the Dool and the Dool

名もなき萌えの探求者

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「っつーわけだ。フライディ、軽く手合わせをしろ。壊すなよ」

「イエス、マイマスター!」

 右手をピンっと上げるフライディを、腰を掴んで少し引き寄せる。

「マスター?……んぅっ」

 そのまま顎を掴んで、フライディの唇を俺の唇で塞ぐ。舌を絡ませて口の中を掻き回すと、フライディは、甘い声をあげた。

「んぅ、ふ…っ、ぁ、ますたぁ…?」
「昨日、戦闘後にしてなかったからな。ちょっとは回復しただろ」
「……もっと欲しいっす」

 上目遣いにこちらをみてくるフライディ。あざといなこいつ。

「ユウイチ」
「へ⁉︎はっはい‼︎」

 俺たちの補給に固まっていたユウイチがびくりと肩を震わせた。

「お前もやっとけ。キスでも多少は魔力譲渡できるから」

 本当はセックスのほうがいいが、そもそも男同士のセックスをユウイチが知っているかもわからないし、万が一、そんなことがあったら拙いが、同性同士の性行為に拒否感があるタイプのこともある。まあ、それならキスもできねぇか?
 でも魔力の循環をできるようになってきている今、漏れ出る魔力もほとんど無いのだ。供給はしてやらないと、マンディが止まる。
 ユウイチは驚いたように目をパチクリとさせていたが、マンディが犬のような目をしてユウイチを見ているのに気づいて、え、え、と視線を泳がせてから、「わ、わかり、ました…」と頷いた。

 魔力を教えた時も思ったが、ユウイチは妙に素直というか、言われたことに拒否をするのが得意じゃない気がしている。
 それは魔術師として生きていくことになったら欠点になるぞ。と思うが、いまのユウイチにいうことでもない気がするから、頭の中で思うだけにした。

「で、でもどうやったら?」
「は?お前、どうって……」

 口頭説明しろと?
 少し考えて、面倒くさくなった。

「え、ユラさん?」
「こうやるんだよ」
「んっ⁉︎」

 そのままユウイチの唇を奪う。ドールとの魔力補給はバードキスなどでは不可能で、必ず舌を入れる必要があるから、そのままユウイチの口の中に舌を突っ込んだ。逃げ腰になったユウイチの頭と腰を掴んで、舌で歯をなぞり、口の中を犯していく。最後に、舌同士を絡ませるとユウイチの体がびくんと跳ねた。

「わかったか?」
「…ッッ」

 口を両手で覆って、ユウイチは真っ赤で涙目でコクコクと頷いた。そして、マンディをつれて、木の影に隠れにいく。みられるのが恥ずかしい、って所だろうか。
 嫌悪感はなさそうだな。
 やってから、「あ」とは思ったが、まあ別にいいだろう。

「マスター、僕ももっと…」
「ああ、そうだったっけか」
「意地悪いっすよ、マスター!」
「うっせぇよ」

***

 しばらくしてから、へろへろになったユウイチと、機嫌の良さそうなマンディが戻ってくる。

「できたか?」
「できた。本当はもっとしたかったけど、我慢。フライディのマスター、ありがとう」

 マンディが嬉しそうにそういって、ユウイチがもう勘弁してください……と言っている。
 主導権がマンディの方にあるキスになったとみた。まあ、どうでもいいが。

「マンディ、お前の武器はなんだ」
「これ」

 マンデイが空と掴むときらり、と空気が光って、マンディの手には細身の剣が一本握られていた。ドールがマスターからの魔力を使って魔術を使うのは珍しくない。今のも魔法剣の応用だろう。

「剣か。……それ、刃があるな。フライディ、あれと同じ大きさの棒かなにか、もらってこい」
「僕、当たらないっすよ」

 ちょっとムッとしたように俺をみるフライディのでこを指でピンとはねる。

「いたっ」
「俺は慎重なんだよ。いいから行け」
「……イエス、マイマスター」

 なおも不満そうにブツブツ言いながらフライディが棒をもらってきて、そうしてやっと戦闘開始となった。
 フライディは基本的に肉弾戦というか、拳と蹴り技メインの戦闘スタイル。超近接型だ。
 本気でやるときは手足に風系の魔法で刃を作って殺傷能力を上げるが、今日はそれはしない。

「どこからでもどうぞっす!」

 先ほどの俺のセリフをまだ根に持っているのか、少し煽るように言うフライディに「わかった」とマンディは地面を蹴った。
 あっという間に距離を詰めて剣のかわりの棒を振り上げる。マンディが振り下ろす棒を軽く右に避けて、フライディはマンディの手首を蹴り上げようとするが、それは後ろに飛んだマンディには当たらない。

「思ったより速いっすね、マンディ」
「ん……。でもうまく体が動かない」
「それはまあ、起きたばっかっすから」

 フライディは自分が強いという自覚があるからか、少し余裕ぶっていたところがあったが、先ほどの一瞬のやりとりで思うところがあったのか、ふぅと一息ついてから、「ちょっと真面目にやるっす」と目つきと構えを変えた。
 体を低く、どっかの地域で拳法と言われる体術に少し似た構え。あいつがちゃんと戦う時の構えだ。
 へぇ、と思った。
 マンディは最弱という評価だったが、やはりそれは起きているところを誰もみたことがなかった、もしくはみた人間が少なかったための評価で間違いないのだろう。

「次は僕から行くっす。構えて、防いでくださいっす」

 言うが速いか、一瞬でマンディのところまでフライディが跳んだ。そのまま体を捻って回し蹴りをするフライディに、マンデイは驚いたように目を開いていたが、蹴り自体は棒で防いだ、が。
 棒が折れた。

「あ」
「あ」

 マンディとフライディの声が重なる。
 フライディが、俺を気まずそうに振り返った。

「マスター、あの、このながさの、一本しかなかったっす」
「じゃ、そこまでだな」
「えー⁉︎」

 ちょっと楽しくなっていたのだろう。フライディが声をあげるが、刃のある魔法剣で模擬戦やらせるつもりはない。

「マンディ、お前、ユウイチを守れるか」
「守れる。守る。マスターは、俺の大切な存在だから」

 フライディの攻撃を防いだ今の動きをみるに、とりあえず『弱い』わけではないと言うのがわかったから、もうこれで充分だ。
 ユウイチは、少し青い顔をしていた。

「怖いか」
「え?」

 俺の問いにユウイチは少し考え、「はい」と返した。

「ま、それが普通だ。だが、慣れろ。本気の戦闘は危険度も殺意も模擬戦の何十倍も上乗せされる。魔術も加わるしな。恐怖を忘れる必要はない。それは命を守るために必要なものだ。だが、恐怖のなかでも動けるようになっとけ」

 どうやって、と言われても慣れとしか言いようがないが。
 ユウイチは困ったように眉を下げて、黙ったまま、わかりましたとは言わなかった。
 そんな俺たちの様子を見ていたフライディが小首を傾げた。

「あれ?やっぱりマスターはマンディのマスターの師匠になったんっすか?」
「ああ?」
「だって今の、マスターの師匠からの受けうりっすよね?」

 ……、知るか。

 こいつの師匠になる気なんてない。

 ないんだよ。
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