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「は?今なんて…」
「だからね、シア君、そんなに長くないっていったの」

 シエルは困ったような笑顔を浮かべた。

「どういう、ことですか」

 努めて冷静な声を出そうとしたが、声は震えた。

(シアくんが死ぬ、ということですか?なぜ?なぜあの子が?)

「あの子、魔力の器に対して、魔力枯渇状態が長過ぎたんだよ」

 シエルは続ける。

「本当なら、もっと早く死んでてもおかしくない。ただ、ユージーンに出会って、魔力を補充する方法を手に入れたでしょ。おかげで、少し持ち直したんだね。シアくん年齢よりも少し心が幼目なのは、魔力の枯渇が魂に影響したのもあるかも」
「持ち直したなら…」

 ずっと魔力を補充しておけば、と続けようとしたユージーンにシエルが首を横に振る。

「言ったでしょ、長すぎたって。もう、魂がすごく眩しいんだ」
「っっ」

 シエルの言う“眩しさ”は、魂が最期に向けて輝く時期のことを指す。
 シエルがシアをみて何度も眉を寄せていたのは、魂の光が強かったからだ。

「あと、どれくらい…ですか」
「そうだね。1年ってとこかな」
「1年…。それは、シアくんには?」
「言ってないよ」

 シエルが「シア君、師匠に言うべきだと思うことは自分じゃなく師匠に言ってって言ってたからね」と続けたから、ユージーンはたまらなくなって顔を覆う。
 あんなに、あんなに優しい子がなぜ。
 自分のような人間が不死という馬鹿げた命を受け、あの子がどうしてそんな宿命を背負わないといけないんだ。
 ユージーンは自分が死ねないと分かった時のような、強い怒りとも悲しみとも恐怖とも言えない感情にかき回される。

「僕はね、ユージーン。彼の寿命について、君から彼に伝えるべきだと思うよ」
「シエル…」
「それから、君の解呪の方法も」

 シエルは少し窓の外へ目を向ける。

「どう死にたいかっていうのは、どう生きたいかって話だから」

 ユージーンは、顔を覆ったまま、静かな、静かな声で「そうですね」と答えた。




 ユージーンとシエルが部屋から出ると、ダイスとシアはババ抜きをやっていた。

「あれ、僕の家トランプなんてあったっけ?」
「俺の私物だ。船旅は暇な時間が多いからカードゲームが流行るんだよ」

 シエルの問いにダイスがそう返す。
 ちょうどシアが最後のババを引くか否かというとこだったらしく、「師匠!ちょっとだけ待って!」とシアがいった。
 ユージーンは、思わず泣きそうになって、でも「ちょっとだけですよ?」と笑ってみせる。ダイスの手元の2枚のカードに釘付けになっているシアはその顔には気がつかなかった。
 結局、ババ抜きはダイスの勝ちに終わり(シアは顔に出過ぎるためこう言ったゲームには弱い)、ゲームが終わるのを待っていたユージーンはシアだけ先に家に帰るように頼んだ。

「いいけど、なんで?」
「ダイスが帰ってきてるなら、ユカリも呼んでちょっと呑みたくなりまして」
「ふうん?分かった。ダイスさん、シエルさん、ありがとうございました」

 今までにも数度こういうことがあったため、ユージーンの言に特に疑問は持たずシアはぺこりとダイスとシエルに頭を下げた。

「いやーっ、ほんっと師匠に似なくて良かったね!」
「どういう意味ですかシエル」
「素直って可愛いって意味だよ。ユージーン可愛くないんだもん」

 シエルは笑う。
 ダイスも少し笑って。

「じゃあ、戸締り頼みますね」
「はーい」

 シアは魔法陣に立って、ユージーンの魔法で送り返された。
 
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