the Dool and the Dool

名もなき萌えの探求者

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 説明はしたし、了承も得た。
 昨日のアレから杖の調子がどうにも悪いから、あえて杖は使わず詠唱を持って術式を展開する。
 ユウイチの足元に魔術の陣が浮かび上がり、じわり、を赤い光が彼を覆った。
 ……とんでもねぇな。
 まず、それが感想。
 見たことのない質の魔力で、それも気になるが、なによりもその量だ。
 あの塊を見てから相当多いだろうというのは分かっていたが、軽く俺の倍はあるだろうか。俺だって別に少なかねぇんだけどな。
 それに、確かに魔力はじわじわと体から流れている。魔力の量が多いから、多少漏れてたくらいでは体に影響が出ないとか、そんな感じなんだろうか。
 魔術師としての訓練をしていない体ではこの魔力量を制御しきれないというというのもあるのだろう。
 どうしてセックスなしでマンディが受け取れているのかは結局わからねぇけれども。

(さて、あんまり宜しくねぇな)

 今はまだ平気そうにしているが、魔力が流れ続けるのは、間違いなく体に負担がかかるはずだ。
 とはいいながら、この魔力量を体の中に収まるように外的処置したとしても、それはそれで危ないだろう。
 体内で暴発しかねない。

「あ、あの……」
「ユウイチ、お前、魔術師としての勉強しろ」
「え?」

 俺は術を解除して続ける。

「元の世界に帰るにしても、まあ、すぐは無理だろ。前例がないからな。なら、その間お前の体や心を守るためには魔術を扱えるようになっておいた方がいい。マンディの扱い方もな」

 セントラルまでは護衛はするし、セントラルについてサンディのマスターの保護下に入ればとりあえずの危険はなくなるだろう。だが、垂れ流しの魔力を扱えるようになること、マンディへの指示の出し方や、マンディと組んだ戦い方は覚えておく方がいい。いつ、どこで何があるかなんてわかんねぇからな。
 ユウイチは少し俯いて「でも俺に魔術なんて使えるわけが…」とか、「俺がマンディさんを使うっていわれても…」とかぼそぼそと言うもんだから、不安や不満言うならはっきりいえよという気持ちも混ざって、思わず「うっせぇ」とつぶやいた。
 びくりと固まるユウイチをみて、マンディがじとりと俺を睨んでくる。

 ああもう、くそが。

「とにかく、できるんだよ、お前には。前の世界でどうだったかはしらねぇが、今のお前はできるし、できないと死ぬ。だから死ぬ気でやれ」

 死ぬ、という言葉にびくりとまた震えたが、わかりました、と頷いた。
 ふと、昨日フライディが読んでいた本を、カバンに入れっぱなしだったことを思い出して、それをユウイチに渡す。「読めるか?」と聞くと、「読めます」と返事が返ってきた。
 そういや言葉も問題なく通じているし、本当によくわからん存在だな。



 しばらくして、買い物を終えたフライディが帰ってきた。
 ユウイチ用に買ってきたのは一般的な成人男性の洋服と帽子。マンディには目元ギリギリまで隠せる大きなフードのついた地味なローブだった

「髪の毛ごとがっつり隠せばマンディっぽく見えないと思うんっすよね」
「まあそうだな」

 フライディの頭をポンと撫でるとフライディは嬉しそうに笑う。

「サイズは大丈夫っすか?」
「はい、大丈夫です」
「着られる」

 試着してみた二人がそれぞれ頷く。
 フライディは昼飯を作ると言って台所へ入っていったから、俺はユウイチに声をかけた。

「お前、まさかもう読み終わったのか」

 フライディが戻ってくるまでの2時間程度の間に、そこそこ分厚いはずの本をユウイチは読み切っていた。

「え、はい、あ、ええと」
「いや、別に責めてるわけじゃねぇからキョドんな。内容は理解できそうだったか」
「え、あ…、はい。多分。ざっくりと、ですけれど……」

 いくつか質問すると、おどおどしながらの回答ではあるものの、それなりに理解しているようだった。やっぱりこいつ地頭は悪くねぇんだな。
 常に自信なさげなのは、知らない世界に来たばかりだからなのか、本人のもともとの気質なのかどっちだ。
 いやまあ、どっちでもいいけども。
 しかし、中に書いてあるのは本当に初歩だが、魔術師の勉強はどちらかと実戦形式のものが多い。

「……、おい。フライディ」

 台所に向かって声をかけると、「なんっすかー?」と声だけが返ってくる。

「昼飯は外で食うぞ」

 ひょこっとフライディは顔を出す。

「もう仕込みしちゃったんすけど……」
「晩飯にすりゃいいだろ」
「……はぁい」

 フライディがしぶしぶエプロンを外しているのを横目で見てから、ユウイチに振り返り、「その格好のまま、ついてこい」と声をかけた。
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