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シアがユカリのところへ行きたいと言ったのは、ユージーンにとってはさほど意外でもなかった。
あれ以来、ぎこちない空気がないとは言わないが、セックスはできているから魔力は安定して彼の体の中にあるし、転移魔法も何度か一緒に練習し、問題なく使えることもわかっていたから、「いいですよ」と言った。
大方、自分との関係について相談しに行ったんだろう、と思う。
それについて、思うところがないとは言わないが考えたって仕方がない。
だから、ユージーンは長らく持っていた疑問について、シアの元いた孤児院の院長を訪ねることにした。
ユージーンがお金を渡して国と繋いでから、例の孤児院は随分と綺麗な建物を建て直してもらったらしい。
ちゃんと建物についても相談をしてもらったらしく、手入れがきちんと行き届く範囲の大きさで、清潔を保ちやすい魔法もかけてある。
国からの補助金というのはそうそう変わるわけではないが、教会が併設されたからか、寄付金はそれなりにあるようで、贅沢はできずとも、健康に暮らすには何も問題ない生活環境が整ったのだそうだ。
ここまでは、噂話でも手に入れられる情報で、ユージーンが知りたいのはそういう孤児院のことではなくて、シア本人のことだった。
「ユージーン様。よくいらしてくださいました」
ゆったりとお辞儀をする院長は、初めて会ったあのときより貫禄が出ていた。
寄付金が増えた関係で守るべきこどもの数が増えたのと、どうやらユージーンが間に入ったことで、貴族からちょっかいをかけられることもあるそうだ。そこに関しては、後でこっそり何とかしよう、と心に決めて、院長に促されるままに院長室へと足を運ぶ。
「シアのことですよね」
ユージーンが何か言う前に、院長はそう微笑んだ。
「ええ。シアくんのことで、わかることを教えていただきたくて」
ユージーンの言葉に、院長は少し困ったように笑ってから、すみません、と謝った。
「お力になりたいのですが、シアから聞いていると思います。彼は孤児院の前に捨て置かれた子どもだったんです。ですから、シアの身の上話というのは、私にわかることはほとんどないんですよ」
「…ちょっとすみません」
「はい?」
「孤児院の前に捨てられたんですか、シアくん」
「ええ。生まれてまだ数ヶ月も経ってない頃ですかねぇ。薄い毛布に包まれた彼を入れた籠が、孤児院の門のところに置いてあったんです」
孤児院の前、つまり拾ってくれと願って捨てられた、ということか。
ユージーンは口を手に当てて少し考える。
(なんらかの事情があって捨てられたのはまあ、間違いないんでしょうけれど。心から死を願われていた子どもではなかったということですよね。とりあえず)
「ああ、そうだ。毛布にね、奇妙な模様が書いてありましたよ」
「模様?」
「ええ、現物はもう燃えてしまってないのですが、ええと…たしか」
院長が紙に描いた模様は、所々曖昧ではあったが、ユージーンにとって馴染みの深いものだった。
守護を願う魔法陣。
(シアくんのルーツは、ちょっときちんと追っておいた方がいいかもしれませんね)
院長に礼をいい、それなりの額の寄付を教会に渡し(孤児院に渡そうとしたら断わられた)ユージーンは孤児院を後にする。
門を出たところで、ふ、と空を仰ぐ。
「シエルに、会いに行きましょうかね」
あれ以来、ぎこちない空気がないとは言わないが、セックスはできているから魔力は安定して彼の体の中にあるし、転移魔法も何度か一緒に練習し、問題なく使えることもわかっていたから、「いいですよ」と言った。
大方、自分との関係について相談しに行ったんだろう、と思う。
それについて、思うところがないとは言わないが考えたって仕方がない。
だから、ユージーンは長らく持っていた疑問について、シアの元いた孤児院の院長を訪ねることにした。
ユージーンがお金を渡して国と繋いでから、例の孤児院は随分と綺麗な建物を建て直してもらったらしい。
ちゃんと建物についても相談をしてもらったらしく、手入れがきちんと行き届く範囲の大きさで、清潔を保ちやすい魔法もかけてある。
国からの補助金というのはそうそう変わるわけではないが、教会が併設されたからか、寄付金はそれなりにあるようで、贅沢はできずとも、健康に暮らすには何も問題ない生活環境が整ったのだそうだ。
ここまでは、噂話でも手に入れられる情報で、ユージーンが知りたいのはそういう孤児院のことではなくて、シア本人のことだった。
「ユージーン様。よくいらしてくださいました」
ゆったりとお辞儀をする院長は、初めて会ったあのときより貫禄が出ていた。
寄付金が増えた関係で守るべきこどもの数が増えたのと、どうやらユージーンが間に入ったことで、貴族からちょっかいをかけられることもあるそうだ。そこに関しては、後でこっそり何とかしよう、と心に決めて、院長に促されるままに院長室へと足を運ぶ。
「シアのことですよね」
ユージーンが何か言う前に、院長はそう微笑んだ。
「ええ。シアくんのことで、わかることを教えていただきたくて」
ユージーンの言葉に、院長は少し困ったように笑ってから、すみません、と謝った。
「お力になりたいのですが、シアから聞いていると思います。彼は孤児院の前に捨て置かれた子どもだったんです。ですから、シアの身の上話というのは、私にわかることはほとんどないんですよ」
「…ちょっとすみません」
「はい?」
「孤児院の前に捨てられたんですか、シアくん」
「ええ。生まれてまだ数ヶ月も経ってない頃ですかねぇ。薄い毛布に包まれた彼を入れた籠が、孤児院の門のところに置いてあったんです」
孤児院の前、つまり拾ってくれと願って捨てられた、ということか。
ユージーンは口を手に当てて少し考える。
(なんらかの事情があって捨てられたのはまあ、間違いないんでしょうけれど。心から死を願われていた子どもではなかったということですよね。とりあえず)
「ああ、そうだ。毛布にね、奇妙な模様が書いてありましたよ」
「模様?」
「ええ、現物はもう燃えてしまってないのですが、ええと…たしか」
院長が紙に描いた模様は、所々曖昧ではあったが、ユージーンにとって馴染みの深いものだった。
守護を願う魔法陣。
(シアくんのルーツは、ちょっときちんと追っておいた方がいいかもしれませんね)
院長に礼をいい、それなりの額の寄付を教会に渡し(孤児院に渡そうとしたら断わられた)ユージーンは孤児院を後にする。
門を出たところで、ふ、と空を仰ぐ。
「シエルに、会いに行きましょうかね」
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