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本編
18話
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だからいったのに、と頭のどこかで声がする。
ひどく懐かしいような、その声は、アルジェントの心臓のあたりをぎゅうと締め付ける。
ああやっぱり、と次に浮かんだのは自分の声。
私は、魔王様を愛していたのか。
敬愛だと思っていた。いや、思い込んでいたのかもしれない。
だって、いつだって向けられるあの優しい感情を受け止めるのは、自分には許されない。
ずっとそうやって、自分の心を守っていた。
なんだ、自己防衛だったのか。
魔王様を傷つけたくないなどと、そんな言葉で誤魔化していて、結局大事だったのは自分だけだったのか。
自分で自分を呪っていたなんて、愚かにも程があって、それでも自分を見捨てないでいてくれた我が王が好きだ。
だめだ、好きだななんて言う資格は私にはない。
あの方の横には、私がいたい。
ぐるぐる、がりがりと、心が体が悲鳴をあげる。
ああ、感情が、思考がまとまらない。
戻ってきたカズマの第一声は「え、何この状況」だった。
さっきまで普通に喋っていたはずの銀狼の呪いが発動してるし、本人は、おそらく呪いによるスキル発動を必死に自分の魔力で押さえつけようとしている。その結果、彼の周りには魔力が火柱のように円形で立ち上っていた。
魔王はその様子を自分に危害が加わらないように、距離をとりつつ心配そうに見つめている。魔王が距離を取っているのは、おそらく先程「あなたを傷つけたくない」と銀狼が言ったためだろう。
「あれ、帰ってきてたんだ。…それは?」
「さっきいってた防具だけど…、魔王さん、なんで呪いもう発動してんの?」
カズマの問いに、シュバルツは眉を顰める。
「わからないんだよね。普通に話してただけなのに」
会話のなかに、彼の呪いを発動するような何かがあったのか、とカズマは首を捻った。
カズマの目には呪いが見えるが、発動条件までは読み解けない。
ただ、発動することで呪いは“色”を持つ。
根深く銀狼に張り付いていたあの呪いはいまは深い藍色をしている。
(藍色?)
藍色の呪いをかける感情は、「悔恨」
「銀髪のお兄さん、なにをあんなに後悔してるんだろ」
「え?」
カズマの呟きにシュバルツは小さく目を開いた。
「まあ、とにかく。発動しちゃったなら、当初の予定通りいったほうが良いよね。とはいえ、あの魔力にそままま近づいたら、俺死んじゃう」
カズマが困ったように言いながら、持ってきたという防具を身につける。
防具は、二つあった。
「ねえ魔王さん、魔王さんって聖なる防具身につけても大丈夫かな」
「え、いや、どうだろう」
仮にも自分は魔王なので、聖と名のつくものとは相性は最悪のはずだ。
「これね、勇者達に渡してた“スキルブレイカー”って防具なんだよ。防御力は高くないけど、ありとあやゆるスキルを無効化すんの」
「聖なる防具ってそんな大盤振る舞いできるほど作れるものだっけ」
「もう死んじゃったけど、鍛冶の神って呼ばれてた爺ちゃんがいたんだよ。ここにある凄いのは全部その爺ちゃんの作品」
そんな会話をしていると、アルジェントがぐうう、と唸って体を丸めた。
魔力が揺らぐ。
スキルが発動しようとしているのがわかる。
「あのお兄さん、囚われのお姫様みたい」
「なんで」
「呪いと感情にがんじがらめにされて身動き取れずに、王子様の迎え待ってる感じが」
「あの子は、そんな弱くないけどねぇ」
シュバルツはちょっと考えてから、“スキルブレイカー”を身につける。
魔王が聖なる防具を身につけるなんて、と内心では笑う。ビリビリと少し痺れは感じるものの、思ったより苦痛はなかった。
アルジェントが必死で呪いと戦っているのがわかっているから、シュバルツの心に余裕があるわけではない。
それでも、解決法があって、助ける術が見えているだけ、突然倒れたあの時よりマシだ。
「僕はどうしたらいい?」
「あれだけ呪いが浮き上がってるなら、10秒気を逸らしてもらえたらはがせると思うよ。直接体の中にいれるわけじゃないけど、俺の聖なる力使うから、銀のお兄さん的にはちょっと痛いかもだけども」
「わかった、10秒だね」
シュバルツは、アルジェントのそばに向かった。
「アルジェント」
優しく、優しくそう声をかける。
「スキルを発動しなさい」
「です、が…!」
いやいやと首を横に振るアルジェントの頬に、シュバルツは触れた。
「大丈夫、ちゃんと対策してるから」
そして、
「愛しているよ、私の可愛い銀の君」
その唇に、己の唇を重ねた。
ひどく懐かしいような、その声は、アルジェントの心臓のあたりをぎゅうと締め付ける。
ああやっぱり、と次に浮かんだのは自分の声。
私は、魔王様を愛していたのか。
敬愛だと思っていた。いや、思い込んでいたのかもしれない。
だって、いつだって向けられるあの優しい感情を受け止めるのは、自分には許されない。
ずっとそうやって、自分の心を守っていた。
なんだ、自己防衛だったのか。
魔王様を傷つけたくないなどと、そんな言葉で誤魔化していて、結局大事だったのは自分だけだったのか。
自分で自分を呪っていたなんて、愚かにも程があって、それでも自分を見捨てないでいてくれた我が王が好きだ。
だめだ、好きだななんて言う資格は私にはない。
あの方の横には、私がいたい。
ぐるぐる、がりがりと、心が体が悲鳴をあげる。
ああ、感情が、思考がまとまらない。
戻ってきたカズマの第一声は「え、何この状況」だった。
さっきまで普通に喋っていたはずの銀狼の呪いが発動してるし、本人は、おそらく呪いによるスキル発動を必死に自分の魔力で押さえつけようとしている。その結果、彼の周りには魔力が火柱のように円形で立ち上っていた。
魔王はその様子を自分に危害が加わらないように、距離をとりつつ心配そうに見つめている。魔王が距離を取っているのは、おそらく先程「あなたを傷つけたくない」と銀狼が言ったためだろう。
「あれ、帰ってきてたんだ。…それは?」
「さっきいってた防具だけど…、魔王さん、なんで呪いもう発動してんの?」
カズマの問いに、シュバルツは眉を顰める。
「わからないんだよね。普通に話してただけなのに」
会話のなかに、彼の呪いを発動するような何かがあったのか、とカズマは首を捻った。
カズマの目には呪いが見えるが、発動条件までは読み解けない。
ただ、発動することで呪いは“色”を持つ。
根深く銀狼に張り付いていたあの呪いはいまは深い藍色をしている。
(藍色?)
藍色の呪いをかける感情は、「悔恨」
「銀髪のお兄さん、なにをあんなに後悔してるんだろ」
「え?」
カズマの呟きにシュバルツは小さく目を開いた。
「まあ、とにかく。発動しちゃったなら、当初の予定通りいったほうが良いよね。とはいえ、あの魔力にそままま近づいたら、俺死んじゃう」
カズマが困ったように言いながら、持ってきたという防具を身につける。
防具は、二つあった。
「ねえ魔王さん、魔王さんって聖なる防具身につけても大丈夫かな」
「え、いや、どうだろう」
仮にも自分は魔王なので、聖と名のつくものとは相性は最悪のはずだ。
「これね、勇者達に渡してた“スキルブレイカー”って防具なんだよ。防御力は高くないけど、ありとあやゆるスキルを無効化すんの」
「聖なる防具ってそんな大盤振る舞いできるほど作れるものだっけ」
「もう死んじゃったけど、鍛冶の神って呼ばれてた爺ちゃんがいたんだよ。ここにある凄いのは全部その爺ちゃんの作品」
そんな会話をしていると、アルジェントがぐうう、と唸って体を丸めた。
魔力が揺らぐ。
スキルが発動しようとしているのがわかる。
「あのお兄さん、囚われのお姫様みたい」
「なんで」
「呪いと感情にがんじがらめにされて身動き取れずに、王子様の迎え待ってる感じが」
「あの子は、そんな弱くないけどねぇ」
シュバルツはちょっと考えてから、“スキルブレイカー”を身につける。
魔王が聖なる防具を身につけるなんて、と内心では笑う。ビリビリと少し痺れは感じるものの、思ったより苦痛はなかった。
アルジェントが必死で呪いと戦っているのがわかっているから、シュバルツの心に余裕があるわけではない。
それでも、解決法があって、助ける術が見えているだけ、突然倒れたあの時よりマシだ。
「僕はどうしたらいい?」
「あれだけ呪いが浮き上がってるなら、10秒気を逸らしてもらえたらはがせると思うよ。直接体の中にいれるわけじゃないけど、俺の聖なる力使うから、銀のお兄さん的にはちょっと痛いかもだけども」
「わかった、10秒だね」
シュバルツは、アルジェントのそばに向かった。
「アルジェント」
優しく、優しくそう声をかける。
「スキルを発動しなさい」
「です、が…!」
いやいやと首を横に振るアルジェントの頬に、シュバルツは触れた。
「大丈夫、ちゃんと対策してるから」
そして、
「愛しているよ、私の可愛い銀の君」
その唇に、己の唇を重ねた。
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