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「ユージーン、追いかけなくていいのか」
ダイスにそう言われ、追いかけなくてはいけないと思っているのに、ユージーンの体はまるで自分のものではないかのように動かすことができなかった。
シアがどこから聞いていたのかもわかない。
彼は、自分が死ぬと言うところは聞いていただろうか。
いや、自分が師匠を殺すってどういうことだと尋ねてきたんだ、そこは聞こえていなかったのではなかろうか。
シアには話すべきだと思っていたけれど、こんな形で、自分に何の準備もなく、言葉を選ぶ余裕もなくシアにバレることになるなんて思っていなかったユージーンは、思考も体も完全に固まってしまう。
「ユージーン、ユージーン。とにかくシア君を探そう。今日は冷える。ずっと外にいるとしたら、危ないよ」
ケンジロウの言葉に、「そう、ですよね」となんとか固まった体を指先から動かしていく。
シアが持ってきたのであろうユージーンの上着が扉の前に落ちていて、これを届けに来てくれたというのはすぐにわかって、ユージーンの表情はさらに歪んだ。
ともすれば「どうして」「なぜ」という悲しみに支配されそうになる思考を必死に押しのけて、上着を羽織ってケンジロウの店を飛び出した。
後ろから「俺たちも探すから。何かあったら連絡を!」とダイスが叫ぶ。
ダイスには呪術での連絡手段があるし、ユージーンにも魔術での連絡手段があるから、「わかりました」と叫び返して、ユージーンは走った。
息が白くなるくらいには、寒い。
ユージーンには、この町シアが行きそうな場所というのは一箇所しか思いつかず、まずはそこに走る。
(一日で得る情報として、今日は多すぎます)
走りながらそう思う。
(私はシアくんを見つけたら、…何を言うべきなんでしょうか)
師として、そして自分が愛してしまった人として、シアに対しては責任がある。
ぐちゃぐちゃのままの思考は、結局目的地である孤児院に着くまで、まとまることはなかった。
「落ち着いたかの?」
「うん。ありがと、じーちゃん…」
小さく頷いてから、シアは少し緩くなったホットミルクをのむ。
孤児院のみんなを起こしちゃいけないと思って、必死に声を殺したからか、喉が痛い。
ホットミルクがじんわりと沁みた。
「で、なんでまたこんな時間にあんなところにおったんじゃ?」
「…、よく、わかんない」
シアは、今日のことをどこから説明していいのかわからなかった。
だけど、言葉はぽつりぽつりとシアの心から溢れていく。
「……俺、師匠に嫌われてるのかなぁ…」
「なんでそう思うんじゃ?」
「……師匠、死ねないんだ。だから死にたいんだ。たぶん、殺せるの、俺だけなんだ」
ユージーンが不死である、というのは一部で流れる眉唾な噂程度に収まっていて、公にはなっていない。
だから当然院長も知らず驚いたが、その驚きは表に出さずにシアの言葉をまった。
「でも、俺に殺されるのは嫌なんだって…。ずっと願ってたはずのことより、俺に殺されるほうがが嫌なんだって。…さっき、そう聞いて」
「……」
「なんで?って思って。…俺、師匠のこと好きだけど、迷惑だったのかな。俺が嫌いだから、嫌いな奴になんて殺されたくないのかなって、思って…」
院長は、シアの言葉に逆ではないか、と思ったが、それを今この場で言葉にしていいのかは、すぐには判断ができなかった。
逆だと断定できるほど、院長はユージーンのことを知らないし、孤児院のことで感謝はしているが、ユージーンは特定の何かへの執着だったり、人への感情だったりは薄い気もしていた。
なんて言おうと思った時、キンコン、と玄関のベルが鳴った。
「ちょっと、ゆっくりしておきなさい」
院長はシアにそう声をかけて、玄関へ向かった。
ダイスにそう言われ、追いかけなくてはいけないと思っているのに、ユージーンの体はまるで自分のものではないかのように動かすことができなかった。
シアがどこから聞いていたのかもわかない。
彼は、自分が死ぬと言うところは聞いていただろうか。
いや、自分が師匠を殺すってどういうことだと尋ねてきたんだ、そこは聞こえていなかったのではなかろうか。
シアには話すべきだと思っていたけれど、こんな形で、自分に何の準備もなく、言葉を選ぶ余裕もなくシアにバレることになるなんて思っていなかったユージーンは、思考も体も完全に固まってしまう。
「ユージーン、ユージーン。とにかくシア君を探そう。今日は冷える。ずっと外にいるとしたら、危ないよ」
ケンジロウの言葉に、「そう、ですよね」となんとか固まった体を指先から動かしていく。
シアが持ってきたのであろうユージーンの上着が扉の前に落ちていて、これを届けに来てくれたというのはすぐにわかって、ユージーンの表情はさらに歪んだ。
ともすれば「どうして」「なぜ」という悲しみに支配されそうになる思考を必死に押しのけて、上着を羽織ってケンジロウの店を飛び出した。
後ろから「俺たちも探すから。何かあったら連絡を!」とダイスが叫ぶ。
ダイスには呪術での連絡手段があるし、ユージーンにも魔術での連絡手段があるから、「わかりました」と叫び返して、ユージーンは走った。
息が白くなるくらいには、寒い。
ユージーンには、この町シアが行きそうな場所というのは一箇所しか思いつかず、まずはそこに走る。
(一日で得る情報として、今日は多すぎます)
走りながらそう思う。
(私はシアくんを見つけたら、…何を言うべきなんでしょうか)
師として、そして自分が愛してしまった人として、シアに対しては責任がある。
ぐちゃぐちゃのままの思考は、結局目的地である孤児院に着くまで、まとまることはなかった。
「落ち着いたかの?」
「うん。ありがと、じーちゃん…」
小さく頷いてから、シアは少し緩くなったホットミルクをのむ。
孤児院のみんなを起こしちゃいけないと思って、必死に声を殺したからか、喉が痛い。
ホットミルクがじんわりと沁みた。
「で、なんでまたこんな時間にあんなところにおったんじゃ?」
「…、よく、わかんない」
シアは、今日のことをどこから説明していいのかわからなかった。
だけど、言葉はぽつりぽつりとシアの心から溢れていく。
「……俺、師匠に嫌われてるのかなぁ…」
「なんでそう思うんじゃ?」
「……師匠、死ねないんだ。だから死にたいんだ。たぶん、殺せるの、俺だけなんだ」
ユージーンが不死である、というのは一部で流れる眉唾な噂程度に収まっていて、公にはなっていない。
だから当然院長も知らず驚いたが、その驚きは表に出さずにシアの言葉をまった。
「でも、俺に殺されるのは嫌なんだって…。ずっと願ってたはずのことより、俺に殺されるほうがが嫌なんだって。…さっき、そう聞いて」
「……」
「なんで?って思って。…俺、師匠のこと好きだけど、迷惑だったのかな。俺が嫌いだから、嫌いな奴になんて殺されたくないのかなって、思って…」
院長は、シアの言葉に逆ではないか、と思ったが、それを今この場で言葉にしていいのかは、すぐには判断ができなかった。
逆だと断定できるほど、院長はユージーンのことを知らないし、孤児院のことで感謝はしているが、ユージーンは特定の何かへの執着だったり、人への感情だったりは薄い気もしていた。
なんて言おうと思った時、キンコン、と玄関のベルが鳴った。
「ちょっと、ゆっくりしておきなさい」
院長はシアにそう声をかけて、玄関へ向かった。
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