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本編とは関係あるようでない小話

シアの弟の話

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 私には、兄がいたらしい。
 一族の中では生まれてすらいないことになっているその兄は、生まれてすぐに捨てられた。
 私が十五になったとき、母がそっと「あなたにはお兄さんがいるのよ」と教えてくれた。
 兄は魔力量が異常に少なく、魔力の器の中をふよふよと浮いているような、そんな状態だったらしい。それは魂の色にあわられていて、一族の魔眼持ちがいうに、「おそらく成人まで保たないだろう」と。
 弱いものなど必要ないという私の一族の掟には逆らうことができなかった、と母は震える声で私に告げた。
 けれど、せめてと、通常は森に捨て置くところ、評判の良かった孤児院の前に捨てたのだという。
 万が一にも足がついて、改めて殺されるようなことがあったら嫌だから会いに行ったことも見に行ったことすらない。だから今も生きているのかすらはわからない。
 けれど生きて、もし彼が幸せだと思ってくれていたら、それに勝る幸せはない。
 そう告げたあと、母は、私を抱きしめて「あなたも、どうか幸せになるのよ。私の愛しい息子」と言った。
 愛情深い人だった。


「シアくん」
 雑踏の中でその名前を呼ぶ声が妙に耳をついて、振り返る。
 シア、と呼ばれた青年は、読んだ金髪の青年の方を振り返って、「師匠!」と幸せそうに笑った。
 その青年の笑顔と声を聞いた瞬間に、「兄だ」と思った。
 笑顔が、母に似ているような気がした。顔自体は、父親寄りだろうか。いや、二人のいいところどりをしたような顔とも言えるかもしれない。
 母方の祖父に似ているという私とはいまいち似ていないような気もする。声は似てるだろうか。
 私がなんとなく似ているところを探しているうちに、兄は私に気づくこともなく、そのまま金髪の青年と歩いていく。
 会話はもう聞こえない。
 けれど、あの笑顔でわかった。
 彼は今、幸せの中で生きている。


 帰宅して、私はすぐに母の墓前に立った。
 報告しなければいけないと思った。
「母上、兄は、とても幸せそうに生きていましたよ」
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