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本編
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アルジェントはもともと銀狼の集落に暮らしていた。
その時はまだ名もなく、力は強かったが集落で1番と言うほどでもなかった。
魔王はすでにシュバルツで、歴代魔王の中でも群を抜いて強いという魔王にいつか会ってみたい、なんてミーハーな気持ちを抱いているような、普通の、いたって普通の銀狼だった。
しかし、アルジェントには特殊なスキルが備わっていた。
それを自覚したのは、奇しくも集落が大型のドラゴンに襲われた時で、そのスキルを持って、アルジェントはドラゴンを打ち倒したのだが、同時に、仲間を壊滅させたのもそのスキルだった。
スキル“共喰い”
魔力と呼ばれる、生きとし生けるもの全てにとって必要不可欠なそれを、アルジェントは吸い取ることができた。
目覚めたばかりで、その時瀕死だったアルジェントには、スキルを制御することなど不可能で、ドラゴン、銀狼の仲間たち、周辺の動植物を全て息絶えさせるほどの魔力を吸収、そして吸収したものも扱いきれず暴走。
今でもその場所は小さな城くらいなら軽く入る程の大穴が空いていて、魔力を吸い尽くされたそこには、もう雑草すら生えてこない。
あまりの騒動に、当時シュバルツは他の魔物に請われてアルジェントを倒しにきた、のだが。
大穴の中央に座り込む銀の髪の青年。
その時にはスキルの暴走も魔力の暴走も止まっていたので、妙に静かなその場所で、月明かりの中じっと動かず涙を流すアルジェントは、シュバルツには息を呑むほど美しく見えた。
一目惚れとも言えたかもしれない。
とはいえ、魔族の仲間を一度に大量に殺せるだけの力の持ち主に対して、警戒を説くわけにはいかない。
「やあ、君が共喰いの子?」
軽い調子で声をかけると、びくり、と体が動いてアルジェントはゆっくりを顔を上げた。
「貴方は…」
「今代の魔王。シュバルツだよ」
「魔王、様」
スキルの発動条件が読めなかったので、念のためと穴の外から声をかけるシュバルツに、アルジェントは嬉しそうに微笑む。
「殺しに来てくださったのですか」
「はい?」
「うまく、死ねないんです」
アルジェントは嬉しそうに微笑みながら、自らの爪を自分の喉元に突き刺そうとする。
しかし、大量に取り込んだ多種族の魔力が、その爪を拒むように弾き飛ばした。
(あちゃあ、この子、仲間想いの優しい子だったのか)
シュバルツは頭をかく。
不可抗力とはいえ、自分が仲間を全員殺したという事実は、おそらくまだ若いこの銀狼には重すぎる事実だったようだ。
もともと、銀狼は身内と認めた相手への情に深いことに定評のある魔物。
場合によっては魔物の敵である人間につくことすらあるほどの「自身が認めた仲間」への思いやりが深い。
殺してあげたほうが、この子のためにはいいのかもしれない。
しかし、どうにもシュバルツはこの青年を殺す気にはなれなかった。
さっき感じた「美しい」という感情もそうだし、今城にいて面倒を見ている花の精、ローザも、似たような境遇だったこともある。
「うーん。ねえ、キミ。名前持ってる?」
「え?」
「名前もちじゃないなら、僕が名前をあげるよ。僕の配下に加われば、とりあえず暴走するようなことにはならないと思うし」
突然のシュバルツの提案に、死ぬ気満々だったアルジェントはきょとんと首を傾げた。
「傾国の薔薇の噂、知ってる?その子も今僕の城にいるんだよね。全く同じスキルではないけれど、僕の配下に下って、城に来てくれたらスキルの使い方も教えてあげられると思うよ」
「けれど、私は育ててくれた仲間を殺したような恩知らずです…。そんな私が魔王様の配下など…」
「僕は、魔物の頂点だよ」
アルジェントの反論に、ぴしゃり、とシュバルツは答える。
「僕が、魔物のルールだ。僕がキミを欲しいと言ったのだけど?」
あえて、シュバルツはアルジェントに軽い威圧をかける。
ぴり、と揺れた空気に、アルジェントは小さく震え、そして。
「かしこまりました、我が王。貴方の御心のままに」
そう、頭を下げたのだった。
その場でアルジェントの名をもらった銀狼は、魔王城にきて、スキル“奪取”をもつローザから、スキルの使い方を学んだ。
魔王から名をもらったことで格段に上がった魔力操作の力のおかげもあって、それ以来スキルの暴走は起こしていない。
しかし、それでもアルジェントの脳裏には、絶望した表情でアルジェントを見つめる仲間の最期が焼き付いて離れない。
アルジェントは、わかっている。シュバルツが自分に向けてくれる感情が温かく、優しいものであり、それを受け取れば、今以上の幸福があるだろうことを。
それでも、アルジェントには受け取れない。
王が望んでいても。王のまえでは自分の罪など霞んでしまうとわかっていても。
シュバルツの愛を受け入れれば、敬愛する王に何が起きるかわからないと、そう感じているから。
シュバルツは、アルジェントが自分の罪を許せないから自分の愛を受け取らないと考えているが、それは半分だけだ。
誰も本質に気づいていないけれど、本当のところ、アルジェントが感じている不安は正しい。
2人が結ばれることは確かにシュバルツに「何か」を起こす。そういう呪いが、彼にかかっている。
その時はまだ名もなく、力は強かったが集落で1番と言うほどでもなかった。
魔王はすでにシュバルツで、歴代魔王の中でも群を抜いて強いという魔王にいつか会ってみたい、なんてミーハーな気持ちを抱いているような、普通の、いたって普通の銀狼だった。
しかし、アルジェントには特殊なスキルが備わっていた。
それを自覚したのは、奇しくも集落が大型のドラゴンに襲われた時で、そのスキルを持って、アルジェントはドラゴンを打ち倒したのだが、同時に、仲間を壊滅させたのもそのスキルだった。
スキル“共喰い”
魔力と呼ばれる、生きとし生けるもの全てにとって必要不可欠なそれを、アルジェントは吸い取ることができた。
目覚めたばかりで、その時瀕死だったアルジェントには、スキルを制御することなど不可能で、ドラゴン、銀狼の仲間たち、周辺の動植物を全て息絶えさせるほどの魔力を吸収、そして吸収したものも扱いきれず暴走。
今でもその場所は小さな城くらいなら軽く入る程の大穴が空いていて、魔力を吸い尽くされたそこには、もう雑草すら生えてこない。
あまりの騒動に、当時シュバルツは他の魔物に請われてアルジェントを倒しにきた、のだが。
大穴の中央に座り込む銀の髪の青年。
その時にはスキルの暴走も魔力の暴走も止まっていたので、妙に静かなその場所で、月明かりの中じっと動かず涙を流すアルジェントは、シュバルツには息を呑むほど美しく見えた。
一目惚れとも言えたかもしれない。
とはいえ、魔族の仲間を一度に大量に殺せるだけの力の持ち主に対して、警戒を説くわけにはいかない。
「やあ、君が共喰いの子?」
軽い調子で声をかけると、びくり、と体が動いてアルジェントはゆっくりを顔を上げた。
「貴方は…」
「今代の魔王。シュバルツだよ」
「魔王、様」
スキルの発動条件が読めなかったので、念のためと穴の外から声をかけるシュバルツに、アルジェントは嬉しそうに微笑む。
「殺しに来てくださったのですか」
「はい?」
「うまく、死ねないんです」
アルジェントは嬉しそうに微笑みながら、自らの爪を自分の喉元に突き刺そうとする。
しかし、大量に取り込んだ多種族の魔力が、その爪を拒むように弾き飛ばした。
(あちゃあ、この子、仲間想いの優しい子だったのか)
シュバルツは頭をかく。
不可抗力とはいえ、自分が仲間を全員殺したという事実は、おそらくまだ若いこの銀狼には重すぎる事実だったようだ。
もともと、銀狼は身内と認めた相手への情に深いことに定評のある魔物。
場合によっては魔物の敵である人間につくことすらあるほどの「自身が認めた仲間」への思いやりが深い。
殺してあげたほうが、この子のためにはいいのかもしれない。
しかし、どうにもシュバルツはこの青年を殺す気にはなれなかった。
さっき感じた「美しい」という感情もそうだし、今城にいて面倒を見ている花の精、ローザも、似たような境遇だったこともある。
「うーん。ねえ、キミ。名前持ってる?」
「え?」
「名前もちじゃないなら、僕が名前をあげるよ。僕の配下に加われば、とりあえず暴走するようなことにはならないと思うし」
突然のシュバルツの提案に、死ぬ気満々だったアルジェントはきょとんと首を傾げた。
「傾国の薔薇の噂、知ってる?その子も今僕の城にいるんだよね。全く同じスキルではないけれど、僕の配下に下って、城に来てくれたらスキルの使い方も教えてあげられると思うよ」
「けれど、私は育ててくれた仲間を殺したような恩知らずです…。そんな私が魔王様の配下など…」
「僕は、魔物の頂点だよ」
アルジェントの反論に、ぴしゃり、とシュバルツは答える。
「僕が、魔物のルールだ。僕がキミを欲しいと言ったのだけど?」
あえて、シュバルツはアルジェントに軽い威圧をかける。
ぴり、と揺れた空気に、アルジェントは小さく震え、そして。
「かしこまりました、我が王。貴方の御心のままに」
そう、頭を下げたのだった。
その場でアルジェントの名をもらった銀狼は、魔王城にきて、スキル“奪取”をもつローザから、スキルの使い方を学んだ。
魔王から名をもらったことで格段に上がった魔力操作の力のおかげもあって、それ以来スキルの暴走は起こしていない。
しかし、それでもアルジェントの脳裏には、絶望した表情でアルジェントを見つめる仲間の最期が焼き付いて離れない。
アルジェントは、わかっている。シュバルツが自分に向けてくれる感情が温かく、優しいものであり、それを受け取れば、今以上の幸福があるだろうことを。
それでも、アルジェントには受け取れない。
王が望んでいても。王のまえでは自分の罪など霞んでしまうとわかっていても。
シュバルツの愛を受け入れれば、敬愛する王に何が起きるかわからないと、そう感じているから。
シュバルツは、アルジェントが自分の罪を許せないから自分の愛を受け取らないと考えているが、それは半分だけだ。
誰も本質に気づいていないけれど、本当のところ、アルジェントが感じている不安は正しい。
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