上 下
147 / 193
章1

この世界で生きているひと(4)

しおりを挟む
 食事を終えて、再び詩絵里たちのもとに転移する。
 エリクサーの受け渡しと食器の片づけだ。

 女性部屋の扉をノックすると、部屋の中に迎え入れられた。

「おかえりなさい。ごはんはたべた?」

「はい。今、勝宏のところで」

 別れ際にカノンから渡された詩絵里あての手紙のようなものと、受け取ったエリクサー数本が入ったエコバッグ。

 女性部屋のテーブルの上にそれらを置くと、詩絵里が「でかした」と飛びついた。

「あとは世界樹の種とギベオンね。この手紙にどっちかの情報は書かれてあるはずだけど――」

 エコバッグの中から手紙を取り出して、詩絵里が内容に目を通す。

「……なるほどね」

「何か書いてありました?」

 詩絵里よりも少しばかり身長の低いルイーザが、背伸びをして手紙を覗き込もうとする。

「まず、ギベオン。これは西方山脈で稀に市場に出るらしいわ。この国の神刀・紅雪の手入れの際に、打ち粉の材料として使っていて、入手ルートまで書いてくれてる」

「えー! 商人が絶対明かしちゃいけない最重要機密事項じゃないですかそれ! よく教える気になりましたね」

「それだけの利益を期待できるってことなんでしょうね、日本製品」

「まあ確かにそうですけど……日本製品、最近流通しなくなっちゃいましたし……」

 それはおそらく、哲司さん――ショップスキルを先天的に得た転生者がいなくなってしまったからだろう。

 後天的なポイント取得はできるようだが、カノンの話ではずいぶん高額だと聞いている。

 自分の命を預けなければならないスキル選択。
 身の安全を完全に確保できているとはいいがたい中、娯楽を優先させる者はいないはずだ。

 その”身の安全”の方も、未登録ダンジョンを拠点にすることができれば解決するのだが。

「世界樹の種の方は……確実に入手できるとは限らないけど、提案みたいなものね。植物の種を作り出して育てるスキルがあるらしいわ。その転生者の居場所……っていうかそのまま住所が書かれてある」

 住所を簡単に教えることができるということは、カノンの知り合いか何かだろうか。
 それともこのあたりでは有名な薬草売りだったりするのか。

「近いのは世界樹の種の方だけど、ギベオンが市場に出ていないか確認したいわね」

「あ、じゃあ俺行ってきます」

 いつ市場に出るか分からず、稀少性の高い鉱物。
 定期的に出品をチェックするなら、透が転移で見てきた方が早いだろう。

「そうね、お願いしようかしら。世界樹の種の方に向かいつつ、透くんにちょくちょく西方を様子見してきてもらうってことで」

「じゃあ拠点ダンジョンまでひとっ飛びして、勝宏さんを回収して出発ですね!」

 早速、ルイーザがうたた寝をしているクロを起こしにかかった。

「回収っていうか、私たちだけで行くのがいいんじゃないかしら。コア登録までは見張りは置いておきたいし」

「勝宏さんスルーしていきます?」

「いったんこの内容を直接話した方がいいかもね。とりあえずダンジョンには向かう、引き続き勝宏くんにはそこに待機してもらって、私たちだけ出発、っていうのはどう?」

 今回の透の仕事はギベオンの定期チェックと連絡係。
 世界樹の種に関しては、行動方針は詩絵里たちにお任せだ。

 詩絵里とルイーザの会話を横で聞きながら、再びうとうとしはじめたクロの頭を撫でる。

 向こうに三人が揃ったら、あの話をしよう。



 エリクサー調達のあいだに勝宏が作り上げた小屋を見て、詩絵里がすごいわねと唸った。

「拠点の中に客を入れるのって、一般人ならともかく転生者だと大変だろ? ダンジョンで準備して、ここで出したらいいんじゃないかと思ってさ」

「ああ、まあ、そんなことだろうと思ったわ」

 小屋の中のベッドをいったん片付けて、追加で作っていたらしい長机と椅子を勝宏が並べていく。

 あっという間にカウンター席のある飲食店の完成だ。

「勝宏くんにこんな才能があったとは……」

「まあスキルがないと木材切り出せなかったけどな」

 そういえば、彼が木工作業をしていると知っていて、のこぎりひとつ用意してやっていなかった。
 どうやって作ったのかと思ったが、なるほどそういうことか。

「ほうほう、ところで勝宏さん、手が空いたらもう少し装飾部分を凝った感じの家具作ってみませんかー?」

「売る気ね……」

「もちろんです」

 椅子やカウンターの出来を触って確認していたルイーザが、突然商談を始めようとする。
 小屋を自作できる時点ですごいが、家具もDIYの範疇を超えた完成度だ。

 当事者のわりに話から外れている勝宏に、声をかけてみる。

「あの、ね」

「ん?」

「話したい、ことがあって」

 食事中に話してしまってもよかったが、できれば詩絵里たちにも聞いてほしかった。

 全員が揃ったいま打ち明けるのがベストだろう。

「おー、なになに」

「少し長くなるかも」

「……ひょっとして、まえ透が転生者じゃなかったって話した時みたいなやつ?」

「そんな感じ」

 打ち明け話という意味では、勝宏の推測は当たっている。
 少し考えて、彼が頷く。

「そっか」

 勝宏が、こちらに手を伸ばした。
 そっと抱き寄せられて、透の頭は彼の肩に乗る。

「漫画とかでさ、いままで隠してたんだけど……、って言ってすげー力発揮するやつあるじゃん」

「え?」

「それ、漫画読んでるとめちゃくちゃアツい展開だけどさ、実際やられると心臓に悪いと思うんだよな」

 なんの話だろう。
 首をかしげる透に補足なしで、勝宏の話が続く。

「だって、味方に隠してたってことは、味方経由でもし敵にバレたら困る力。もしくは、味方にバレると絶対使うなって止められるようなヤバい力……ってことになるじゃん」

 ああ、そうか。
 これはきっとカルブンクの時のように、ウィルやセイレン、オフィスの「対価」についても話せということだ。

 これに関しては透本人の問題。
 話すつもりはなかったが、確かに事情を話さず戦闘途中で倒れたりしたら迷惑をかける。
 概要くらいは説明しておくべきなのかもしれない。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

処理中です...