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章1
乙女ゲーム的観点より(1)
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「また敵襲とか、誰かにいじめられたーってわけじゃなさそうですね」
なかなかお高めの布使ったスカーフに宝石のちりばめられたサークレット……と、クロの体につけられた装飾品たちをひとつふたつ取り外したルイーザが呟く。
「勝宏くん聖女の竜騎士ってことになってるみたいだし、クロといっしょに盛大な歓待と恩賞でも受けてたんじゃないかしら」
「取り入りたい聖女様の従者が町を守ってくれたとなったらまあ、そうなりますよね」
で、耐えきれなくなってクロが脱走してきたと。
想像に難くない流れである。
この場に彼がいないということは、勝宏はまだ歓迎会(仮)だか式典(仮)だかに英雄としてお呼ばれされているのだろう。
透たちがお茶をしている間にそこまでセッティングできるとも思えないので、真っ最中ではなく領主邸に連れて行かれて歓待を受けているところなのかもしれない。
「うーん……勝宏くんとも合流したいし、変なこと喋ってないか若干不安もあるわね。
透くんなら勝宏くんとこ行ってきても入れてもらえるんじゃない?」
「あ、じゃあ私ダンジョンのほう行きますんで、詩絵里さんと透さんで勝宏さん回収してきてください」
「そう? じゃあお願いしようかしら」
「はーい。
クロとさっきのお家で少し休んで、あとで拠点ダンジョン行って登録済ませてきます」
どうやら透はこのまま領主邸へ行く流れのようだ。
ルイーザはクロと一緒にダンジョンに戻って転移装置を設置してくるらしい。
拠点のほうには詩絵里の幼なじみだという女性と風のフォルカがいる。
道中に何事もなければ、その後は問題ないだろう。
アイテムボックスから転移の魔道具を取り出して、詩絵里がルイーザに手渡す。
ルイーザのアイテムボックスへ魔道具が再収納され、透の足元でぐったりしているクロもルイーザが抱え上げた。
「だいぶお疲れですねー」
「ぎゃう……」
「気疲れにしては深刻そうね。ルイーザ、分かる?」
「眠たいらしいです。
出発前にちょっと寝かせてあげたほうがよさそうですね」
こういう時、動物や魔物の言葉が分かるルイーザが居るというのは頼もしいものだ。
クロもルイーザに抱えられてすぐにうとうとし始めている。
じゃああとよろしくお願いしますね、とルイーザはそのまま、勝宏が出したテーブルと椅子しかない貰い物の一軒家へ向かった。
「私たちも行きましょうか、領主邸に。
女体化可能時間は大丈夫?」
詩絵里の言葉には頷き返しておく。
カルブンクの能力による魔法は先ほどの戦闘も含めもう長時間使っていない。
それでも未だに聖女様モードなところからして、今はセイレンによって調整が入っているのだろう。
詩絵里も連れ立っての移動だと、転移で勝宏のもとへ直接跳ぶわけにもいかない。
領主邸まで徒歩で向かうと、こちらに気付いた衛兵たちがすぐに取り次いでもらえた。
勝宏は領主に夕食を誘われており、時間まで部屋に案内されたらしい。
女体化中話すことのできない透の代わりに、いつものように詩絵里が前に出てサポートしてくれた。
あちらからしてみれば、今の透と詩絵里は聖女とお付きの侍女である。
当然のように勝宏とは別の部屋を用意されたわけだが、すかさず詩絵里が勝宏に用があると言ったことで彼の居る部屋を教えてもらうことができた。
解放されるやいなやさっそく勝宏のもとへ向かおうとした透の腕を掴んで、詩絵里が部屋に引き留めてくる。
「ああ、ちょっと待って透くん、少し話したいことがあるんだけど」
言われるまま、部屋の中央にあるテーブルセットの椅子ひとつに腰掛ける。
詩絵里もまた透の向かいの椅子に座って、テーブルに肘をついた。
「この町は乙女ゲームの舞台で、透くんが救った領主の息子は攻略対象。
そして女体化した透くんの見た目はそのゲームの前作主人公に似ているわけでしょ。
データ引継によっては、2作目の主人公にそのまま就くこともできる女の子……」
珍しく、なんとなく詩絵里の言いたいことが理解できた。
マールヴィットでのできごとを考えると、ここに居る間は別の方面にも気を配っておく必要がある。
「なんの用意もなしに領主邸うろついたら、レオニスとうっかりフラグ立っちゃうかもしれないわ」
そう、ゲーム2作目のシナリオが変化球で始まってしまう可能性があるのだ。
女二人で館内を歩いているところを――透と詩絵里なので厳密には女二人ではないのだが――レオニスと鉢合わせてしまったり、このまま食事の際に流れでレオニスと顔合わせをすることになったり、その場で領主から婚約の話を持ちかけられたり……乙女ゲーム準拠の舞台ならば、全くありえない話ではない。
迂闊に部屋を飛び出していかなくてよかった。
聖女と従者という仮の立場がある以上、常に彼女のフォローが期待できるとは限らない。
詩絵里に事前に対応方法を考えてもらって口裏を合わせて――といっても透は話せないわけだが――、余計な事態を引き起こさないようにするのが賢明だろう。
「ちょうど、都合のいい噂があるみたいじゃない。あれ利用しましょ」
都合の良い噂、と言われて、今度はすぐにぴんとこなかった。
「聖女様と従者の竜騎士は許されない恋をしている、だったかしら?」
そのとき、彼女の言葉がすぐには呑み込めなかった。
なかなかお高めの布使ったスカーフに宝石のちりばめられたサークレット……と、クロの体につけられた装飾品たちをひとつふたつ取り外したルイーザが呟く。
「勝宏くん聖女の竜騎士ってことになってるみたいだし、クロといっしょに盛大な歓待と恩賞でも受けてたんじゃないかしら」
「取り入りたい聖女様の従者が町を守ってくれたとなったらまあ、そうなりますよね」
で、耐えきれなくなってクロが脱走してきたと。
想像に難くない流れである。
この場に彼がいないということは、勝宏はまだ歓迎会(仮)だか式典(仮)だかに英雄としてお呼ばれされているのだろう。
透たちがお茶をしている間にそこまでセッティングできるとも思えないので、真っ最中ではなく領主邸に連れて行かれて歓待を受けているところなのかもしれない。
「うーん……勝宏くんとも合流したいし、変なこと喋ってないか若干不安もあるわね。
透くんなら勝宏くんとこ行ってきても入れてもらえるんじゃない?」
「あ、じゃあ私ダンジョンのほう行きますんで、詩絵里さんと透さんで勝宏さん回収してきてください」
「そう? じゃあお願いしようかしら」
「はーい。
クロとさっきのお家で少し休んで、あとで拠点ダンジョン行って登録済ませてきます」
どうやら透はこのまま領主邸へ行く流れのようだ。
ルイーザはクロと一緒にダンジョンに戻って転移装置を設置してくるらしい。
拠点のほうには詩絵里の幼なじみだという女性と風のフォルカがいる。
道中に何事もなければ、その後は問題ないだろう。
アイテムボックスから転移の魔道具を取り出して、詩絵里がルイーザに手渡す。
ルイーザのアイテムボックスへ魔道具が再収納され、透の足元でぐったりしているクロもルイーザが抱え上げた。
「だいぶお疲れですねー」
「ぎゃう……」
「気疲れにしては深刻そうね。ルイーザ、分かる?」
「眠たいらしいです。
出発前にちょっと寝かせてあげたほうがよさそうですね」
こういう時、動物や魔物の言葉が分かるルイーザが居るというのは頼もしいものだ。
クロもルイーザに抱えられてすぐにうとうとし始めている。
じゃああとよろしくお願いしますね、とルイーザはそのまま、勝宏が出したテーブルと椅子しかない貰い物の一軒家へ向かった。
「私たちも行きましょうか、領主邸に。
女体化可能時間は大丈夫?」
詩絵里の言葉には頷き返しておく。
カルブンクの能力による魔法は先ほどの戦闘も含めもう長時間使っていない。
それでも未だに聖女様モードなところからして、今はセイレンによって調整が入っているのだろう。
詩絵里も連れ立っての移動だと、転移で勝宏のもとへ直接跳ぶわけにもいかない。
領主邸まで徒歩で向かうと、こちらに気付いた衛兵たちがすぐに取り次いでもらえた。
勝宏は領主に夕食を誘われており、時間まで部屋に案内されたらしい。
女体化中話すことのできない透の代わりに、いつものように詩絵里が前に出てサポートしてくれた。
あちらからしてみれば、今の透と詩絵里は聖女とお付きの侍女である。
当然のように勝宏とは別の部屋を用意されたわけだが、すかさず詩絵里が勝宏に用があると言ったことで彼の居る部屋を教えてもらうことができた。
解放されるやいなやさっそく勝宏のもとへ向かおうとした透の腕を掴んで、詩絵里が部屋に引き留めてくる。
「ああ、ちょっと待って透くん、少し話したいことがあるんだけど」
言われるまま、部屋の中央にあるテーブルセットの椅子ひとつに腰掛ける。
詩絵里もまた透の向かいの椅子に座って、テーブルに肘をついた。
「この町は乙女ゲームの舞台で、透くんが救った領主の息子は攻略対象。
そして女体化した透くんの見た目はそのゲームの前作主人公に似ているわけでしょ。
データ引継によっては、2作目の主人公にそのまま就くこともできる女の子……」
珍しく、なんとなく詩絵里の言いたいことが理解できた。
マールヴィットでのできごとを考えると、ここに居る間は別の方面にも気を配っておく必要がある。
「なんの用意もなしに領主邸うろついたら、レオニスとうっかりフラグ立っちゃうかもしれないわ」
そう、ゲーム2作目のシナリオが変化球で始まってしまう可能性があるのだ。
女二人で館内を歩いているところを――透と詩絵里なので厳密には女二人ではないのだが――レオニスと鉢合わせてしまったり、このまま食事の際に流れでレオニスと顔合わせをすることになったり、その場で領主から婚約の話を持ちかけられたり……乙女ゲーム準拠の舞台ならば、全くありえない話ではない。
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詩絵里に事前に対応方法を考えてもらって口裏を合わせて――といっても透は話せないわけだが――、余計な事態を引き起こさないようにするのが賢明だろう。
「ちょうど、都合のいい噂があるみたいじゃない。あれ利用しましょ」
都合の良い噂、と言われて、今度はすぐにぴんとこなかった。
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