the Dool and the Dool

名もなき萌えの探求者

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「フライディ泣かせないでよねぇ、ユラ」

 次の日目が覚めたら俺はベッドに寝かされていて、ベッドサイドにはマンディ、ユウイチ、そして。

「グレイシア、きてたのか」
「きてたのか、じゃないわよー。夜中にフライディが泣きながら『来てくださいっすー』って診療所に走り込んできたのよぉ?」

 グレイシアは魔術師であり、医者であり、ドールのマスターでもある。彼女の後ろに控える、水色の髪を一つに結んだ少女がウェンズディだ。ウェンズディはグレイシアに包帯を渡しながらぺこり、と俺に頭を下げた。

「世話かけたな」
「ほんとよぉ。まあ、私はこれが仕事だからいいけどね」

 グレイシアはのんびりと微笑んだ。

「おい、フライディ、部屋に入ってこい」

 グレイシアに礼を言ってから、扉のところでこちらをみているフライディに命令する。
 ドールは命令に逆らえないため、おずおずとではあるがフライディは俺のベッドの横に立った。

「マスター……勝手なことして、ごめんなさいっす…」

 命令以外のことをする。それはドールにとっては苦手なことの一つなのだが、フライディは違う。状況や感情から自分で考えて動くことができる唯一のドールだ。だが、本人はそれがコンプレックスなのだというから、いましょげているのもそのせいか?

「何を言うの、フライディ。あなたがちゃんと私を呼んだから、ほら、もうだいぶ傷が塞がっているでしょお?」

 俺が何か言う前にグレイシアが俺の腕をとってフライディに見せる。ほ、とため息をついたのがわかった。
 ああそうか。
 ドールは人間ではないが、感情は持っている。トラウマが出来ることだってある。理由は知らねぇが、フライディはやたら俺が死ぬことを怖がっているからな。やむ終えなかった魔力操作はともかく、その後の調べ物に時間をかけたのは軽率だったか。

「フライディ、生きてるぞ」
「……はい、マイマスター」

 へにゃ、と笑ったフライディを、包帯を巻き終わったほうの手でひとつ撫でた。

「ねぇ。私聞きたいことがあるんだけど、いいかしらぁ?」



 処置が終わって、俺たちは全員リビングに集まっていた。
 フライディとウェンズディはそれぞれ命じられて朝食準備に取り掛かっていて、座っているのは四人(マンディ含む)だが。

「そこの男の子は誰なのかしら?それに、それ、マンディよねぇ?あなたの傷だって変な魔力帯びてるし……、説明はしてもらえる感じ?」
「ああ、まあ、そうだな」

 グレイシアは『マスター』だ。ここで隠してもいずれ国からの説明があるだろうと判断し、俺は昨日の展開についてかいつまんでグレイシアに伝えた。
 グレイシアは良くも悪くものんびりしている。そんな彼女だから、相槌もそれほど大きなものではなかったが、それでも驚いたようだった。

「そんな御伽噺みたいなこと、あるのねぇ。それに、ドールがマスターを選ぶなんて……」
「そこは、俺も気になっていたが、…まあ、マスター本人がこれだからな。魔術師の基本も知らないマスターだなんて、まずそこから信じられねぇ」
「な、なんかすみません……」

 ユウイチは居心地悪そうに俯いた。

「あらぁ。あなたは連れて来られた立場でしょお?何を謝ることがあるの?でもまあ、しばらくは国のあずかりになるでしょうけどぉ……」

 グレイシアの言う通りではあるのだが、俺はなんとなく嫌な予感がしている。国の直属のトップ魔術師はサンディのマスターなのだが、癖のある性格だからな…。

「あの、お、俺、処刑とか、されたりしませんか」
「なんでまた」

 ユウイチが突然言った言葉の意味が分からなくて眉を寄せるが、ユウイチは俯いたまま尚も続ける。

「だって、マンディさんって、国が保管してたドールで……、ドールって貴重なんですよね……?わざとじゃないけど、盗んだみたいになってるし……」
「どんな形であれ、お前はそいつのドールのマスターになったンだからそんな心配する必要ねぇだろ」
「でも……」
「ねぇ、ユラ。多分この子、私たちの常識は何もわからないと思っていたほうがいいとおもうわぁ」

 グレイシアの言に眉を寄せる。どう言うことだ。
 しかしグレイシアは俺の反応は無視して、ユウイチに話しかける。

「あのね、ユウイチくんだったかしら。ドールのマスターっていうのは、誰でも簡単になれるものじゃないのよぉ」
「ええと……」
「詳しいことは今は省くけどぉ、マスターになった時点で、国から、ある程度の補償がされるのね。例えば、いろんなことに対してお目溢しがされる、とかぁ」
「おめこぼし、ですか」
「そぉ。やりたいことへの補償とかもねぇ。私が女なのに医者ができるのも、ウェンズディのマスターだからなのよぉ」

 この国で医者になれるのは基本的には男だけだ。体から血を流す女は穢れているからだとか、そういうくだらねぇ迷信のせいで、女の地位は一部で異様に低い。
 グレイシアの言葉にうーん、とユウイチは唸る。

「そして、魔術師を害していいのは、ドールを奪いたい魔術師だけ。大量殺人とか、大事件を起こさない限りはそうそう殺されるようなことはないだろうし、ましてや誰も起こせなかったマンディのマスターですものぉ。しばらく国の施設でいろいろ質問とかはされるかもしれないけど、裁かれる心配はないと思って良いわぁ」

 ユウイチは、「そう、ですか」とだけ言って黙り込む。マンディはそんなユウイチをみて困ったように手を彷徨わせていて、俺はため息をついた。

「あれ?なんでこんな暗い雰囲気なんっすか?マスターがマンディのマスター泣かせたんっすか?」
「なんでそうなるんだよ」

 いい意味での雰囲気クラッシャーのフライディが朝食の乗ったトレイを抱えて帰ってくる。とんとんとリズムよくそれらをテーブルに並べると、「ウェンズディの特性スープ美味しいっすよ!とりあえずはご飯にしましょう!」と笑った。
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