the Dool and the Dool

名もなき萌えの探求者

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「オタク?」

 グレイシアが問い返す。
 オタク、オタクねえ。ユウイチのいう言葉とこちらの言葉が合致しているかどうかがわからないが、とりあえずヤンを指差してみる。

「ああいう奴のことか」

 ユウイチは、「ええと、そう、といえばそうなんですが」と言い淀む。

「僕のいた所だと、その、サブカルチャー…。ええと、……架空の世界のお話やキャラクターに入れ込んでいる人をさす場合があるんです。…その、僕はそういうオタクでした」

 架空の世界……、読み物とかに入れ込んでいたってことか?なんでそれが自分に自信のない理由になるんだ。
 俺の疑問に気づいたのか、ユウイチが困ったように眉を下げる。

「全員がそういうわけではないんですが、あっちでは、そういう『オタク』は、キモい、とかばかにされることが多くて。ちゃんと頭では理解しているんです。趣味嗜好のことをどういう言われる筋合いなんてないって。でも、実際に言葉で殴られ続けると、どうしても、自分はだめなんだ、何を頑張ったって認められることはないんだって、反射的にそう考えるようになってしまって……」

 こいつのいうオタク、というのが置かれている状況については理解した。どこの世界でも多数から外れた奴は叩かれやすいってことか。

「ユウイチ」
「は、はい」
「オタクだからキモいっつーのは、俺にはよくわからん。ただ、多かれ少なかれ『魔術師』は目立つ。特に、お前はルナを従える魔術師で、いろいろ特殊だ。何かしら言われることは多いと思っとけ」

 下がった眉がさらに下がる。

「ユラ、言い方ぁ」
「ああ?」

 グレイシアがまったく、とため息をついた。

「傷つけられた心というのは、他者に判断できるものではないから、あなたが自分を卑下してしまうところは否定されるべきではないわね。ただ、この世界で『変わっている』というのは、私たちのような立場を獲得すればいい意味で放置してもらえるわぁ」
「僕がいい例でしょ」

 突然ヤンが混ざってくる。
 お前は話聞いてるのか聞いてねぇのかどっちだよ。

「僕は昔から人間に余り興味がない。杖ちゃんを扱うための道具ってところかなー。優秀な道具があればよりよく杖ちゃんが活躍できるでしょ?でも一応、人間にとっては杖ちゃんたちが道具ってことは理解しているよ。でもそれだけ。そりゃまあ色々言われるけど、僕はドール持ちだからね。僕が無視しても誰も僕を害することはできないわけだ。チューズディを奪おうとする奴以外はね」

 さっきまで語り合っていた杖を人撫でして、ヤンは続ける。

「僕は僕のためにチューズディを奪わせない。君もそうすればいいよ。君がごちゃごちゃ言われないためにルナだっけ?を手放さないようにすればいい。まあどっちにしろ?ルナはマスターを選ぶみたいだから、僕らとは違うんだろうけど」
「ええと……」
「でも、そのためには強くならなきゃねぇ、ユウイチ君」

 言いたいことだけ言ってまたじぶんのせかいに入ってしまったヤンの言葉をグレイシアが続けた。

「誰かに師事して、ユウイチ君がどういう魔術に向いているのか、またどういう魔術をつかう戦い方をしたいのか。それを見極めていきましょうねぇ」

 ユウイチは、ちらり、と俺を見る。その視線には気づかなかったふりをして、俺は「何はともあれ、まずはイーサンとエリオットに会うことだな」と続けた。
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