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「じゃあ、次はお前のことを聞かせろ」
「ひっ」
さっきから何なんだよ、もう。
「マスター、とりあえず僕はマスターが休むのが先だと思うっす!」
あ?
フライデイの言葉に、自らの腕を見てみると巻かれた包帯に血が滲んでいる。
痛み感じにくいように術かけていたからうっかりしていた。どんなもんかと術を解くと、まあ、かなり痛い。
腕以外もあちこちが痛い。
「……とりあえず帰るか」
「あの、ええと、俺はどうすれば……」
「あん?そうだな、とりあえず着いてこい。後で国のほうから指示があるだろうが、とりあえず落ち着ける場所がいるだろ。フライデイ、客間は空いてるか」
「ちょうど昨日お掃除したばっかっすよ!」
「だ、そうだ」
「え、あ、ありがとうございます……」
ユウイチは居心地悪そうに頷いた。
「マンディ、お前もくるだろ」
「うん。マスターが行く場所に行く」
「じゃ、もう面倒くせぇから一気に行くぞ」
そう宣言してから俺は大きめの移動術式を展開させる。
目的地は、俺の家だ。
「瞬間移動……」
俺の家の中についたとき、ユウイチはそうつぶやいた。
こいつが魔術を使ったことがないというのは間違い無いんだろう。それどころかおそらく見たこともない。
部屋のランプに魔術で火を入れただけで、また驚いていた。
「フライディ、とりあえず茶淹れてくれ」
「はーい!」
そう頼んで俺はソファに座る。
所在なさげにしていたユウイチにも椅子を持ってきて座るように声をかけて、「で、お前の話だ」というと、ユウイチは困ったように首を傾げた。
「俺の話、といわれても……、俺、なにがどうなってるのかわからないし……」
もじもじと組まれる指と揺れる視線に若干いらっとするが、こいつが万が一、本当に異世界からきたと仮定するなら、まあ、わからないでもない。
「じゃあ、俺が質問するから、それに答えろ」
「は、はい」
「っと、その前に、おい、マンディ。ずっと立たれると鬱陶しいから座れ」
俺が声をかけるが、マンディは動かない。
「マスターの命令しか聞けない」
「……、まあ、ドールだもんな。おいユウイチ、お前が命令しろ」
「へ」
「ドールってのは基本的にマスターの命令でしか動けねぇんだよ。フライディは少し特殊だけどな。だから、座らせるにはお前が座れと命じなきゃ動かない」
「え、ええと…、なんといえば…?」
「マンディ座れ、と言えばいいだろ。いちいち聞くなよ……」
「す、すみません……」
他人に命ずることに慣れていないのか、ユウイチはまた困ったように眉を下げて自分の手の指をもじもじ絡ませながら「ま、マンディ、さん、座って…?」と言った。
「イエス、マイマスター」
マンディは初めての命令が嬉しいのか、にこりと微笑んでから、ユウイチのすぐそばに椅子を運んで座る。
いちいち面倒くせぇなぁ……、くそ。
「さて、何から聞くかな。……ユウイチ、お前はここに来る直前何をしてた?目覚めたとき天国とか呟いてたが、死んだのか?」
「ええと、その辺りが少し曖昧で……」
「曖昧?」
「はい……、その、俺、階段から落ちたんだと思うんです。多分。ただ、落ちるって思った記憶の次がもうここで目を覚ましたときの記憶になっちゃって……」
「へぇ」
「なので、死んだのかどうかは、……正直なところわからないです」
「お前いくつだ」
「え?ええと、十八になったばかり、ですが」
「成人してんのか。ずいぶん幼く見えるな」
成人って二十からじゃないんですか?と質問が飛んできたので、少なくともこの国では十八だ、と返す。
その後いろいろ聞いてみたところ、こいつの妄想で片付けるにはリアルすぎる「向こうの世界」の話を聞くことになった。
マンディ曰く、世界に呼ばれた、俺たちが生きているこの世界がこいつを必要としたのだという。
何かが起きるのか、とマンディに聞いてみても「それはわからない」と返されて、ため息しか出ない。
とりあえず、フライディに二人を客間に案内させてから、書庫で何冊か文献を漁ってみたが、ユウイチのような異世界人がこの世界に来た、なんて記録はない。
御伽噺としては、結構あるんだけどな。
「マスター、そろそろ休まないと顔色悪いっすよ!」
「あ?」
気づけば割と時間が経っていたらしい。
ぷりぷりと頬を膨らませたフライディが書庫の入り口に立っていた。
「ただでさえ今日のマスターは無茶してるんっすよ!早く寝てくださいっす!」
「ああ、まあ、そうだな」
床に座り込んでいた俺は立ち上がろうとするが、そのままくらり、と目の前がしろくなる。ああ、貧血起こしてら。まあ、血をたれながしながら術使ったからな。
ゆっくりと意識が遠くなっていく感じがして、その向こうから泣きそうに「マスター死なないで!」と言うフライディの声が聞こえた。
死なねぇよ、ばか。
「ひっ」
さっきから何なんだよ、もう。
「マスター、とりあえず僕はマスターが休むのが先だと思うっす!」
あ?
フライデイの言葉に、自らの腕を見てみると巻かれた包帯に血が滲んでいる。
痛み感じにくいように術かけていたからうっかりしていた。どんなもんかと術を解くと、まあ、かなり痛い。
腕以外もあちこちが痛い。
「……とりあえず帰るか」
「あの、ええと、俺はどうすれば……」
「あん?そうだな、とりあえず着いてこい。後で国のほうから指示があるだろうが、とりあえず落ち着ける場所がいるだろ。フライデイ、客間は空いてるか」
「ちょうど昨日お掃除したばっかっすよ!」
「だ、そうだ」
「え、あ、ありがとうございます……」
ユウイチは居心地悪そうに頷いた。
「マンディ、お前もくるだろ」
「うん。マスターが行く場所に行く」
「じゃ、もう面倒くせぇから一気に行くぞ」
そう宣言してから俺は大きめの移動術式を展開させる。
目的地は、俺の家だ。
「瞬間移動……」
俺の家の中についたとき、ユウイチはそうつぶやいた。
こいつが魔術を使ったことがないというのは間違い無いんだろう。それどころかおそらく見たこともない。
部屋のランプに魔術で火を入れただけで、また驚いていた。
「フライディ、とりあえず茶淹れてくれ」
「はーい!」
そう頼んで俺はソファに座る。
所在なさげにしていたユウイチにも椅子を持ってきて座るように声をかけて、「で、お前の話だ」というと、ユウイチは困ったように首を傾げた。
「俺の話、といわれても……、俺、なにがどうなってるのかわからないし……」
もじもじと組まれる指と揺れる視線に若干いらっとするが、こいつが万が一、本当に異世界からきたと仮定するなら、まあ、わからないでもない。
「じゃあ、俺が質問するから、それに答えろ」
「は、はい」
「っと、その前に、おい、マンディ。ずっと立たれると鬱陶しいから座れ」
俺が声をかけるが、マンディは動かない。
「マスターの命令しか聞けない」
「……、まあ、ドールだもんな。おいユウイチ、お前が命令しろ」
「へ」
「ドールってのは基本的にマスターの命令でしか動けねぇんだよ。フライディは少し特殊だけどな。だから、座らせるにはお前が座れと命じなきゃ動かない」
「え、ええと…、なんといえば…?」
「マンディ座れ、と言えばいいだろ。いちいち聞くなよ……」
「す、すみません……」
他人に命ずることに慣れていないのか、ユウイチはまた困ったように眉を下げて自分の手の指をもじもじ絡ませながら「ま、マンディ、さん、座って…?」と言った。
「イエス、マイマスター」
マンディは初めての命令が嬉しいのか、にこりと微笑んでから、ユウイチのすぐそばに椅子を運んで座る。
いちいち面倒くせぇなぁ……、くそ。
「さて、何から聞くかな。……ユウイチ、お前はここに来る直前何をしてた?目覚めたとき天国とか呟いてたが、死んだのか?」
「ええと、その辺りが少し曖昧で……」
「曖昧?」
「はい……、その、俺、階段から落ちたんだと思うんです。多分。ただ、落ちるって思った記憶の次がもうここで目を覚ましたときの記憶になっちゃって……」
「へぇ」
「なので、死んだのかどうかは、……正直なところわからないです」
「お前いくつだ」
「え?ええと、十八になったばかり、ですが」
「成人してんのか。ずいぶん幼く見えるな」
成人って二十からじゃないんですか?と質問が飛んできたので、少なくともこの国では十八だ、と返す。
その後いろいろ聞いてみたところ、こいつの妄想で片付けるにはリアルすぎる「向こうの世界」の話を聞くことになった。
マンディ曰く、世界に呼ばれた、俺たちが生きているこの世界がこいつを必要としたのだという。
何かが起きるのか、とマンディに聞いてみても「それはわからない」と返されて、ため息しか出ない。
とりあえず、フライディに二人を客間に案内させてから、書庫で何冊か文献を漁ってみたが、ユウイチのような異世界人がこの世界に来た、なんて記録はない。
御伽噺としては、結構あるんだけどな。
「マスター、そろそろ休まないと顔色悪いっすよ!」
「あ?」
気づけば割と時間が経っていたらしい。
ぷりぷりと頬を膨らませたフライディが書庫の入り口に立っていた。
「ただでさえ今日のマスターは無茶してるんっすよ!早く寝てくださいっす!」
「ああ、まあ、そうだな」
床に座り込んでいた俺は立ち上がろうとするが、そのままくらり、と目の前がしろくなる。ああ、貧血起こしてら。まあ、血をたれながしながら術使ったからな。
ゆっくりと意識が遠くなっていく感じがして、その向こうから泣きそうに「マスター死なないで!」と言うフライディの声が聞こえた。
死なねぇよ、ばか。
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