166 / 193
章1
幕間 【どこかの世界の誰かの話:勇者】 (1)
しおりを挟む
おれの名前は須藤八雲、12歳。
ごく普通の小学生だ。
兄ちゃんと母ちゃんと三人で暮らしている。
今までは兄ちゃんと相部屋だったんだけど、父ちゃんが病気で死んでから、父ちゃんの部屋がおれの部屋になった。
といっても父ちゃんの部屋はぜんぜん片付いてなくて、趣味のカメラやよれよれの文庫本なんかがたくさん残されている。
母ちゃんがとっておきたいと思ったものはもうとっくにこの部屋から持ち出しているらしい。
あとはおれに要るものと要らないものを分けて、兄ちゃんと相談して、残りは処分ってことになっている。
そんなわけで、おれは土曜日の学校のあとから日曜日にかけて部屋の整理中だ。
部屋の片付けに取り掛かってからもう一か月近くになるけれど、なかなか思うように進まない。
なぜなら、父ちゃんの部屋は面白いものであふれていたからだ。
ベッドの下にえっちな本があったので、これは兄ちゃんには見せずにおれが貰っておこうと思う。
遊び盛りの土曜日をつぶして発掘にいそしんでいる俺の戦利品である。
ていうかこれ父ちゃんの部屋にあったって知れたら、母ちゃんがなんていうかわかんないし。
えっちな本は、たまに河原に落ちてたりするけどだいたい大事なとこが破れてるんだよな。
まるっと全部読めるのは素晴らしいことだ。
他にも、父ちゃんが外国で撮ってきた写真とか。
すごい豪華なお城とか、でっかい神殿とか、いったいどの国で撮ってきたものなのかおれには見当もつかない。
土曜日が午前中しかないのは小学生のおれだけで、兄ちゃんは高校生なので学校が終わるのはまだもうちょっと先。
母ちゃんは仕事。
家に居るのはおれ一人だったりする。
つまり、土曜日のおれは自由なのだ。
宿題? 知らないなそんな存在。
今週は本棚ダンジョンを切り崩していこうと思う。
お宝が見つかるといいな、そう思って、新たな本を一冊、本棚から手に取ったところ――。
急に世界が真っ白になった。
太陽を直視して目がくらむのに近い。
とっさに両目を本で覆う。
焼かれた視界がもとに戻る頃合いで、おそるおそる目を開くと。
「……あれ? ここどこ」
そこは、父ちゃんのアルバムの中にあったような、すごい豪華なお城の中だった。
「ああ、おいでくださったのですね、勇者様!」
「ゆ、勇者?」
おれは今から、勇者ヤクモになるらしい。
謎のお城でおれを勇者様と呼んだのは、おっぱいの大きい女の子。
彼女の名前は、レイアというそうだ。
レイアはおれをここに呼び出した張本人で、このお城に住んでいるお姫様。
事情をていねいに説明してくれた。
まず、この国はアルカスフィア国という名前で、この世界は今、魔の種族、闇目ディザイアークに侵攻されている。
闇目たちに有効打となりうるのは、「ガイア」による攻撃のみ。
ガイアってのがいまいちわからなかったけど、どうも特殊な魔法の力みたいな感じっぽい。
それで、もちろんこの世界の人たちも「ガイア」を少なからず持ってるけど、地球の子供たちの方がガイアの潜在能力が高いんだそうだ。
それでレイアは、闇目たちを全部倒して世界を平和にすべく、地球から勇者の適性のある子供を召喚した、って流れ。
「突然このような形で召喚し、こんなお願いをするのは間違っていると思います。ですが私は、この国を……この世界を危機から救いたいのです」
そこまで言って、レイアはつらそうに俯いた。
この世界の人たちが困っているというのは分かった。
そして、おれにはそれを解決する力があるってことだろ。
それなら答えはひとつだ。
「おれでよければ、協力するよ」
あとやっぱ、女の子が悲しそうにしてるのを放っておくわけにもいかないもんな。
おれが続けると、レイアは涙を浮かべながらありがとうございます、と微笑んだ。
おれを召喚した場所でずっと話し続けるのもなんだということで、レイアに別の部屋を案内された。
そこは日本のおれの家よりもずーっと広い個室で、今日からしばらくおれはここで寝泊まりをすることになるらしい。
すごい凝った装飾の椅子に腰かける。
テーブルには、メイドさんがお茶と果物を置いていった。
「ガイアの力は、16歳までの間しか成長しないといわれています。ヤクモ様にはまず、修行によって神器を獲得していただきたいのです」
まあ、稽古をつける時間をくれるのは助かる。
ゲームみたいに剣とお金だけ渡されて放り出されると困るのはおれだ。
剣道も何もやってきたことがないので、レベル1のままではあっという間にやられてしまう。
「ガイアの力を操るための修行は――ウィリアム、いらっしゃい」
話の途中で、レイアが扉の向こうに声をかける。
すると遠慮のない音を立てて、おれの部屋の扉が開かれた。
入ってきたのは、金髪の男。
兄ちゃんと同い年か、それより少し上くらいかもしれない。
見た目が外国人っぽいから、実年齢はよくわからない。
「――彼が担当します。彼自身に宿るガイアの力は微弱なものですが、少量を創意工夫で使いこなすことに長けた人材です」
「へえ。よろしく、えーと……ウィリー!」
おれは席を立って、ウィリアムと呼ばれた男に手を差し出す。
握手のつもりだったのだけれど、ぺいっとはねのけられてしまった。
この国には、そういう文化はないのかもしれない。
「おい、がきんちょ。なんだその呼び方」
「え? ウィリアムだからウィリーじゃん?」
「……まあいい。俺様に教えてもらえること、ありがたく思えよ」
やたら態度のでかいその男は、大きくため息をついた。
どう考えても友好的ではないというのに、その様子がおれには、なんだかちょっといいなと思えた。
ごく普通の小学生だ。
兄ちゃんと母ちゃんと三人で暮らしている。
今までは兄ちゃんと相部屋だったんだけど、父ちゃんが病気で死んでから、父ちゃんの部屋がおれの部屋になった。
といっても父ちゃんの部屋はぜんぜん片付いてなくて、趣味のカメラやよれよれの文庫本なんかがたくさん残されている。
母ちゃんがとっておきたいと思ったものはもうとっくにこの部屋から持ち出しているらしい。
あとはおれに要るものと要らないものを分けて、兄ちゃんと相談して、残りは処分ってことになっている。
そんなわけで、おれは土曜日の学校のあとから日曜日にかけて部屋の整理中だ。
部屋の片付けに取り掛かってからもう一か月近くになるけれど、なかなか思うように進まない。
なぜなら、父ちゃんの部屋は面白いものであふれていたからだ。
ベッドの下にえっちな本があったので、これは兄ちゃんには見せずにおれが貰っておこうと思う。
遊び盛りの土曜日をつぶして発掘にいそしんでいる俺の戦利品である。
ていうかこれ父ちゃんの部屋にあったって知れたら、母ちゃんがなんていうかわかんないし。
えっちな本は、たまに河原に落ちてたりするけどだいたい大事なとこが破れてるんだよな。
まるっと全部読めるのは素晴らしいことだ。
他にも、父ちゃんが外国で撮ってきた写真とか。
すごい豪華なお城とか、でっかい神殿とか、いったいどの国で撮ってきたものなのかおれには見当もつかない。
土曜日が午前中しかないのは小学生のおれだけで、兄ちゃんは高校生なので学校が終わるのはまだもうちょっと先。
母ちゃんは仕事。
家に居るのはおれ一人だったりする。
つまり、土曜日のおれは自由なのだ。
宿題? 知らないなそんな存在。
今週は本棚ダンジョンを切り崩していこうと思う。
お宝が見つかるといいな、そう思って、新たな本を一冊、本棚から手に取ったところ――。
急に世界が真っ白になった。
太陽を直視して目がくらむのに近い。
とっさに両目を本で覆う。
焼かれた視界がもとに戻る頃合いで、おそるおそる目を開くと。
「……あれ? ここどこ」
そこは、父ちゃんのアルバムの中にあったような、すごい豪華なお城の中だった。
「ああ、おいでくださったのですね、勇者様!」
「ゆ、勇者?」
おれは今から、勇者ヤクモになるらしい。
謎のお城でおれを勇者様と呼んだのは、おっぱいの大きい女の子。
彼女の名前は、レイアというそうだ。
レイアはおれをここに呼び出した張本人で、このお城に住んでいるお姫様。
事情をていねいに説明してくれた。
まず、この国はアルカスフィア国という名前で、この世界は今、魔の種族、闇目ディザイアークに侵攻されている。
闇目たちに有効打となりうるのは、「ガイア」による攻撃のみ。
ガイアってのがいまいちわからなかったけど、どうも特殊な魔法の力みたいな感じっぽい。
それで、もちろんこの世界の人たちも「ガイア」を少なからず持ってるけど、地球の子供たちの方がガイアの潜在能力が高いんだそうだ。
それでレイアは、闇目たちを全部倒して世界を平和にすべく、地球から勇者の適性のある子供を召喚した、って流れ。
「突然このような形で召喚し、こんなお願いをするのは間違っていると思います。ですが私は、この国を……この世界を危機から救いたいのです」
そこまで言って、レイアはつらそうに俯いた。
この世界の人たちが困っているというのは分かった。
そして、おれにはそれを解決する力があるってことだろ。
それなら答えはひとつだ。
「おれでよければ、協力するよ」
あとやっぱ、女の子が悲しそうにしてるのを放っておくわけにもいかないもんな。
おれが続けると、レイアは涙を浮かべながらありがとうございます、と微笑んだ。
おれを召喚した場所でずっと話し続けるのもなんだということで、レイアに別の部屋を案内された。
そこは日本のおれの家よりもずーっと広い個室で、今日からしばらくおれはここで寝泊まりをすることになるらしい。
すごい凝った装飾の椅子に腰かける。
テーブルには、メイドさんがお茶と果物を置いていった。
「ガイアの力は、16歳までの間しか成長しないといわれています。ヤクモ様にはまず、修行によって神器を獲得していただきたいのです」
まあ、稽古をつける時間をくれるのは助かる。
ゲームみたいに剣とお金だけ渡されて放り出されると困るのはおれだ。
剣道も何もやってきたことがないので、レベル1のままではあっという間にやられてしまう。
「ガイアの力を操るための修行は――ウィリアム、いらっしゃい」
話の途中で、レイアが扉の向こうに声をかける。
すると遠慮のない音を立てて、おれの部屋の扉が開かれた。
入ってきたのは、金髪の男。
兄ちゃんと同い年か、それより少し上くらいかもしれない。
見た目が外国人っぽいから、実年齢はよくわからない。
「――彼が担当します。彼自身に宿るガイアの力は微弱なものですが、少量を創意工夫で使いこなすことに長けた人材です」
「へえ。よろしく、えーと……ウィリー!」
おれは席を立って、ウィリアムと呼ばれた男に手を差し出す。
握手のつもりだったのだけれど、ぺいっとはねのけられてしまった。
この国には、そういう文化はないのかもしれない。
「おい、がきんちょ。なんだその呼び方」
「え? ウィリアムだからウィリーじゃん?」
「……まあいい。俺様に教えてもらえること、ありがたく思えよ」
やたら態度のでかいその男は、大きくため息をついた。
どう考えても友好的ではないというのに、その様子がおれには、なんだかちょっといいなと思えた。
0
お気に入りに追加
167
あなたにおすすめの小説
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
転生令息の、のんびりまったりな日々
かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。
※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。
痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。
※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.
短編エロ
黒弧 追兎
BL
ハードでもうらめぇ、ってなってる受けが大好きです。基本愛ゆえの鬼畜です。痛いのはしません。
前立腺責め、乳首責め、玩具責め、放置、耐久、触手、スライム、研究 治験、溺愛、機械姦、などなど気分に合わせて色々書いてます。リバは無いです。
挿入ありは.が付きます
よろしければどうぞ。
リクエスト募集中!
EDEN ―孕ませ―
豆たん
BL
目覚めた所は、地獄(エデン)だった―――。
平凡な大学生だった主人公が、拉致監禁され、不特定多数の男にひたすら孕ませられるお話です。
【ご注意】
※この物語の世界には、「男子」と呼ばれる妊娠可能な少数の男性が存在しますが、オメガバースのような発情期・フェロモンなどはありません。女性の妊娠・出産とは全く異なるサイクル・仕組みになっており、作者の都合のいいように作られた独自の世界観による、倫理観ゼロのフィクションです。その点ご了承の上お読み下さい。
※近親・出産シーンあり。女性蔑視のような発言が出る箇所があります。気になる方はお読みにならないことをお勧め致します。
※前半はほとんどがエロシーンです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
勇者の股間触ったらエライことになった
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。
町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。
オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。
【BL】攻めの将来の為に身を引こうとしたら更に執着されてハメられました
めめもっち
BL
名前無し。執着ハイスペ×地味な苦学生。身分格差。友達から始めた二人だったが、あまりにも仲良くしすぎて一線を越えてしまっていた。なすがまま流された受けはこのままでいいのだろうかと悩んでいた中、攻めの結婚を聞かされ、決断をする。
2023年9月16日付
BLランキング最高11位&女性向け小説96位 感謝!
お気に入り、エール再生ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる