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昼食を終えたシアとユージーンが向かったのは、ケンジロウ=ユカリの店だった。
転移魔法で店に入ると、迎えてくれたのは、“ケンジロウ”の方だ。
「いらっしゃい、ユージーン、シア君」
「お邪魔します、ケンジロウ」
男の格好をしている時は、ユージーンは彼を「ケンジロウ」と呼ぶ。
シアに最初に会った時に、彼は女の格好をしているときは女、男の格好をしているときは男、だとケンジロウは話した。それはその通りの意味らしく、身体的性別は男性から変化はないものの、確かにユカリ、とケンジロウ、のふたつの性格が存在する。
けれど二重人格かというとそういうわけではないらしく、どちらも本人には変わりがない。記憶がなくなるわけでもない。ユージーンたちへの対応が変わるわけでもない。ただ、男性としての行動をとるか、女性としての行動をとるか、という違いがあるだけだ。
(服の量2倍になるから大変そう)
とシアは素直にそう思うが、ケンジロウのそういう部分に対して違和感はなかった。
「今日はなにをお求めだい?」
ケンジロウがそういうと、ユージーンはシアの服を数着買いたい、と返した。
「えっ、師匠まだ持ってる服着れるぜ!?もったいねぇ」
「着れる、と着て出かけられる、は少し違いますよシア君。稀代の大魔術師の私と一緒に外を歩くときは、少し“おでかけ着”というものを意識してください」
「なんだよそれっ。この服着てる俺と歩くの恥ずかしいってことかよ!!」
思わず噛み付いてくるシアに、ユージーンは苦笑をかえす。
助け舟をだしたのはケンジロウだ。
「シア君。ユージーンは単におしゃれした君を見たいだけさ。この人、お気に入りは着飾りたい癖があるんだ」
「そんなものありませんけど」
「嘘つくなよ。俺もダイスも、君にどれだけ服や装飾品を贈られたと思っているんだ」
「……」
ぷい、とユージーンはそっぽを向いた。
そして、あとはケンジロウのセンスにまかせますから、といって服屋とは違う階にそそくさと移動していく。
あんな師匠をみるのは初めてで、ぽかん、と口を開けたシアに、ケンジロウは笑った。
「さあ、君に似合う服を探すとしようか。…ああ、大丈夫。この辺りはフリッフリしかないけれどね、奥にはちゃんと君に似合う服があるよ」
ユージーンは、3階にある売り物の椅子に座って頭を抱えていた。
無意識で気づいてなかった自分の性癖をサラッと弟子にばらされて、このあとどういう顔をすればいいのかわからない。
(あとでこの椅子は買いましょう。ええ、座り心地いいですから)
無理矢理思考をずらすと、ふっと自分に影が落ちたのを感じた。
「おや、ダイス。帰ってきていたんですね」
「ああ、さっき。上にユージーンいるって聞いたから上がってきた」
ダイスは、ユージーンの数少ない友人だ。
一眼だと黒のようにも見える深い藍色の髪と目をした美青年は、よいしょ、とユージーンの横に座る。
「下にいたの、ユージーンの弟子だって?」
「そう。可愛いこでしょう」
「そうだな。意外だった、ああいうタイプを弟子にするのは」
「そうですね」
一瞬沈黙が降りたあと、ダイスは「ごめん」と突然呟いた。
その意味をすぐに理解して、ユージーンは苦笑する。
「やっぱり見つかりませんでした?」
「ああ」
「まあ、もう二百年以上探してるのに見つかってないんですし、ダイス、落ち込まないでください」
ダイスの眉間に深い皺が刻まれているのを見て、ユージーンはそれをつんと突いてから、さあ、私の弟子が可愛くなったのを一緒に観に行きましょう、と声をかけた。
「見てみて、師匠!これ超格好良くね!?」
この服出歩くの恥ずかしいのかよ!と怒っていたはずの弟子は、新しい服にひどく興奮していた。
黒が貴重になったジャケットは、大きく金の紋様の刺繍が入っているが、その刺繍は決して嫌味じゃない。同じく黒色のズボンは足の長めなシアにぴたっとマッチして、少しセクシーに見えた。
ローブの色が深い緑なので、ローブと合わせても、違和感なく確かに格好いい。
(さすがケンジロウ、いい仕事です)
ぐっと親指を立ててケンジロウに向けると、ケンジロウもまた親指を立ててウィンクもつけてかえしてきた。
同じようにセンス抜群の服を結局4着選んで購入し、一息ついたときに、シアがきいた。
「なあ、師匠。その藍色のひと、誰?」
「ああ、ダイス。私の友人ですよ」
ダイスはそのままだと少し強面に見える顔を意識して緩めて微笑みをシアに返す。
「ダイス=フィオランテという。呪術師だ」
呪術師は、一般的に人を呪うことで食っていると言われる職業だ。
思わずぎくりと緊張したシアにユージーンが補足した。
「ダイスは国家資格を持った呪術師です。呪う、というか解呪が専門ですよシア。怖がらないであげてください。ただでさえこの顔で怖がられがちなんですから」
「一言余計だ、ユージーン」
「そうですか?」
ダイスとユージーンが笑い合うのをみて、シアはほっと息を吐くと同時になんだかちくり、と痛むものを感じたが、すぐに消えたそれを気にすることはなかった。
「あと、俺の恋人だよ、シア君」
「え?ケンジロウさんの?」
「そう。ケンジロウと、ユカリの。一粒で2度美味しい俺をゲットしたのは、この呪術師だったってわけだ」
ケンジロウがそう笑うと、ダイスはぼん、と赤くなった。
(変わりませんね)
2人の変わらないその関係性に、ユージーンの頬が少し緩んだ。
***
新キャラ登場
ちなみに、ダイス×ケンジロウです。
ユカリの時は、男性の体でするセックスに違和感がありすぎて、えっちはできません
どちらの姿でもラブラブには変わりませんが。
転移魔法で店に入ると、迎えてくれたのは、“ケンジロウ”の方だ。
「いらっしゃい、ユージーン、シア君」
「お邪魔します、ケンジロウ」
男の格好をしている時は、ユージーンは彼を「ケンジロウ」と呼ぶ。
シアに最初に会った時に、彼は女の格好をしているときは女、男の格好をしているときは男、だとケンジロウは話した。それはその通りの意味らしく、身体的性別は男性から変化はないものの、確かにユカリ、とケンジロウ、のふたつの性格が存在する。
けれど二重人格かというとそういうわけではないらしく、どちらも本人には変わりがない。記憶がなくなるわけでもない。ユージーンたちへの対応が変わるわけでもない。ただ、男性としての行動をとるか、女性としての行動をとるか、という違いがあるだけだ。
(服の量2倍になるから大変そう)
とシアは素直にそう思うが、ケンジロウのそういう部分に対して違和感はなかった。
「今日はなにをお求めだい?」
ケンジロウがそういうと、ユージーンはシアの服を数着買いたい、と返した。
「えっ、師匠まだ持ってる服着れるぜ!?もったいねぇ」
「着れる、と着て出かけられる、は少し違いますよシア君。稀代の大魔術師の私と一緒に外を歩くときは、少し“おでかけ着”というものを意識してください」
「なんだよそれっ。この服着てる俺と歩くの恥ずかしいってことかよ!!」
思わず噛み付いてくるシアに、ユージーンは苦笑をかえす。
助け舟をだしたのはケンジロウだ。
「シア君。ユージーンは単におしゃれした君を見たいだけさ。この人、お気に入りは着飾りたい癖があるんだ」
「そんなものありませんけど」
「嘘つくなよ。俺もダイスも、君にどれだけ服や装飾品を贈られたと思っているんだ」
「……」
ぷい、とユージーンはそっぽを向いた。
そして、あとはケンジロウのセンスにまかせますから、といって服屋とは違う階にそそくさと移動していく。
あんな師匠をみるのは初めてで、ぽかん、と口を開けたシアに、ケンジロウは笑った。
「さあ、君に似合う服を探すとしようか。…ああ、大丈夫。この辺りはフリッフリしかないけれどね、奥にはちゃんと君に似合う服があるよ」
ユージーンは、3階にある売り物の椅子に座って頭を抱えていた。
無意識で気づいてなかった自分の性癖をサラッと弟子にばらされて、このあとどういう顔をすればいいのかわからない。
(あとでこの椅子は買いましょう。ええ、座り心地いいですから)
無理矢理思考をずらすと、ふっと自分に影が落ちたのを感じた。
「おや、ダイス。帰ってきていたんですね」
「ああ、さっき。上にユージーンいるって聞いたから上がってきた」
ダイスは、ユージーンの数少ない友人だ。
一眼だと黒のようにも見える深い藍色の髪と目をした美青年は、よいしょ、とユージーンの横に座る。
「下にいたの、ユージーンの弟子だって?」
「そう。可愛いこでしょう」
「そうだな。意外だった、ああいうタイプを弟子にするのは」
「そうですね」
一瞬沈黙が降りたあと、ダイスは「ごめん」と突然呟いた。
その意味をすぐに理解して、ユージーンは苦笑する。
「やっぱり見つかりませんでした?」
「ああ」
「まあ、もう二百年以上探してるのに見つかってないんですし、ダイス、落ち込まないでください」
ダイスの眉間に深い皺が刻まれているのを見て、ユージーンはそれをつんと突いてから、さあ、私の弟子が可愛くなったのを一緒に観に行きましょう、と声をかけた。
「見てみて、師匠!これ超格好良くね!?」
この服出歩くの恥ずかしいのかよ!と怒っていたはずの弟子は、新しい服にひどく興奮していた。
黒が貴重になったジャケットは、大きく金の紋様の刺繍が入っているが、その刺繍は決して嫌味じゃない。同じく黒色のズボンは足の長めなシアにぴたっとマッチして、少しセクシーに見えた。
ローブの色が深い緑なので、ローブと合わせても、違和感なく確かに格好いい。
(さすがケンジロウ、いい仕事です)
ぐっと親指を立ててケンジロウに向けると、ケンジロウもまた親指を立ててウィンクもつけてかえしてきた。
同じようにセンス抜群の服を結局4着選んで購入し、一息ついたときに、シアがきいた。
「なあ、師匠。その藍色のひと、誰?」
「ああ、ダイス。私の友人ですよ」
ダイスはそのままだと少し強面に見える顔を意識して緩めて微笑みをシアに返す。
「ダイス=フィオランテという。呪術師だ」
呪術師は、一般的に人を呪うことで食っていると言われる職業だ。
思わずぎくりと緊張したシアにユージーンが補足した。
「ダイスは国家資格を持った呪術師です。呪う、というか解呪が専門ですよシア。怖がらないであげてください。ただでさえこの顔で怖がられがちなんですから」
「一言余計だ、ユージーン」
「そうですか?」
ダイスとユージーンが笑い合うのをみて、シアはほっと息を吐くと同時になんだかちくり、と痛むものを感じたが、すぐに消えたそれを気にすることはなかった。
「あと、俺の恋人だよ、シア君」
「え?ケンジロウさんの?」
「そう。ケンジロウと、ユカリの。一粒で2度美味しい俺をゲットしたのは、この呪術師だったってわけだ」
ケンジロウがそう笑うと、ダイスはぼん、と赤くなった。
(変わりませんね)
2人の変わらないその関係性に、ユージーンの頬が少し緩んだ。
***
新キャラ登場
ちなみに、ダイス×ケンジロウです。
ユカリの時は、男性の体でするセックスに違和感がありすぎて、えっちはできません
どちらの姿でもラブラブには変わりませんが。
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