6 / 25
6
しおりを挟む
「フライディ泣かせないでよねぇ、ユラ」
次の日目が覚めたら俺はベッドに寝かされていて、ベッドサイドにはマンディ、ユウイチ、そして。
「グレイシア、きてたのか」
「きてたのか、じゃないわよー。夜中にフライディが泣きながら『来てくださいっすー』って診療所に走り込んできたのよぉ?」
グレイシアは魔術師であり、医者であり、ドールのマスターでもある。彼女の後ろに控える、水色の髪を一つに結んだ少女がウェンズディだ。ウェンズディはグレイシアに包帯を渡しながらぺこり、と俺に頭を下げた。
「世話かけたな」
「ほんとよぉ。まあ、私はこれが仕事だからいいけどね」
グレイシアはのんびりと微笑んだ。
「おい、フライディ、部屋に入ってこい」
グレイシアに礼を言ってから、扉のところでこちらをみているフライディに命令する。
ドールは命令に逆らえないため、おずおずとではあるがフライディは俺のベッドの横に立った。
「マスター……勝手なことして、ごめんなさいっす…」
命令以外のことをする。それはドールにとっては苦手なことの一つなのだが、フライディは違う。状況や感情から自分で考えて動くことができる唯一のドールだ。だが、本人はそれがコンプレックスなのだというから、いましょげているのもそのせいか?
「何を言うの、フライディ。あなたがちゃんと私を呼んだから、ほら、もうだいぶ傷が塞がっているでしょお?」
俺が何か言う前にグレイシアが俺の腕をとってフライディに見せる。ほ、とため息をついたのがわかった。
ああそうか。
ドールは人間ではないが、感情は持っている。トラウマが出来ることだってある。理由は知らねぇが、フライディはやたら俺が死ぬことを怖がっているからな。やむ終えなかった魔力操作はともかく、その後の調べ物に時間をかけたのは軽率だったか。
「フライディ、生きてるぞ」
「……はい、マイマスター」
へにゃ、と笑ったフライディを、包帯を巻き終わったほうの手でひとつ撫でた。
「ねぇ。私聞きたいことがあるんだけど、いいかしらぁ?」
処置が終わって、俺たちは全員リビングに集まっていた。
フライディとウェンズディはそれぞれ命じられて朝食準備に取り掛かっていて、座っているのは四人(マンディ含む)だが。
「そこの男の子は誰なのかしら?それに、それ、マンディよねぇ?あなたの傷だって変な魔力帯びてるし……、説明はしてもらえる感じ?」
「ああ、まあ、そうだな」
グレイシアは『マスター』だ。ここで隠してもいずれ国からの説明があるだろうと判断し、俺は昨日の展開についてかいつまんでグレイシアに伝えた。
グレイシアは良くも悪くものんびりしている。そんな彼女だから、相槌もそれほど大きなものではなかったが、それでも驚いたようだった。
「そんな御伽噺みたいなこと、あるのねぇ。それに、ドールがマスターを選ぶなんて……」
「そこは、俺も気になっていたが、…まあ、マスター本人がこれだからな。魔術師の基本も知らないマスターだなんて、まずそこから信じられねぇ」
「な、なんかすみません……」
ユウイチは居心地悪そうに俯いた。
「あらぁ。あなたは連れて来られた立場でしょお?何を謝ることがあるの?でもまあ、しばらくは国のあずかりになるでしょうけどぉ……」
グレイシアの言う通りではあるのだが、俺はなんとなく嫌な予感がしている。国の直属のトップ魔術師はサンディのマスターなのだが、癖のある性格だからな…。
「あの、お、俺、処刑とか、されたりしませんか」
「なんでまた」
ユウイチが突然言った言葉の意味が分からなくて眉を寄せるが、ユウイチは俯いたまま尚も続ける。
「だって、マンディさんって、国が保管してたドールで……、ドールって貴重なんですよね……?わざとじゃないけど、盗んだみたいになってるし……」
「どんな形であれ、お前はそいつのドールのマスターになったンだからそんな心配する必要ねぇだろ」
「でも……」
「ねぇ、ユラ。多分この子、私たちの常識は何もわからないと思っていたほうがいいとおもうわぁ」
グレイシアの言に眉を寄せる。どう言うことだ。
しかしグレイシアは俺の反応は無視して、ユウイチに話しかける。
「あのね、ユウイチくんだったかしら。ドールのマスターっていうのは、誰でも簡単になれるものじゃないのよぉ」
「ええと……」
「詳しいことは今は省くけどぉ、マスターになった時点で、国から、ある程度の補償がされるのね。例えば、いろんなことに対してお目溢しがされる、とかぁ」
「おめこぼし、ですか」
「そぉ。やりたいことへの補償とかもねぇ。私が女なのに医者ができるのも、ウェンズディのマスターだからなのよぉ」
この国で医者になれるのは基本的には男だけだ。体から血を流す女は穢れているからだとか、そういうくだらねぇ迷信のせいで、女の地位は一部で異様に低い。
グレイシアの言葉にうーん、とユウイチは唸る。
「そして、魔術師を害していいのは、ドールを奪いたい魔術師だけ。大量殺人とか、大事件を起こさない限りはそうそう殺されるようなことはないだろうし、ましてや誰も起こせなかったマンディのマスターですものぉ。しばらく国の施設でいろいろ質問とかはされるかもしれないけど、裁かれる心配はないと思って良いわぁ」
ユウイチは、「そう、ですか」とだけ言って黙り込む。マンディはそんなユウイチをみて困ったように手を彷徨わせていて、俺はため息をついた。
「あれ?なんでこんな暗い雰囲気なんっすか?マスターがマンディのマスター泣かせたんっすか?」
「なんでそうなるんだよ」
いい意味での雰囲気クラッシャーのフライディが朝食の乗ったトレイを抱えて帰ってくる。とんとんとリズムよくそれらをテーブルに並べると、「ウェンズディの特性スープ美味しいっすよ!とりあえずはご飯にしましょう!」と笑った。
次の日目が覚めたら俺はベッドに寝かされていて、ベッドサイドにはマンディ、ユウイチ、そして。
「グレイシア、きてたのか」
「きてたのか、じゃないわよー。夜中にフライディが泣きながら『来てくださいっすー』って診療所に走り込んできたのよぉ?」
グレイシアは魔術師であり、医者であり、ドールのマスターでもある。彼女の後ろに控える、水色の髪を一つに結んだ少女がウェンズディだ。ウェンズディはグレイシアに包帯を渡しながらぺこり、と俺に頭を下げた。
「世話かけたな」
「ほんとよぉ。まあ、私はこれが仕事だからいいけどね」
グレイシアはのんびりと微笑んだ。
「おい、フライディ、部屋に入ってこい」
グレイシアに礼を言ってから、扉のところでこちらをみているフライディに命令する。
ドールは命令に逆らえないため、おずおずとではあるがフライディは俺のベッドの横に立った。
「マスター……勝手なことして、ごめんなさいっす…」
命令以外のことをする。それはドールにとっては苦手なことの一つなのだが、フライディは違う。状況や感情から自分で考えて動くことができる唯一のドールだ。だが、本人はそれがコンプレックスなのだというから、いましょげているのもそのせいか?
「何を言うの、フライディ。あなたがちゃんと私を呼んだから、ほら、もうだいぶ傷が塞がっているでしょお?」
俺が何か言う前にグレイシアが俺の腕をとってフライディに見せる。ほ、とため息をついたのがわかった。
ああそうか。
ドールは人間ではないが、感情は持っている。トラウマが出来ることだってある。理由は知らねぇが、フライディはやたら俺が死ぬことを怖がっているからな。やむ終えなかった魔力操作はともかく、その後の調べ物に時間をかけたのは軽率だったか。
「フライディ、生きてるぞ」
「……はい、マイマスター」
へにゃ、と笑ったフライディを、包帯を巻き終わったほうの手でひとつ撫でた。
「ねぇ。私聞きたいことがあるんだけど、いいかしらぁ?」
処置が終わって、俺たちは全員リビングに集まっていた。
フライディとウェンズディはそれぞれ命じられて朝食準備に取り掛かっていて、座っているのは四人(マンディ含む)だが。
「そこの男の子は誰なのかしら?それに、それ、マンディよねぇ?あなたの傷だって変な魔力帯びてるし……、説明はしてもらえる感じ?」
「ああ、まあ、そうだな」
グレイシアは『マスター』だ。ここで隠してもいずれ国からの説明があるだろうと判断し、俺は昨日の展開についてかいつまんでグレイシアに伝えた。
グレイシアは良くも悪くものんびりしている。そんな彼女だから、相槌もそれほど大きなものではなかったが、それでも驚いたようだった。
「そんな御伽噺みたいなこと、あるのねぇ。それに、ドールがマスターを選ぶなんて……」
「そこは、俺も気になっていたが、…まあ、マスター本人がこれだからな。魔術師の基本も知らないマスターだなんて、まずそこから信じられねぇ」
「な、なんかすみません……」
ユウイチは居心地悪そうに俯いた。
「あらぁ。あなたは連れて来られた立場でしょお?何を謝ることがあるの?でもまあ、しばらくは国のあずかりになるでしょうけどぉ……」
グレイシアの言う通りではあるのだが、俺はなんとなく嫌な予感がしている。国の直属のトップ魔術師はサンディのマスターなのだが、癖のある性格だからな…。
「あの、お、俺、処刑とか、されたりしませんか」
「なんでまた」
ユウイチが突然言った言葉の意味が分からなくて眉を寄せるが、ユウイチは俯いたまま尚も続ける。
「だって、マンディさんって、国が保管してたドールで……、ドールって貴重なんですよね……?わざとじゃないけど、盗んだみたいになってるし……」
「どんな形であれ、お前はそいつのドールのマスターになったンだからそんな心配する必要ねぇだろ」
「でも……」
「ねぇ、ユラ。多分この子、私たちの常識は何もわからないと思っていたほうがいいとおもうわぁ」
グレイシアの言に眉を寄せる。どう言うことだ。
しかしグレイシアは俺の反応は無視して、ユウイチに話しかける。
「あのね、ユウイチくんだったかしら。ドールのマスターっていうのは、誰でも簡単になれるものじゃないのよぉ」
「ええと……」
「詳しいことは今は省くけどぉ、マスターになった時点で、国から、ある程度の補償がされるのね。例えば、いろんなことに対してお目溢しがされる、とかぁ」
「おめこぼし、ですか」
「そぉ。やりたいことへの補償とかもねぇ。私が女なのに医者ができるのも、ウェンズディのマスターだからなのよぉ」
この国で医者になれるのは基本的には男だけだ。体から血を流す女は穢れているからだとか、そういうくだらねぇ迷信のせいで、女の地位は一部で異様に低い。
グレイシアの言葉にうーん、とユウイチは唸る。
「そして、魔術師を害していいのは、ドールを奪いたい魔術師だけ。大量殺人とか、大事件を起こさない限りはそうそう殺されるようなことはないだろうし、ましてや誰も起こせなかったマンディのマスターですものぉ。しばらく国の施設でいろいろ質問とかはされるかもしれないけど、裁かれる心配はないと思って良いわぁ」
ユウイチは、「そう、ですか」とだけ言って黙り込む。マンディはそんなユウイチをみて困ったように手を彷徨わせていて、俺はため息をついた。
「あれ?なんでこんな暗い雰囲気なんっすか?マスターがマンディのマスター泣かせたんっすか?」
「なんでそうなるんだよ」
いい意味での雰囲気クラッシャーのフライディが朝食の乗ったトレイを抱えて帰ってくる。とんとんとリズムよくそれらをテーブルに並べると、「ウェンズディの特性スープ美味しいっすよ!とりあえずはご飯にしましょう!」と笑った。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
あなたの隣で初めての恋を知る
ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる