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「で、お姉さんのほうはこれでいったんおしまいということでー。あ、代金はユージーンがどうせ払ってくれるから気にしないでね。ちゃんとぼっとくから」
「適正価格で支払いますね」
「えー、かわいくなーい。お金あるくせに」

 シエルはそういって笑ってから、ふと、真面目な顔をした。

「ねえ。そっちのお兄さんは呪術師…、見習いかな。あってる?」

 突然自分に話をふられて、ダイスはギョッとしたが、「はい」とひとまず素直に頷く。

「ユージーンの呪い、多分君が解呪に一端を担うことになると思うよ」
「「!?」」

 驚いたのはダイスだけじゃなく、ユージーンもだった。
 この青年が?自分の呪いを解ける?

「どういうことですか、シエル!」
「ちょっと落ち着いてよユージーン」

 全くもう、と眉をよせるシエルに「落ち着けるわけがないでしょう!?」とらしくなく声をあげるユージーン。
 シエルは「はぁ」とため息をついた。

「一端を担うって言い方したでしょ。彼が解けるわけじゃないよ」
「ですが」
「そのお兄さん、一箇所にじっとしていられない色、あちこちに旅に出る色をしてる。でね、ユージーン、君の魂の色と、そのお兄さんの魂の色が一箇所だけ全く同じ色なんだけど、お兄さんのほうの魂は、後で色付けされた色。これは、もともと色を持っていた人間の運命の大きなきっかけの一つになるって兆しなの。で、お兄さん呪術師でしょ。だからまあ、ほぼ間違いなくユージーンの呪いのことだと思うし、…これは魂の色の占いじゃなくて、長年占い師やってるただの僕の勘だけど、そのお兄さんが生きている間に、ユージーンは死ねると思うよ」




「そのあと、急に与えられた情報が多過ぎて、ユージーンはフラッとどこかへ行ってしまうし、ダイスはしばらくフリーズしちゃうし、家に帰るの結構大変だったのよね」

 懐かしいわ、とユカリは笑うが、シアは暗い顔をしたままだった。

「ダイスさんと師匠が時々会ってるのって、呪いを解く方法を教えてもらってるから、なんですか?」
「え?うーん、ちょっと違うかな。呪いを解く方法を教えてるんじゃなくて、ダイスは仕事で遠出するたび、ユージーンの呪いを解く手がかりを探しているのね。今のところまだ何も見つかっていないけれど。その報告をしているの」

 お茶、覚めちゃったから入れ直すわね、とユカリが席を立ってから、空になったテーブルにシアは突っ伏した。

(ダイスさんは、師匠が死ねる方法を探してる)

 ダイスがどれだけユージーンと仲がいいのか、というのは実際一緒にいるところをそれほど見ていないからわからないが、少なくともユカリは、ユージーンを大切に思っているし、それはユージーンからも同じだと思う。
 ユージーンはデリカシーはないけれど、人の心に鈍いというわけではない。
 自分を大切にしてくれる存在を悲しませると、ちゃんと理解をしているだろう。
 それを押してでも、死を願うとはどういう気持ちなのか、シアにはわからない。
 止まっていた涙がまた、ぽろぽろと机に落ちた。
 シアはユージーンを失いたくない。
 けれど、ユージーンが心の底から願っていることを否定もしたくない。
 この感情をどうしたらいいのかは、やっぱりわからないままだった。
 けれど、ユカリの話を聞いて、一つだけ決めたことがあった。

 暖かいお茶を淹れなおして戻ってきたユカリに、シアは尋ねる。

「ユカリさん、俺、シエルさんに会いたい」
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