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本編
2話
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討伐隊が来ない日の魔王城は、暇そのものである。
魔王は、人間の王のように国を統治する必要はない。
魔物は基本みんな好き勝手生きているためだ。
人を襲いたい奴はそうするし、縄張り争いをしたいやつらはそうする。シュバルツが魔王になったばかりの頃はたまに力比べをしにくる魔物もいたが、二百年あまりの間にいつのまにか「シュバルツ様万歳!」という構図が出来上がった。
魔王城は城自体が生き物のようなものなので、掃除も必要ないし、どう言う仕組みなのか、食事が必要な魔物のために時間になれば食堂のテーブルに出来立てが並ぶ。
今日も昼の食事が整ったらしく、アルジェントが呼びに来た。
「魔王様、お食事はどうされますか?」
「あー、うん」
「ご気分でないなら下げさせますか?」
「それもなんだかなぁ」
時間になれば並ぶというのは、その時間以外の食事は基本取れないということ。
勿論、やろうと思えば城周辺の森には食べられる木の実も獣もいるのだが、空腹時にそれらを取りにいくのも面倒だし、命令して取ってきてもらうのも面倒だ。
「いいや、食べに行くよ。アルジェントも、ヴィオーラも、ローザも一緒に食べよう。呼んできてもらっていい?」
「畏まりました」
シュバルツのそば付きは3人いる。
いずれも人型をとれる魔物で、銀髪の青年は原型は銀狼であるアルジェント、紫の髪をもつ中性的な青年は吸血種であるヴィオーラ、桃色の髪をもつ少女は花の精霊であるローザ。
この3人の名前はシュバルツがつけた。魔物は名をもらうとその名をつけた物の力量に応じて能力が上がる。魔物の王であるシュバルツから名をもらったこの3人は三つ星と呼ばれ、尊敬と嫉妬の渦中にいる。
余談だが、シュバルツの名は、城から生まれたときに一緒についてくるので、城が名付け親のようなものだ。
シュバルツが食堂に着く頃には、側付きの3人は揃っていて、ヴィオーラのための血液、ローザのための花の蜜(厳密にはローザには蜜は嗜好品で彼女には食事は必要ない)も準備されていた。我が生みの親ながらこの城の仕組みは本当に謎だ、とシュバルツは思う。
「急に声かけてごめんよ。用事はなかった?」
シュバルツの言葉に、ヴィオーラもローザも首を横に振った、
「魔王様からのお誘い、嬉しい」とローザ。
「右に同じだよ。我が君の誘い以上に重要な用事なんて存在しないさ」とヴィオーラ。
その2人の言葉にうんうんと頷いているのがアルジェントだ。
「はは、ありがとう。じゃあ、食べようか」
4人はそれぞれの食事をそれぞれの食べ方で進める。
ある程度食べたところで、そういえば、とヴィオーラが言った。
「こないだ来てた勇者?が、北の大地に行ったみたいだよ」
「北の大地に?」
北の大地は、この世界でも強めの魔物が集まりやすい場所だ。
何でまたそんなところに、と首を傾げると、ヴィオーラが続けた。
「我が君を倒すための実力不足を痛感したんだそうだ。武者修行だって」
ヴィオーラには眷属が多く、頼まれなくても魔王に関係する情報を集めてくる。
「ということは、久しぶりに再戦するタイプの勇者か」
シュバルツはワインをぐいっとあおった。
「めんどくさ~…」
「何を言いますか、魔王様!近いうちにまた魔王様のご活躍が見られるなら、それほど喜ばしいことはございません!」
「そうだよ、魔王様。このあいだはローザ、見られなかった。今度こそ生で見たい」
「私もだよ我が君」
3人にそう言われて、「うー」と魔王は唸る。
働きたくない。
だが、家族とも言える3人に目をキラキラさせられると、仕方ないか、という気持ちになる。そのうちの1人は愛しい子だ。尚のこと、まあ、格好いいところ見せなきゃねとも思う。
「それにしても、君たちは僕が負けるとは思わないの?」
ふと思ってそう聞いてみると、3人はきょとん、とした後。
「可能性が0ではないとは思っております」とアルジェントが返してきて、他の2人も頷いた。
負けるはずがない、的な返事を予想してたため、ちょっと驚いて、思わず「そうなの?」と返すシュバルツ。
「はい。この世に絶対はございませんので」
「うん。勇者、魔王様より強くなる可能性も、ある」
「実力差があっても、人間が奇跡と呼んでいるような現象が起きることもあるしね」
だからこそ、と続けたのはアルジェントだ。
「私たちは、貴方のために生きて死ぬのです、魔王様。貴方のご活躍はそばで拝見したいですし、死するときは、必ずお供いたします」
「そっか」
3人の揺るぎない自分への忠誠を感じて、ひとり少し感傷的になったシュバルツだが、同時にちょっとため息もつきたくなった。
「アルジェントはそこまで僕に尽くしてくれるのに、まだ愛は受け取ってくれないのかな?」
シュバルツの呟きに、アルジェントがですから、と嗜めようとするのを、ヴィオーラが遮った。
「おや、アルジェントはまだ籠絡してなかったのかい?」
「とっくに、交尾してると思ってた」
ローザの身も蓋もない言い方に、アルジェントは「こら」と短く返す。
「ローザやヴィオーラならともかく、私はダメです」
「アルジェント」
咎めるようなヴィオーラの声に、アルジェントはガンとして首を横に振る。
「私は、ダメです」
強い否定の言葉に、シン、とその場が静まる。
アルジェントはきゅ、と唇を噛んで「申し訳ありません。失礼いたします」と席をたった。
銀色が見えなくなってから、シュバルツは「はぁ~~~~」と長いため息をつく。
「本当、頑ななんだからあのワンコは」
「魔王様、アルジェントは狼。犬じゃない」
「いや、ローザ。それは我が君もわかってるから突っ込まなくていいところだよ」
ローザの頭を撫でてから、シュバルツはアルジェントが去った方を見つめた。
「あの子は、いつになったら自分を許せるのかなぁ」
シュバルツの問いには、誰の答えも返ってこない。
魔王は、人間の王のように国を統治する必要はない。
魔物は基本みんな好き勝手生きているためだ。
人を襲いたい奴はそうするし、縄張り争いをしたいやつらはそうする。シュバルツが魔王になったばかりの頃はたまに力比べをしにくる魔物もいたが、二百年あまりの間にいつのまにか「シュバルツ様万歳!」という構図が出来上がった。
魔王城は城自体が生き物のようなものなので、掃除も必要ないし、どう言う仕組みなのか、食事が必要な魔物のために時間になれば食堂のテーブルに出来立てが並ぶ。
今日も昼の食事が整ったらしく、アルジェントが呼びに来た。
「魔王様、お食事はどうされますか?」
「あー、うん」
「ご気分でないなら下げさせますか?」
「それもなんだかなぁ」
時間になれば並ぶというのは、その時間以外の食事は基本取れないということ。
勿論、やろうと思えば城周辺の森には食べられる木の実も獣もいるのだが、空腹時にそれらを取りにいくのも面倒だし、命令して取ってきてもらうのも面倒だ。
「いいや、食べに行くよ。アルジェントも、ヴィオーラも、ローザも一緒に食べよう。呼んできてもらっていい?」
「畏まりました」
シュバルツのそば付きは3人いる。
いずれも人型をとれる魔物で、銀髪の青年は原型は銀狼であるアルジェント、紫の髪をもつ中性的な青年は吸血種であるヴィオーラ、桃色の髪をもつ少女は花の精霊であるローザ。
この3人の名前はシュバルツがつけた。魔物は名をもらうとその名をつけた物の力量に応じて能力が上がる。魔物の王であるシュバルツから名をもらったこの3人は三つ星と呼ばれ、尊敬と嫉妬の渦中にいる。
余談だが、シュバルツの名は、城から生まれたときに一緒についてくるので、城が名付け親のようなものだ。
シュバルツが食堂に着く頃には、側付きの3人は揃っていて、ヴィオーラのための血液、ローザのための花の蜜(厳密にはローザには蜜は嗜好品で彼女には食事は必要ない)も準備されていた。我が生みの親ながらこの城の仕組みは本当に謎だ、とシュバルツは思う。
「急に声かけてごめんよ。用事はなかった?」
シュバルツの言葉に、ヴィオーラもローザも首を横に振った、
「魔王様からのお誘い、嬉しい」とローザ。
「右に同じだよ。我が君の誘い以上に重要な用事なんて存在しないさ」とヴィオーラ。
その2人の言葉にうんうんと頷いているのがアルジェントだ。
「はは、ありがとう。じゃあ、食べようか」
4人はそれぞれの食事をそれぞれの食べ方で進める。
ある程度食べたところで、そういえば、とヴィオーラが言った。
「こないだ来てた勇者?が、北の大地に行ったみたいだよ」
「北の大地に?」
北の大地は、この世界でも強めの魔物が集まりやすい場所だ。
何でまたそんなところに、と首を傾げると、ヴィオーラが続けた。
「我が君を倒すための実力不足を痛感したんだそうだ。武者修行だって」
ヴィオーラには眷属が多く、頼まれなくても魔王に関係する情報を集めてくる。
「ということは、久しぶりに再戦するタイプの勇者か」
シュバルツはワインをぐいっとあおった。
「めんどくさ~…」
「何を言いますか、魔王様!近いうちにまた魔王様のご活躍が見られるなら、それほど喜ばしいことはございません!」
「そうだよ、魔王様。このあいだはローザ、見られなかった。今度こそ生で見たい」
「私もだよ我が君」
3人にそう言われて、「うー」と魔王は唸る。
働きたくない。
だが、家族とも言える3人に目をキラキラさせられると、仕方ないか、という気持ちになる。そのうちの1人は愛しい子だ。尚のこと、まあ、格好いいところ見せなきゃねとも思う。
「それにしても、君たちは僕が負けるとは思わないの?」
ふと思ってそう聞いてみると、3人はきょとん、とした後。
「可能性が0ではないとは思っております」とアルジェントが返してきて、他の2人も頷いた。
負けるはずがない、的な返事を予想してたため、ちょっと驚いて、思わず「そうなの?」と返すシュバルツ。
「はい。この世に絶対はございませんので」
「うん。勇者、魔王様より強くなる可能性も、ある」
「実力差があっても、人間が奇跡と呼んでいるような現象が起きることもあるしね」
だからこそ、と続けたのはアルジェントだ。
「私たちは、貴方のために生きて死ぬのです、魔王様。貴方のご活躍はそばで拝見したいですし、死するときは、必ずお供いたします」
「そっか」
3人の揺るぎない自分への忠誠を感じて、ひとり少し感傷的になったシュバルツだが、同時にちょっとため息もつきたくなった。
「アルジェントはそこまで僕に尽くしてくれるのに、まだ愛は受け取ってくれないのかな?」
シュバルツの呟きに、アルジェントがですから、と嗜めようとするのを、ヴィオーラが遮った。
「おや、アルジェントはまだ籠絡してなかったのかい?」
「とっくに、交尾してると思ってた」
ローザの身も蓋もない言い方に、アルジェントは「こら」と短く返す。
「ローザやヴィオーラならともかく、私はダメです」
「アルジェント」
咎めるようなヴィオーラの声に、アルジェントはガンとして首を横に振る。
「私は、ダメです」
強い否定の言葉に、シン、とその場が静まる。
アルジェントはきゅ、と唇を噛んで「申し訳ありません。失礼いたします」と席をたった。
銀色が見えなくなってから、シュバルツは「はぁ~~~~」と長いため息をつく。
「本当、頑ななんだからあのワンコは」
「魔王様、アルジェントは狼。犬じゃない」
「いや、ローザ。それは我が君もわかってるから突っ込まなくていいところだよ」
ローザの頭を撫でてから、シュバルツはアルジェントが去った方を見つめた。
「あの子は、いつになったら自分を許せるのかなぁ」
シュバルツの問いには、誰の答えも返ってこない。
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