4 / 25
4
しおりを挟む
「あ、れ、ここは…?」
目を覚ました男は、キョロキョロと周りを見回す。
黒髪黒目、不安そうに垂れた眉。
軍服に近い詰襟は、きっちりと上まで締められていた。
「天国?」
「違うよ、ここは現実」
「うわぁ!?」
マンディがその男の顔を覗き込み、それに驚いた男が大袈裟に後ずさる。
「マスターは、この世界から呼ばれて来た。俺はマスターに呼ばれてここにいる」
「は?え?なに、どういうこと?」
男は動揺し、マンディの言葉に俺たちも首を傾げる。
世界によばれた?
なんのことだ。
「なんかよくわかんないっすけど、とりあえず自己紹介するのはどうっすか?」
訪れた沈黙を破るようにフライデイが明るくそういった。
こいつのこういうところ、普通にすげぇな、と思う。
「まあ、そうだな。俺は金曜日の魔術師、ユラ。こっちは俺のドール、フライディ」
「フライディっす!よろしくっす!」
「え、あ、は、…ええと、俺は、調(ととのい)裕一、です…」
黒髪の男、もといユウイチはまた不安そうに眉を下げたまま、おずおずと続ける。
「あの、ここ…日本じゃない…ですよね…?それになんか動物の耳生えてたり、ドールとかマスターとか曜日?魔術師?とか…なにがなんだか…」
ニホン?聞き慣れない地名に俺は眉を寄せる。
マンディが世界に呼ばれたという言い方をしたのが気になる。
……まさかとは思うが、別の世界線からやってきたとかいうやつか?
いや、あれは御伽噺だろ。現実に起きるとは考え難い。
黙り込んでしまった俺をフライデイがたたいた。
「って!何すんだフライデイ」
「マスターの顔がいつも以上に怖くなってるっす!ほら、マンディのマスターも怯えてるっすよ!」
「ああ?」
言われてユウイチの方を見ると、たしかにさっきより眉が下がって目線が泳いでいる。
「っち、面倒くせぇなぁ。フライデイ、さっきのこいつの質問に回答してやれ」
「イエス、マイマスター!」
フライデイは右手をピンとあげてから、ユウイチににっこりと笑いかけた。
「まず、ニホンというのが何なのかはわからないっすけど、ここはドーリアントという国っす!魔術師とは、自らの魔力を使い様々な事象を引き起こすことのできる者の名称。で、僕らはドール。世界に7体存在する、魔術師の忠実な僕であり、道具っす」
「ドールは、人、じゃない?」
「人じゃないっす。ドールはドール。そこの金髪のもドールっす!マスターというのは僕らの持ち主のことを指すので、貴方はそこのマンディの持ち主ってことになるっす!」
テキパキと説明を続けるフライデイ。
「え、でも俺はその、魔術?なんて使ったことないし…」
「それに関しては僕らもよくわからないっす。ただ、マンディは国が保管してて、誰も起こすことのできなかったドールなんっす。だから、マンディが貴方の魔力で起きたというなら、マンディのマスターは貴方で間違い無いと思うっす」
そこまで聞いて、ユウイチの顔は泣きそうに歪む。
「わけが、わからない…」
俺も同じ気持ちだわ、と心の中だけで呟く。
見ている限り、嘘をついているようには見えない。
とりあえず、これは国に連絡する案件だ。
「おい、ユウイチとやら」
「ひっ」
ひってなんだよ、ひって。
声かけただけだろうが。
「とりあえず、こいつらの言う魔術がどんなものなのか見せてやる」
「え?」
俺はユウイチが起きるまでに包帯でぐるぐる巻きにされた腕で、もう一度杖を握る。
うわ、杖もだいぶガタがきてやがる。
メンテナンスださねぇとな、と旧知の魔術師の顔を想像してから、俺は集中を杖に向けた。
まわりの光を集めるように、杖の先端に光の球体が出来上がり、それがやがて小鳥の姿に変化する。伝え鳥という伝達魔法だ。
魔力の塊のこと、マンディのこと、ユウイチのことを簡単に言付けて、俺は伝え鳥を国付きの魔術師のもとへと放った。これで、また上から指示が降りてくるだろう。
ふぁんたじー、とユウイチは呆けたようにそれが飛んで行く方向を見ていた。
目を覚ました男は、キョロキョロと周りを見回す。
黒髪黒目、不安そうに垂れた眉。
軍服に近い詰襟は、きっちりと上まで締められていた。
「天国?」
「違うよ、ここは現実」
「うわぁ!?」
マンディがその男の顔を覗き込み、それに驚いた男が大袈裟に後ずさる。
「マスターは、この世界から呼ばれて来た。俺はマスターに呼ばれてここにいる」
「は?え?なに、どういうこと?」
男は動揺し、マンディの言葉に俺たちも首を傾げる。
世界によばれた?
なんのことだ。
「なんかよくわかんないっすけど、とりあえず自己紹介するのはどうっすか?」
訪れた沈黙を破るようにフライデイが明るくそういった。
こいつのこういうところ、普通にすげぇな、と思う。
「まあ、そうだな。俺は金曜日の魔術師、ユラ。こっちは俺のドール、フライディ」
「フライディっす!よろしくっす!」
「え、あ、は、…ええと、俺は、調(ととのい)裕一、です…」
黒髪の男、もといユウイチはまた不安そうに眉を下げたまま、おずおずと続ける。
「あの、ここ…日本じゃない…ですよね…?それになんか動物の耳生えてたり、ドールとかマスターとか曜日?魔術師?とか…なにがなんだか…」
ニホン?聞き慣れない地名に俺は眉を寄せる。
マンディが世界に呼ばれたという言い方をしたのが気になる。
……まさかとは思うが、別の世界線からやってきたとかいうやつか?
いや、あれは御伽噺だろ。現実に起きるとは考え難い。
黙り込んでしまった俺をフライデイがたたいた。
「って!何すんだフライデイ」
「マスターの顔がいつも以上に怖くなってるっす!ほら、マンディのマスターも怯えてるっすよ!」
「ああ?」
言われてユウイチの方を見ると、たしかにさっきより眉が下がって目線が泳いでいる。
「っち、面倒くせぇなぁ。フライデイ、さっきのこいつの質問に回答してやれ」
「イエス、マイマスター!」
フライデイは右手をピンとあげてから、ユウイチににっこりと笑いかけた。
「まず、ニホンというのが何なのかはわからないっすけど、ここはドーリアントという国っす!魔術師とは、自らの魔力を使い様々な事象を引き起こすことのできる者の名称。で、僕らはドール。世界に7体存在する、魔術師の忠実な僕であり、道具っす」
「ドールは、人、じゃない?」
「人じゃないっす。ドールはドール。そこの金髪のもドールっす!マスターというのは僕らの持ち主のことを指すので、貴方はそこのマンディの持ち主ってことになるっす!」
テキパキと説明を続けるフライデイ。
「え、でも俺はその、魔術?なんて使ったことないし…」
「それに関しては僕らもよくわからないっす。ただ、マンディは国が保管してて、誰も起こすことのできなかったドールなんっす。だから、マンディが貴方の魔力で起きたというなら、マンディのマスターは貴方で間違い無いと思うっす」
そこまで聞いて、ユウイチの顔は泣きそうに歪む。
「わけが、わからない…」
俺も同じ気持ちだわ、と心の中だけで呟く。
見ている限り、嘘をついているようには見えない。
とりあえず、これは国に連絡する案件だ。
「おい、ユウイチとやら」
「ひっ」
ひってなんだよ、ひって。
声かけただけだろうが。
「とりあえず、こいつらの言う魔術がどんなものなのか見せてやる」
「え?」
俺はユウイチが起きるまでに包帯でぐるぐる巻きにされた腕で、もう一度杖を握る。
うわ、杖もだいぶガタがきてやがる。
メンテナンスださねぇとな、と旧知の魔術師の顔を想像してから、俺は集中を杖に向けた。
まわりの光を集めるように、杖の先端に光の球体が出来上がり、それがやがて小鳥の姿に変化する。伝え鳥という伝達魔法だ。
魔力の塊のこと、マンディのこと、ユウイチのことを簡単に言付けて、俺は伝え鳥を国付きの魔術師のもとへと放った。これで、また上から指示が降りてくるだろう。
ふぁんたじー、とユウイチは呆けたようにそれが飛んで行く方向を見ていた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ガテンの処理事情
雄
BL
高校中退で鳶の道に進まざるを得なかった近藤翔は先輩に揉まれながらものしあがり部下を5人抱える親方になった。
ある日までは部下からも信頼される家族から頼られる男だと信じていた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる