「……が、小さいなと思ってて……」
思ったより小さい声が自分の口から出てしまった。
「えっ、何? 聞こえなかった」
「何て言ったんですか? 姉さん」
案の定、聞き返されてしまう。ここからはもうヤケだった。
「~~っ! だ、だからおれの胸が小さくてお前らがちゃんと満足できてるのかって悩んでんだよっ!!」
(い、言ってしまった……!)
「「えっ?」」
その瞬間、二人が同時に同じ顔で声を上げる。普段はあまり似ていると感じないが、こういうときの顔はそっくりだ。
「む、胸……?」
灰時が何を言っているのか分からないといったように目を瞬かせる。
「……満、足?」
その隣では、やはりよく分かっていないような顔で誠実が首を傾げた。
「あっ、いや、だからその……、や、やっぱり今のはなかったことに!」
改めて繰り返されると、自分が本当にとんでもないことを言ったのだと、思い知らされる。居た堪れなくなってくららは思わずその場から逃げようと、勢いよくドアに向かったのだが、
「あっ、ちょ、待って! くらら」
「姉さん、待って!」
その瞬間、灰時と誠実に両腕を片方ずつ掴まれ、引き止められてしまう。
「は、離せっ! 何でもないからっ! 本当に何でもないからっ!!」
必死に抵抗を試みるが、二人は一向に手を離す気配がない。
「何でもないわけないじゃないですか!」
誠実が半ば泣きそうな顔で必死に訴え、
「と、とりあえず、もう少し詳しく話を聞かせて?」
灰時が優しく、くららを諭した。
「うっ……」
二人の必至な顔を見ていたら、逃げるに逃げられなくなってしまった。くららは諦めて部屋に座り直し、事の顛末を話すことにした。
「……今日、風呂上がったあと、鏡見ながら改めて思ったんだよ。おれの胸って小さいなーって。男ってやっぱさ、胸おっきい子が好きじゃん? おれも男だったら、付き合うのは胸のおっきい子がいいなーとか思っちゃうし。だ、だから」
実際、くららが男なら、やっぱりそう思っていたと思う。
「おれのこの胸じゃ、二人はその、物足りないって思っているんじゃないかって、急に不安になって……」
やはり、くららの男か女か分からない程度の胸のふくらみでは、男は満足できない気がするのだ。
「な、何言ってるんですか、姉さん!」
くららの少し泣きそうな顔につられて、誠実も泣きそうなその顔をこちらに向ける。
「くらら、あのね」
そんな中、灰時が冷静な声でくららの肩に手を置き告げた。
「男がみんな、胸の大きな子が好きなわけじゃないから」
「……ふぇっ?」
あまりに真剣な顔と、その言葉の内容のギャップに思わず間抜けな声が出る。
「ていうか、むしろ大きいから何? っていう感じだし、そんなのアピールされたって困るし、所詮あんなの脂肪の塊だし、自信満々に見せつけられても困るっていうか……」
……そういえば。灰時はくららと付き合う前、美人で胸の大きい女とばかり付き合っていなかったか。いや、付き合うといっても結構頻繁に違う女に変わっていた気がする。あれは、付き合っていたのか、言い寄られていたのか、今となっては謎だが。そのとき何かあったのだろうか……。
「……ごめん。ちょっと話が脱線したけど、俺は個人的に言わせてもらえばくららくらいのサイズが一番好きだよ。こう、全て手に包んでしまえるフィット感というか、何より心臓の音が近い感じがしてよりくららと密着してる気になれるというか、物理的に距離が近い感じがするから小さいのが逆にいいというか……」
「…………」
目を見開きながら興奮気味に話す灰時を見て、自分でも自分の顔の表情がだんだん無くなっていくのが分かる。
(……おれ、何でこんな変態と付き合ってるんだっけ?)
「あれっ? くらら? どうしたの? 何でそんな汚いものを見るような目でこっちを見てるのっ!?」
ちょと、くらら~とか叫びながら、灰時が肩を揺さぶってくる。まとまらない思考が余計にまとまらないからやめてほしい。
「に、兄さんの話はともかく」
「ともかくっ!?」
「姉さん、僕……、じゃなかったオレは、胸の大きさとか全然気にしたことないです! 姉さんが姉さんならどんな胸でも好きですし、それに、正直オレ姉さん以外の胸とかそもそも全然興味ないですからっ!」
「せ、誠実……」
あの灰時の後だからか、誠実の言葉がすっと胸に入っている。
「ありがとう。誠実のおかげで心が軽くなったよ……。灰時はともかく」
「また、ともかくっ!?」
灰時がまた一人で騒ぎ始めた。お前はもっと言い方があっただろうが、とか思ってしまう自分は心が狭いのだろうか、とも思ったが──、
「ひ、ひどいよ。俺だってこんなにくららの胸の素晴らしさを訴えているのに~~!」
「お前は、そろそろ黙ろうか」
灰時はもともとこんなんなので、気にしないことにした。
「よしっ! じゃあ、くららの胸の素晴らしさをより分かってもらうには、やっぱり実践しかないよね!」
くららの言葉にもめげすに、灰時がとんでもないことを言い出した。
「はぁっ!? どうゆう──」
言うや否や、灰時がくらら抱えて歩き出す。
「ちょっ、どこにっ!」
そう言うと、灰時はさっきまでの情けない顔から打って変わり、妖艶な笑みを見せた。
「えー? だってくららが言ったんでしょ? さっさとお風呂に入れって」
「いや、まさか、お前……。っていうか、おれはもう風呂に入って──!」
「ほら、誠実くんも早く」
「えっ? えっ!?」
一人、状況が分かっていない誠実が、おどおどしながらも付いてくる。
くららは正直、嫌な予感しかしなかった。
どうしてこうなった。
「やったー! 初めて最下位にならずに済みました!」
苦悩しているくららの横から誠実の喜ぶ声が聞こえてくる。
「な、何でこんなことに……」
結論から言えば、灰時が一番に勝ち抜け、その後誠実とくららの一騎打ちとなったのだが、そこでもあっさりと誠実に負けてしまった。
いや、そもそも最初にきたカードが良くなかった。ものの見事に弱いカードばかりで、だからといって弱いカードを強いカードにできるいわゆる『革命』ができるかと言われれば、それもできず何の対抗策も打ち出せないまま気付いたら負けてしまっていた。
「くらら。約束覚えているよね?」
灰時が有無を言わさないような笑顔でくららを見つめる。
「いっ、一位の人が最下位の人に~ってやつだろ? ちゃんと覚えてるよ!」
(くそっ! おれも漢だ。こうなった以上覚悟を決めるしかねぇ……!)
いや、まぁ女なんだけれども。
「な、何が望みなんだよ……」
灰時のことだ。なんか変な、その……、い、いやらしいこととか頼んでくるかもしれないが、内容によってはまぁ、善処できないことも……とか、もやもや考えていると、思いもよらぬ言葉が灰時から聞こえてきた。
「くららの悩みを打ち明けてほしい」
「……へっ?」
本当に、思ってもみない言葉だったので、口から間抜けな言葉が出てしまった。
「くらら今、何か悩んでいるんじゃない?」
灰時の顔は至って真面目で、真剣に話を聞こうとしているようだった。
「部屋に入って来たときも、なんか元気がない声だったし……」
「えっ、いや、それは……」
……言えるわけがない。まさか胸が小さ過ぎて悩んでいただなんて。
「ねぇ、くらら。俺たちどんなことも三人で話し合って解決していこうって決めたよね。悩みがあるなら、ちゃんと話してほしいんだ。だって俺たちは恋人であり、家族なんだから」
「そっ、そうですよ! オレ、また姉さんに悩みがあるとか全然気付けなかったけど、悩みがあるならちゃんと話してほしいです!」
横にいた誠実も、状況を察してか、同じように声を上げる。
「いや、そんな大したことじゃないから別に……」
「くらら!」
「姉さん!」
二人に同時に詰め寄られる。
「うっ……」
だめだ。もう逃げられない。これはもう言うしか道は残されていないようだった。
意を決して、言葉を紡ぐ。
「……が、小さいなと思ってて……」
思ったより小さい声が自分の口から出てしまった。
「えっ、何? 聞こえなかった」
「何て言ったんですか? 姉さん」
案の定、聞き返されてしまう。ここからはもうヤケだった。
「~~っ! だ、だからおれの胸が小さくてお前らがちゃんと満足できてるのかって悩んでんだよっ!!」
(い、言ってしまった……!)
「「えっ?」」
その瞬間、二人が同時に同じ顔で声を上げる。普段はあまり似ていると感じないが、こういうときの顔はそっくりだ。
「む、胸……?」
灰時が何を言っているのか分からないといったように目を瞬かせる。
「……満、足?」
その隣では、やはりよく分かっていないような顔で誠実が首を傾げた。
「あっ、いや、だからその……、や、やっぱり今のはなかったことに!」
改めて繰り返されると、自分が本当にとんでもないことを言ったのだと、思い知らされる。居た堪れなくなってくららは思わずその場から逃げようと、勢いよくドアに向かったのだが、
「あっ、ちょ、待って! くらら」
「姉さん、待って!」
その瞬間、灰時と誠実に両腕を片方ずつ掴まれ、引き止められてしまう。
「は、離せっ! 何でもないからっ! 本当に何でもないからっ!!」
必死に抵抗を試みるが、二人は一向に手を離す気配がない。
「何でもないわけないじゃないですか!」
誠実が半ば泣きそうな顔で必死に訴え、
「と、とりあえず、もう少し詳しく話を聞かせて?」
灰時が優しく、くららを諭した。
「うっ……」
二人の必至な顔を見ていたら、逃げるに逃げられなくなってしまった。くららは諦めて部屋に座り直し、事の顛末を話すことにした。
「……今日、風呂上がったあと、鏡見ながら改めて思ったんだよ。おれの胸って小さいなーって。男ってやっぱさ、胸おっきい子が好きじゃん? おれも男だったら、付き合うのは胸のおっきい子がいいなーとか思っちゃうし。だ、だから」
実際、くららが男なら、やっぱりそう思っていたと思う。
「おれのこの胸じゃ、二人はその、物足りないって思っているんじゃないかって、急に不安になって……」
やはり、くららの男か女か分からない程度の胸のふくらみでは、男は満足できない気がするのだ。
「な、何言ってるんですか、姉さん!」
くららの少し泣きそうな顔につられて、誠実も泣きそうなその顔をこちらに向ける。
「くらら、あのね」
そんな中、灰時が冷静な声でくららの肩に手を置き告げた。
「男がみんな、胸の大きな子が好きなわけじゃないから」
「……ふぇっ?」
あまりに真剣な顔と、その言葉の内容のギャップに思わず間抜けな声が出る。
「ていうか、むしろ大きいから何? っていう感じだし、そんなのアピールされたって困るし、所詮あんなの脂肪の塊だし、自信満々に見せつけられても困るっていうか……」
……そういえば。灰時はくららと付き合う前、美人で胸の大きい女とばかり付き合っていなかったか。いや、付き合うといっても結構頻繁に違う女に変わっていた気がする。あれは、付き合っていたのか、言い寄られていたのか、今となっては謎だが。そのとき何かあったのだろうか……。
「……ごめん。ちょっと話が脱線したけど、俺は個人的に言わせてもらえばくららくらいのサイズが一番好きだよ。こう、全て手に包んでしまえるフィット感というか、何より心臓の音が近い感じがしてよりくららと密着してる気になれるというか、物理的に距離が近い感じがするから小さいのが逆にいいというか……」
「…………」
目を見開きながら興奮気味に話す灰時を見て、自分でも自分の顔の表情がだんだん無くなっていくのが分かる。
(……おれ、何でこんな変態と付き合ってるんだっけ?)
「あれっ? くらら? どうしたの? 何でそんな汚いものを見るような目でこっちを見てるのっ!?」
ちょと、くらら~とか叫びながら、灰時が肩を揺さぶってくる。まとまらない思考が余計にまとまらないからやめてほしい。
「に、兄さんの話はともかく」
「ともかくっ!?」
「姉さん、僕……、じゃなかったオレは、胸の大きさとか全然気にしたことないです! 姉さんが姉さんならどんな胸でも好きですし、それに、正直オレ姉さん以外の胸とかそもそも全然興味ないですからっ!」
「せ、誠実……」
あの灰時の後だからか、誠実の言葉がすっと胸に入っている。
「ありがとう。誠実のおかげで心が軽くなったよ……。灰時はともかく」
「また、ともかくっ!?」
灰時がまた一人で騒ぎ始めた。お前はもっと言い方があっただろうが、とか思ってしまう自分は心が狭いのだろうか、とも思ったが──、
「ひ、ひどいよ。俺だってこんなにくららの胸の素晴らしさを訴えているのに~~!」
「お前は、そろそろ黙ろうか」
灰時はもともとこんなんなので、気にしないことにした。
「よしっ! じゃあ、くららの胸の素晴らしさをより分かってもらうには、やっぱり実践しかないよね!」
くららの言葉にもめげすに、灰時がとんでもないことを言い出した。
「はぁっ!? どうゆう──」
言うや否や、灰時がくらら抱えて歩き出す。
「ちょっ、どこにっ!」
そう言うと、灰時はさっきまでの情けない顔から打って変わり、妖艶な笑みを見せた。
「えー? だってくららが言ったんでしょ? さっさとお風呂に入れって」
「いや、まさか、お前……。っていうか、おれはもう風呂に入って──!」
「ほら、誠実くんも早く」
「えっ? えっ!?」
一人、状況が分かっていない誠実が、おどおどしながらも付いてくる。
くららは正直、嫌な予感しかしなかった。
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