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5 ※背後注意

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 買い物をしたその夜。
 寝室で本を読んでいたユージーンは、扉の向こうに気配を感じて首を傾げた。

「シア君?どうしました」

 それがシアだということはすぐにわかったので声をかけると、扉の向こうで「っ」と息をのむのが聞こえる。

「…、はいっても、いい?」

 おずおずと扉の向こうで呟かれた言葉に、再び首を傾げつつ、「構いませんよ」と返事を返す。小さく扉が軋む音がして、ゆっくりと開かれた扉の向こうには、困ったように立ちすくむシアの姿。
 それを見て、ああ、と合点がいく。

「眠れないんですね」
「……」

 昨日まで、彼は一人で眠ることなどなかったのだろう。
 それでなくても、火事が起きてから生活環境ががらりと変わっているのだ。
 落ち着かないのも無理はない。
 ユージーンは読んでいた本を栞を挟んで机に置くと、ベッドに腰掛けてシアを呼ぶ。
 おそるおそる、そのそばに寄った彼を隣に座らせて、よしよしと撫でた。カッとシアの頬が染まる。

「おれ、もう成人…っ、仕事だって探してたし…っ」

 この世界の成人は18歳。孤児院は18になった年の間に仕事を見つけ退出することが義務付けられている。
 まあ。200を軽く超えているユージーンからしてみれば、18歳など赤子も同然だ。

 (でも)

 撫でながらユージーンは妙だな、と思う。
 シアの体は、18歳にしては出来上がっている。ただ、心の方が子どもっぽい。
 大人としての分別がないわけではないだろうが、言動が、すこし幼い気がした。

「シア、もしかしてあなた、竜種の血が入ってますか?」
「え?さあ、俺捨て子だったから…」
「そうですか」

 竜種は、人より成長の早い異形種の一種だ。
 差別されているわけではないとはいえ、異形という呼び方は、ユージーンは好きではない。
 自分の長命種であり一種の異形種だが、自分たちから見れば、お前らだって異形だ、と反発していた時期もある。
 それはそれとして、竜種の特徴は、体の成長よりも心の成長が遅めということ。
 ハーフやクォーターというには血の気配が薄いので、何代も前に一度混ざった、くらいだろうか。
 しかし、竜種の血が入っているのだとしたら、この魔力の少なさは尚更異常だ。

(うーん、つくづく面白い拾い物をしましたね)

 などと、ユージーンは考えながら撫でていたせいか、手元が狂って指がシアの首筋をするり、と撫でた。

「ァッ」

 可愛らしい声が漏れ、シアは自分で自分に驚き、反射的に手で口を塞ぐ。
 ユージーンは、彼の声よりも、ある現象に目が奪われた。

(魔力が、…増えた?)

 確かに、彼が今甘い声をあげた瞬間、ほんの少し、ほんの少しではあるがシアのなかの魔力が増えた。

「シア君」
「な、なんだよ!?」

 先程漏れた声が恥ずかしいのか、乱暴に言い返すシアに、ユージーンは真面目な顔で言った。

「試してみたいことがあります」


***

「んっ、ふ…あっ!?」

 試してみたいこと、それはシアを感じさせることだった。
 先程の一瞬で、快感を感じることで魔力に何か変化があると仮説を立てたユージーンは、「試したいこと?」とシアが聞き返すのを待たずに、彼をベッドの上に押し倒した。
 ちゅ、ちゅ、と首筋にキスをする。
 体格さはさほどないはずなのに、抑えられた体はびくともしない。
 シアは突然のことに恐怖を覚えた。
 押し倒されるということは、このまま犯されるのではないか、と。
 男同士でsexができる、という知識はある。どこで読んだかは忘れたが。
 だけど、こうやって組み敷かれるのは初めてだったし、自分が淹れられるなんて想像したこともなかった。

「ひっ、や、やだっ」

 ただ、ただ怖い。

「ひ、ひどいことっ、しないってじーちゃんにいっただろ…!」

 シアの悲鳴に、ユージーンはハッとした。
 こうかも?と思うと確かめるために暴走するのは、自分のあまり良くない癖だ。
 しかし、知的好奇心は暴走を止めるなと囁いてくる。
 少し考えて、ユージーンは答えた。

「ひどいことはしません。気持ちいいことをするだけです」
「は!?んだよそれ!?」
「仮説が立ったんですよ。あなた、“気持ちいいこと”したことありますか?」
「へ!?」

 かぁ、と頬が染まる。
 この状況でそういう反応返せるって、なかなか胆力ありますねなんて見当違いなことを思いつつ、思考を戻して説明を続ける。

「理由は不明ですが、快感が、あなたの魔力に何かしらの影響を与える可能性があります」
「はあ?!そんなあほな…」
「別に、私はあなたを無理矢理抱きたいなどは思ってません。ですが、その仮説はちゃんと調べてみたいんですよ。師匠としてね」

 師匠としての義務感は本当は3割もないが、あえてそう強調すると、シアはしばらく絶句してから、…それでも何かを覚悟したように頷いた。

「ほんとに、ひどいことしねぇ?」
「ええ、あなたはたた、感じてもらえればそれで」

 そういうと、ユージーンは安心させるようにちゅっと軽くおでこにキスを落とした。
 そして、シアの寝巻きの中に手を入れる。
 まだ柔らかい胸の突起を、指の腹ですりすりと撫でる。

「っ、ふあ…?」
「ああ、ここをさわられるのは初めてですか?」

 やわやわと触っていると、だんだん時は硬くなってきた。先端をつんと弾くと、「ああっ」とシアの体が跳ねた。
 それと同時に、シアの魔力がまた少し増える。

(やっぱり、快感を感じると魔力量が増える、ということでしょうか。快感を魔力に変換している?うーん、いまいちわかりませんが、とりあえず、続けましょう)

 今まで触っていたのとは反対の突起を、同じように擦って、弾く。

「あ、っ、ふあっ、…ししょ、…やっ、なにこれ…ッ?」
「気持ちいい、という感覚ですよ。ほら、触られることに集中して」
「んあッ!」

 がくがくとシアの体が震える。
 まだ胸を触っているだけなのに、この反応。

(敏感ですねぇ)

 しかし、と触りながら思考を続ける。

(年齢を考えると自慰くらいはしたことあるのでは、と思うのですが。その時は魔力に変化はなかったんですかね。もしかして、他者から与えられる快感だけに魔力に影響する?今度自慰させてみましょうか)

 そんなことを考えながら、すでに持ち上がっているシアのそれをユージーンはズボンを少しずらして取り出した。

「えっ!?」
「大丈夫、痛いことはしません」

 急所をあらわにされ反射的に恐怖を覚えたが、耳元でユージーンが囁いた声が妙にくすぐったくて、「ふぁ」とまた声が漏れた。

「うーん、シアくん、ファーストキスは終わってます?」
「は…!?」
「もしまだなら、私が貰っちゃうことになりますけど、すみませんね」

 ふふっと笑って、ユージーンはシアの唇を塞いだ。
 そしてびくっと閉じられたその唇を舌で割り、彼の口の中に舌をねじ込んだ。

「んっんぅっ」

 くぐもった声が漏れる。
 舌を絡ませると、体はびくびくと震え、シアはユージーンにしがみつく。
 指の力に、彼が感じていることがよくわかった。
 この間もどんどん魔力は増えている。
 シア自身はまだそれに気づいていないようだ。

(どこまで溜まれば気づきますかね)

 口付けたまま、ユージーンはシアのそれを撫でて、そして優しく握った。
 そのまま上下に動かすと、逃げるように腰が浮く。
 キスをやめて、今度は手の上下運動をやめないまま胸の突起も舐めた。

「やあっああっ!ぁんっアッ、ししょ…っふああっ」
「…可愛い声だしますねぇ」
「ゃんっ、あっアアッ」

 もしかして経験あるのか?と思うほど敏感に感じるシアを見ながら、ユージーンは自分自身も勃起し始めていることに気がついた。
 だが、コレを入れるというのは、もし初めてだとすれば痛みが伴う。
 今日は快感=魔力回復の仮説を確かめるのが優先、とユージーンは己の昂りを無視してシアへの愛撫を続けた。
 胸、臍、そして立ち上がって震えるソレ。
 何度も何度も口付け擦る。
 やがて、シアは泣きそうな声をあげた。

「師匠っ、でるっ、やだ!!」
「いいんですよ、しっかりイっときましょう」
「やっ、ゃあっ、だめだめだめっ、きちゃ…っ、うあああああああッ」

 でる、という感覚がわかるということは、自慰はしたことあるんだな、と考えながら手の動きを激しくしたユージーンに、たまらずシアは達した。
 久しぶりだったそれは、どくどくとなかなか吐き出すのやめない。
 どんどん自分の腹やユージーンの手が汚れていくのが見えて、さっきまで気持ちよかったのも忘れてシアは羞恥で死にそうだ。

「大丈夫、すぐ綺麗になりますよ」

 パチンと指を鳴らして洗浄魔法をかけ、ユージーンはさて、といった。

「魔力、なかなかいい感じになってますよ」


***
ユージーンは悪い人ではないですが、良い人でもありません。
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