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章1
箱庭世界のレヴィアタン(3)
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そうだね、とアルスラッドも詩絵里の推測を肯定する。
「だと、僕は解釈した。
本来の条件がどうなってるかは知らないけど、おそらくひとつの世界に六人の精霊が同時存在している時、その世界には新しい供物の子が生まれる……
とか、そんな感じの出現条件がありそうだ」
「既に供物の子が生まれていて未だ生きている場合は次の子は選ばれないとか、「ひとつの世界」の範囲とか、細かい条件はありそうだけど……ね」
結局、この世界は大きな畜産場、という仮説は当たっていたらしい。
この仮説についてはアルスラッドには話してはいなかったが、あちらにもオフィスがついていたのなら同じ結論に至って当然だ。
「今は透ちゃんが“それ”にあたるんだろう?
本物の精霊たちのために用意される純正の供物と、疑似精霊のために用意される疑似供物が別カウントだとしたら――」
「供物の子が同時に二人、って言われたら、私なら真っ先にオス・メスつがいで揃えて養殖……とか考えちゃうわね。
遺伝するものなのかは知らないけど」
疑似6悪魔を世界に用意して、箱庭を地球と同じ条件にして、アリアルの箱庭の中にも「甘露」の出現を促そうとしている。
アリアルにとってリターンの大きい話だ。これは、アリアル本人が自らその計画を実行しようとしている説が濃厚かもしれない。
現状これについて動いている主要な組織が陽光聖教会――アリアルからの影響力の強い組織なら、神託を装うなり方法はいくらでもあったことだろう。
「連中が持っていた種子は四つ。
うち二つは種子としてじゃなく、組織の関係者がSスキル持ちってだけの話だけどね。
そして他二つはそれぞれ暴食と、嫉妬。
どちらも転生者に移植・融合済みで――そのまま彼らはこのレースから脱落した」
暴食の転生者の遺骸を回収したアルスラッドは、今回アマリアの消滅と同時に飛び出してきた完成形の嫉妬の種も手に入れている。
これでSスキルは残り五つ、転生者の数は7人程度といったところだろうか。
光のSスキルが2つのうち、1.5個分は勝宏が所持していて、残りの0.5を持っている転生者がもう1人いる計算になる。つまり光は2人だ。
水と風は統合のうえ脱落済み。
火のSスキルはリファスだったが脱落済みで、対になる存在の行方は分からないためこちらは少なくとも1人。
地のSスキルは詩絵里と、対になる存在がもうひとり。
消去法で、闇のSスキルはエリアスが持っていることになるが、エリアスがSスキルを完成させているかどうかはわからない。
対になる存在がまだ生きているなら2人だ。
「組織と関わりがあると思われる残り二つの種子の持ち主だけど……
一人目が、ルカナ皇国、神の雫の神子。
二人目は、表の陽光聖教会でスキル付与の儀式を執り行っている神官でほぼ間違いない」
アマリアの話からもしやという思いもないでもなかったが、これで明確に、エリクサーを作っている転生者が敵勢力であることが判明してしまった。
「オフィスの新しい契約者が、何も知らずに陽光聖教会側に取り込まれそうになっていないか気がかりだったんだけど――その様子なら大丈夫そうだね、透ちゃん」
透たちは現状、アリアルと敵対する立場にある。
陽光聖教会と例の組織に関わりがある以上、そちらに与することはまずない。
アルスラッドの言葉に透が頷き返したところで、二つ目のケーキを平らげたルイーザがあのう、と話に加わってきた。
「ウルティナさんはどうなったんでしょうか……」
「うん?」
「アマリアが嫉妬のSスキルを完成させていたじゃない。
ウルティナっていう知り合いの女の子がいたんだけど、私たちは彼女が嫉妬のSスキル持ちだと思っていたわ。
そして、それとは別に嫉妬の種が種の状態で私たちの前に転がってきたことがあるの」
ウルティナとは面識のないアルスラッドに、詩絵里が補足がてらルイーザの疑問について説明を入れた。
「アマリアもSスキル持ちだったとするなら、嫉妬のSスキルのもとになるものが3つあることになってしまうし……
どういうことなのか気になっていたのよね」
「なるほど。そうだね、まず確かなこととしては、本来嫉妬のSスキルを持っていたのは先ほど泡になって消えてしまった彼女だよ」
「そう……じゃあ、ウルティナはそもそもSスキル所持者じゃなかったのね」
あんまり綺麗にピースがはまっていくものだから、ウルティナの件もそういうものなのだろうと思いこんでしまっていた。
考えてみればあのとき、組織連中は防御スキル持ちのウルティナから、スキル不明の透へとあっさり標的を変更していたのだ。
嫉妬の種はやはり、前提条件さえ満たせば種子の発芽対象は誰でもいいのだろう。
「発芽対象は誰でもいい――けれど、実際に嫉妬のSスキルを持っていたのはウルティナじゃなくて、アマリアともう一人、脱落済みの誰かだったということ……」
アマリアが透に対して言っていたことからして、エリクサー生成転生者あたりにSスキルについて誤解するような言い回しで説明を受けていた可能性もあるが、ウルティナについてはアルスラッドの話で間違いないように思う。
「ということは、ウルティナさんは無事なんですね! よかったです」
「まあ、実際に連絡取ったわけじゃないから、全く無関係の別の転生者から襲撃受けてる可能性だってなくはないんだけどね」
言いながら、ルイーザだけでなく詩絵里の方にも表情に安堵の色が見える。
数少ない貴族のコネ……という側面もあるだろうが、知り合って友好関係を築いた相手が知らないうちに誰かに殺されていた、なんて気分が悪いどころの話ではない。
冷めてしまったコーヒーを飲み干して、そろそろ失礼するよとアルスラッドが席を立った。
テーブルの上にはしっかり金貨が置かれている。
「君たちはしばらくこの町を拠点にするつもりかな?」
「そうね。透くんがここの領主に気に入られちゃったみたいだから、体制を整えるついでにしばらくここを使おうと思っているわ」
厳密にはここではなくダンジョンが拠点で、こちらは入り口のひとつとして使用するにすぎないのだが、詩絵里はそこまで明かす気はないらしい。
「じゃあ、また何かあったら情報交換がてらお茶しようか。
……まあ、オフィスがそっちにいる以上、今後は僕が君たちに教わることの方が多いかもしれないけどね」
「色々訊かせてもらったし、もし次があるなら最大限考慮するわ」
「だと、僕は解釈した。
本来の条件がどうなってるかは知らないけど、おそらくひとつの世界に六人の精霊が同時存在している時、その世界には新しい供物の子が生まれる……
とか、そんな感じの出現条件がありそうだ」
「既に供物の子が生まれていて未だ生きている場合は次の子は選ばれないとか、「ひとつの世界」の範囲とか、細かい条件はありそうだけど……ね」
結局、この世界は大きな畜産場、という仮説は当たっていたらしい。
この仮説についてはアルスラッドには話してはいなかったが、あちらにもオフィスがついていたのなら同じ結論に至って当然だ。
「今は透ちゃんが“それ”にあたるんだろう?
本物の精霊たちのために用意される純正の供物と、疑似精霊のために用意される疑似供物が別カウントだとしたら――」
「供物の子が同時に二人、って言われたら、私なら真っ先にオス・メスつがいで揃えて養殖……とか考えちゃうわね。
遺伝するものなのかは知らないけど」
疑似6悪魔を世界に用意して、箱庭を地球と同じ条件にして、アリアルの箱庭の中にも「甘露」の出現を促そうとしている。
アリアルにとってリターンの大きい話だ。これは、アリアル本人が自らその計画を実行しようとしている説が濃厚かもしれない。
現状これについて動いている主要な組織が陽光聖教会――アリアルからの影響力の強い組織なら、神託を装うなり方法はいくらでもあったことだろう。
「連中が持っていた種子は四つ。
うち二つは種子としてじゃなく、組織の関係者がSスキル持ちってだけの話だけどね。
そして他二つはそれぞれ暴食と、嫉妬。
どちらも転生者に移植・融合済みで――そのまま彼らはこのレースから脱落した」
暴食の転生者の遺骸を回収したアルスラッドは、今回アマリアの消滅と同時に飛び出してきた完成形の嫉妬の種も手に入れている。
これでSスキルは残り五つ、転生者の数は7人程度といったところだろうか。
光のSスキルが2つのうち、1.5個分は勝宏が所持していて、残りの0.5を持っている転生者がもう1人いる計算になる。つまり光は2人だ。
水と風は統合のうえ脱落済み。
火のSスキルはリファスだったが脱落済みで、対になる存在の行方は分からないためこちらは少なくとも1人。
地のSスキルは詩絵里と、対になる存在がもうひとり。
消去法で、闇のSスキルはエリアスが持っていることになるが、エリアスがSスキルを完成させているかどうかはわからない。
対になる存在がまだ生きているなら2人だ。
「組織と関わりがあると思われる残り二つの種子の持ち主だけど……
一人目が、ルカナ皇国、神の雫の神子。
二人目は、表の陽光聖教会でスキル付与の儀式を執り行っている神官でほぼ間違いない」
アマリアの話からもしやという思いもないでもなかったが、これで明確に、エリクサーを作っている転生者が敵勢力であることが判明してしまった。
「オフィスの新しい契約者が、何も知らずに陽光聖教会側に取り込まれそうになっていないか気がかりだったんだけど――その様子なら大丈夫そうだね、透ちゃん」
透たちは現状、アリアルと敵対する立場にある。
陽光聖教会と例の組織に関わりがある以上、そちらに与することはまずない。
アルスラッドの言葉に透が頷き返したところで、二つ目のケーキを平らげたルイーザがあのう、と話に加わってきた。
「ウルティナさんはどうなったんでしょうか……」
「うん?」
「アマリアが嫉妬のSスキルを完成させていたじゃない。
ウルティナっていう知り合いの女の子がいたんだけど、私たちは彼女が嫉妬のSスキル持ちだと思っていたわ。
そして、それとは別に嫉妬の種が種の状態で私たちの前に転がってきたことがあるの」
ウルティナとは面識のないアルスラッドに、詩絵里が補足がてらルイーザの疑問について説明を入れた。
「アマリアもSスキル持ちだったとするなら、嫉妬のSスキルのもとになるものが3つあることになってしまうし……
どういうことなのか気になっていたのよね」
「なるほど。そうだね、まず確かなこととしては、本来嫉妬のSスキルを持っていたのは先ほど泡になって消えてしまった彼女だよ」
「そう……じゃあ、ウルティナはそもそもSスキル所持者じゃなかったのね」
あんまり綺麗にピースがはまっていくものだから、ウルティナの件もそういうものなのだろうと思いこんでしまっていた。
考えてみればあのとき、組織連中は防御スキル持ちのウルティナから、スキル不明の透へとあっさり標的を変更していたのだ。
嫉妬の種はやはり、前提条件さえ満たせば種子の発芽対象は誰でもいいのだろう。
「発芽対象は誰でもいい――けれど、実際に嫉妬のSスキルを持っていたのはウルティナじゃなくて、アマリアともう一人、脱落済みの誰かだったということ……」
アマリアが透に対して言っていたことからして、エリクサー生成転生者あたりにSスキルについて誤解するような言い回しで説明を受けていた可能性もあるが、ウルティナについてはアルスラッドの話で間違いないように思う。
「ということは、ウルティナさんは無事なんですね! よかったです」
「まあ、実際に連絡取ったわけじゃないから、全く無関係の別の転生者から襲撃受けてる可能性だってなくはないんだけどね」
言いながら、ルイーザだけでなく詩絵里の方にも表情に安堵の色が見える。
数少ない貴族のコネ……という側面もあるだろうが、知り合って友好関係を築いた相手が知らないうちに誰かに殺されていた、なんて気分が悪いどころの話ではない。
冷めてしまったコーヒーを飲み干して、そろそろ失礼するよとアルスラッドが席を立った。
テーブルの上にはしっかり金貨が置かれている。
「君たちはしばらくこの町を拠点にするつもりかな?」
「そうね。透くんがここの領主に気に入られちゃったみたいだから、体制を整えるついでにしばらくここを使おうと思っているわ」
厳密にはここではなくダンジョンが拠点で、こちらは入り口のひとつとして使用するにすぎないのだが、詩絵里はそこまで明かす気はないらしい。
「じゃあ、また何かあったら情報交換がてらお茶しようか。
……まあ、オフィスがそっちにいる以上、今後は僕が君たちに教わることの方が多いかもしれないけどね」
「色々訊かせてもらったし、もし次があるなら最大限考慮するわ」
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