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章1

好きな人の好きな人の話を聞いている気分の好きな人とかいうゲシュタルト崩壊(4)

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 ダンジョンの所在地を確認してメモにおさめつつ、取っていた宿へ戻る。

 てっきり詩絵里たちはまだ外出しているものと思っていたが、転移した部屋には既に勝宏やクロ――だけでなく、詩絵里とルイーザまで集合していた。

 用を済ませて透を待つだけなら、女性メンバーは自室に戻っているはずである。

 何か話があって男部屋に集まっているのだろうが――。

「透くん! ちょうどよかったわ!」

 このタイミングで戻ってきた透に、詩絵里が真っ先に飛びついた。

「あ、あの、何かあったんですか……?」

 目的のダンジョンを見つけたことを報告する前に、事情を訊ねてしまう。

 これは、こちらの話は後回しだ。

「転生者の少女が作っている薬は、教会以外でも販売されてたわ」

「そうですか。エリクサーの方は……?」

「そっちなのよ。エリクサーは流通を管理している一貴族が保管してるみたいでね、一般販売はしてないっていうの。お願いしようにも、面会さえ通らないのよ」

「そこで! 透さんに何か日本からよさげなもの持ってきてもらって、袖の下代わりに使えないかなーって思ったんです!」

 詩絵里の話に割り込んで、ルイーザが透を待っていた理由だけを述べた。

 良く言えば差し入れ、手土産。悪く言えば袖の下。

 そういうことなら協力するつもりだが、どういうものを見繕ってくればいいんだろう。

「えっと……食べ物ですか? 日用品とか? それともアクセサリー類でしょうか」

「とりあえず、これを換金してちょうだい。
文明レベルが違いすぎて正直何持ってきても品質が下ってことはないし……一通り買ってきてもらえるかしら。今回使わなくても、今後もお貴族様に交渉を持ち掛けるとなったら活躍するかもしれないわ」

 言いながら、詩絵里がアイテムボックスから金の王冠を取り出してきた。

 どこから調達してきたのか知らないが、単純に金として買い取ってもらってもそれなりの額にはなるだろう。

「酒類と、お菓子類と、調味料系と……あとは、そうね。自転車なんてどうかしら」

 希望の品をひとつずつメモに取りながら、四つ目に自転車、と書いて手が止まった。自転車?

「ほら、この世界未だに移動手段が徒歩か馬じゃない? 車持ってくるのはさすがに無理でしょうし、燃料の調達も難しいわ。自転車くらいならその場で乗って説明できると思うのよね」

 わかりました。お手頃な自転車を探してきます。

「アクセサリー系は、高いものじゃなくていいわ。1500円とかで売られてるような、若い子向けのものをいくつか」

 必要なもののメモを終えて、詩絵里から王冠を受け取った。

「私はその間、ルイーザとこの子たちと一緒に件の貴族の興味を引きそうな分野をリサーチしてくるつもりよ。先に戻ったら勝宏くんと一緒に待機しててね」

 この子たち、と言って掲げられたのは、ガチャスキルの転生者が使っていたスマートフォンだ。

 前回のイベント作成スキル転生者との戦いでも使おうとしていたらしいが、スマホ召喚で呼び出した少女ユニットたちは現地人相手にはオーバーキル、転生者相手には力不足……という微妙なレベル帯だったこともあり、お蔵入りになったと聞いている。

 町を探索する際の護衛ならばちょうどいいだろう。

 回復手段を得て、目的のダンジョンを発見し、さらにいつも通りおつかいもこなしている。

 最近の自分はいつになくパーティーの役に立っている気がする。

 自分がパーティーの”いらない子”でしかないというのは自覚していたつもりだったが、自覚していた以上にメンタル面の重石になっていたらしい。

 いってきます、と再度転移しながら、ちょっとだけ気分が上向きになった。



 言われていたものを買い揃え――自転車はさすがにほかの荷物と一緒に抱えることはできなかったので、何度かに分けて持ち込んだ――宿に戻る。

 その間に詩絵里は今回の賄賂、もとい手土産を何にするかリサーチを済ませてくれていたらしく、持ち込んだ中から真っ先に酒類、自転車、アクセサリーを選んでアイテムボックスに収納した。

「件の貴族は、娘を溺愛するお父さんだって噂よ。だからお酒は本人に。
アクセサリーは、その愛する娘さんに。自転車は、お酒がウケなかった場合の保険ね。まず見た目でインパクトあるし」

 なるほど。詩絵里の話に相槌をうっていると、残りのお菓子類と調味料はルイーザが回収した。

「私が持っておきますね。勝宏さんにぜんぶ預けたらしばらくアイテムボックス出せなくて困っちゃいましたし、半分ずつ持っておけば安心です」

 確かに、苦戦している状況でポーションが出せないのはなかなか難易度の高い縛りプレイだ。

 今回は戦闘で使う品ではないが、交渉事を担ってもらっている女性メンバー二人にとっては、土産の品は武器に等しいものだろう。

「あ、あの」

「なに?」

「だ……ダンジョン、見つかりました」

 この状況で別の報告をするのはちょっと場違いだったかな。

 ひょんなことで持ち前のコミュ障が思い出したかのように顔を出してきて冷や汗をかいた。

「あら、本当! それはよかったわ。どのあたり?」

「この国……ルカナの、端っこでした。森の中で、ミランダっていう小さな村の近くです」

 透がメモ帳をめくりながら答えると、詩絵里はその場でステータス画面からマップを確認し始める。

「この距離、バイクだったら一時間くらいね。……透くん、勝宏くんをダンジョンまで案内しておいてくれる?」

「え?」

 言われた内容は理解できたが、その意図が分からずつい訊き返してしまう。

 彼女も、指示内容ではなく理由の補足をしてくれた。

「せっかく見つけたダンジョンを、ダンジョン系スキル持ちの転生者にとられたら大変だもの。勝宏くんに見張っててもらいましょう」

 ダンジョンとこっちとの連絡係は透くんに頼むわ、とキャスティングについても指示された。

「クロは私たちの方に居てもらう方向で。どちらかに何かがあった時に、それぞれ移動手段を用意しておくのは重要よ」

 この街で一番必要なのは交渉力であって戦闘力ではない。

 一方、ダンジョンの警戒には戦力が必要だ。

 自分一人のスキルで長距離を移動できる勝宏がそちらに向かうのは理にかなっている。

「は、はい」

「オッケー。じゃあ透は俺とバイクだな!」

 短い間とはいえ、久しぶりの二人旅だ。ウィルも一緒だけど。
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