上 下
21 / 30
本編

21話

しおりを挟む
 ローザが核のもとへ戻ってから、アルジェントは自室の窓際で月を眺めていた。
 勇者一行を殺したときのような、分厚い雲はなく、穏やかな空。
 月明かりに照らされた雲がゆっくり流れていくのを見ていると、扉のノック音が部屋に響いた。

「はい」
「僕だよー、アルジェント。入って良いかなぁ?」

 シュバルツの声にぎくっと体が強張ったが、「だいじょうぶです」と返した。
 そもそも、自分は配下なのだから、このような遠慮はいらないはずなのだが、それでも「入っていいか」と確認するシュバルツの優しさが、好きだな、とおもう。
 好きだ、と思うとついつい頬に熱が灯るのは、どうしようもなかった。

「ありがと、調子はどう?」
「ありがとうございます。問題ありません」

 自分の声はうわずっていないだろうか、変な顔はしていないだろうか。
 今まで気にしたことのない思考に引っ張られて、アルジェントは今自分がどんな表情を浮かべているのかもわからない。
 そんなアルジェントの心中を知ってかしらずか、シュバルツは、アルジェントの寝具に腰掛けた。こいこいと手招きされては、そちらに行かないという選択はできない。
 おずおずと隣に腰掛けると、ぎゅう、と抱きしめられた。

「ねえ、アルジェント」
「は、はい」
「好きだよ」

 ストレートな愛の言葉にアルジェントが返せたのは、涙だった。
 シュバルツはその涙を指で拭って、ぺろり、と舐める。

 呪いは解けても、これから先、彼は何度も立ち止まるのだろう。
 想いが膨らめば膨らむほど、彼の後悔は彼の心を刺すのだろう。
 だけれど、それを思ってもこの気持ちは、どうに求められなかった。

「好きだよ。アルジェント」

 そういって唇を重ねるが、拒否はされない。
 彼を動揺させるためのあんな強引なものではなく、やさしく、優しく何度も口付ける。
 やがて、「はぁ」と開いたそこに舌を入れる。
 驚いたようにびくりと体が揺れたが、それでも、嫌がる様子はなく、むしろおずおずとアルジェントも舌を動かしてきた。

(可愛い)

「ん、ぅ」

 舌と舌が絡むたび、ぴくんとはねる肩に、ああ感じてるんだなと思う。

「っ、ぁ」

 ゆっくりと唇と話すと、名残惜しそうな声が追いかけてきて、たまらなかった。
 本当は、もっとゆっくり距離を詰める予定だった。
 自覚したばかりの彼を追い詰めるつもりもなかった。
 しかし、言わずにはいられなかった。

「アルジェント、僕は君を、抱きたい」



 大きく開かれた目に、言わなければよかった、とシュバルツは思う。
 当たり前だ。彼が自分を想ってくれている。それについては自信があった。

(…無理矢理は、ダメ、ゼッタイ)

 しかし、シュバルツが「ごめん」と言おうとしたのを、アルジェントは自らの口付けで止めた。
 そして、上の服を脱いで見せる。

「私は、私のこの身は、……魔王様のものに、なっても良いでしょうか…」

 色の白い、引き締まった体は、窓からの月明かりに照らされて、初めて会ったときの彼を思い出す。
 彼の問いは、シュバルツにとって理性を飛ばすには十分すぎる媚薬だった。


***
短くてすみませんっ
次話ついに!R18展開です…!!
長かった…(らぶらぶえっち書きたくて書き始めた話のなのにそこにいたたるまでに4万字近いって…)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

地球侵略計画

山吹レイ
BL
 ある日の夜、南高輝(みなみ こうき)が暮らすアパートのベランダに空から何かが落ちてきた。  細長い銀色の円形状のそれはカプセルのようで、中から男性が出てきた。  その男性は奇妙なことを言い出した。「交尾して子供を作ろう」と。  地球外生命体だという男性は、遠い星から地球を侵略するために来たらしい。  その方法が、宇宙外生命体の遺伝子が混じった子供を作り、数を増やして、地球を乗っ取ることだというのだ。  男で子供が産めない高輝と地球外生命体ユウとの不思議な子作り生活がはじまる。

組長の息子

福猫
BL
組長の息子、透が何でも解決します。

とろけてなくなる

瀬楽英津子
BL
ヤクザの車を傷を付けた櫻井雅(さくらいみやび)十八歳は、多額の借金を背負わされ、ゲイ風俗で働かされることになってしまった。 連れて行かれたのは教育係の逢坂英二(おうさかえいじ)の自宅マンション。 雅はそこで、逢坂英二(おうさかえいじ)に性技を教わることになるが、逢坂英二(おうさかえいじ)は、ガサツで乱暴な男だった。  無骨なヤクザ×ドライな少年。  歳の差。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

伯爵と甥

らーゆ
BL
おじショタでヤってるだけ。

花を愛でる獅子【本編完結】

千環
BL
父子家庭で少し貧しい暮らしだけれど普通の大学生だった花月(かづき)。唯一の肉親である父親が事故で亡くなってすぐ、多額の借金があると借金取りに詰め寄られる。 そこに突然知らない男がやってきて、借金を肩代わりすると言って連れて行かれ、一緒に暮らすことになる。 ※本編完結いたしました。 今は番外編を更新しております。 結城×花月だけでなく、鳴海×真守、山下×風見の番外編もあります。 楽しんでいただければ幸いです。

コネクト

大波小波
BL
 オメガの少年・加古 青葉(かこ あおば)は、安藤 智貴(あんどう ともたか)に仕える家事使用人だ。  18歳の誕生日に、青葉は智貴と結ばれることを楽しみにしていた。  だがその当日に、青葉は智貴の客人であるアルファ男性・七浦 芳樹(ななうら よしき)に多額の融資と引き換えに連れ去られてしまう。  一時は芳樹を恨んだ青葉だが、彼の明るく優しい人柄に、ほだされて行く……。

涙は流さないで

水場奨
BL
仕事をしようとドアを開けたら、婚約者が俺の天敵とイタしておるのですが……! もう俺のことは要らないんだよな?と思っていたのに、なんで追いかけてくるんですか!

処理中です...