上 下
136 / 193
章1

好きな人の好きな人の話を聞いている気分の好きな人とかいうゲシュタルト崩壊(1)

しおりを挟む
 グレンが連れてきた医者によって、シェリアの蘇生が正式に確認された。

 母の死に錯乱して診療所を飛び出していっていたらしいシャルマンは呼び戻され、半信半疑でシェリアと再会したようだ。

 とりあえず、これでシャルマンのヤンデレ化は事前に防ぐことが可能なはず。

 賢者の石に関しては、攻略もなにもなくなってしまった以上、出現することはないだろう――と思っていたが、シェリアを復活させた聖女として紹介された透はシャルマンに懐かれる結果となった。

 シャルマンとシェリアに連れられて彼らの自宅へ向かっている途中、フランクと出会い、なんと彼から直接賢者の石を譲ってもらえたのである。

 シャルマンの早期攻略とスタンピードの事前解決。
 協力の礼だと言って無造作に手渡されたのだ。

 なんでも、透が診療所でシェリアの蘇生をしていたあたりのタイミングでフランクの元へクリア報酬の賢者の石が出現したのだという。

 ガチャの存在しないこの世界でガチャ石を持っていても意味がないのでアクセサリーにでも使ってくれ、と虹色の鉱石が透の手元に転がってきた。

 考えてみれば、透はこの世界の住民ではない。

 透がゲームをクリアしたところで、透にクリア報酬が降ってくるわけではないだろう。

 フランクが賢者の石に興味を持っていなくてよかったと思う。



 しかし、これで賢者の石を入手することはできた。

 拠点ダンジョンはまだ見つけられていないが、ダンジョンの入り口代わりに設置する転移アイテムの必要素材はあと世界樹の種、エリクサー、ギベオンの三つとなる。

 ここでエリクサーに関して、シャルマンとグレンから有力な情報を聞き出すことができた。

 大陸東部に、神の御業で薬品類をあっという間に作り出してしまう少女がいる。

 その薬品類というのは、薬であれば制限なく作成することができるらしい。

 塗り薬や飲み薬はもちろん、顆粒タイプでも錠剤でも、下級ポーションでも伝説の秘薬でも……「実在するもの」であればなんでも生み出せるのだそうだ。

 エリクサーは本来、この世界のエルフと呼ばれる種族が森の奥深くで長い年月をかけてひっそりと作成するもの。

 それを一瞬で作り出せるというのだから、その少女は十中八九転生者だろう。

 彼女はそれらを教会経由で売っているようなので、本人に接触する必要はない。

 販売されている町まで赴けばいいのだ。

 まあ、販売されている町、がまずその少女の行動範囲である可能性は高いが……あちこちに転生者のいるこの世界でそれを気にするのも今更である。

 宿に戻って出立準備を整える。

 勝宏の目が覚めたら、早速次の町だ。

 女性メンバーがいったん部屋に戻り、透は勝宏の眠るベッドサイドで木椅子に座る。

 なにをするでもなく、呼吸のたびに上下する彼の胸板をじっと見つめているだけ。

 この世界が、皆が、勝宏が、全部にせもので作りものだなんて、こういうところを見ているといまだに信じられない気持ちになる。

 ふと、寝息を立てていた勝宏の呼吸が潜められた。

 次の瞬間、彼ががばっと身を起こして、隣に座っていた透を見つける。

「透! ……ごめん!」

 一瞬の早業であった。

 動体視力のきたえられていない透には垂直に跳ねたとしか思えない速さで、勝宏はそのままベッドの上で土下座した。

「ま、勝宏……えっと、目が覚めてよかっ」

「それより透、俺……! 透に、無理やり……その」

 何か話したいことがあるらしい。

 言葉を引っ込めて勝宏に譲ると、彼が土下座したままもごもごと話し始めた。

「お、俺……寝ながら、姫、あ、あいつを……昔好きだったやつをめちゃくちゃにする夢、すごい久しぶりに見て……」

 変な夢を見て飛び起きた、みたいな話だろうか。

「あ、あれ、あれは、夢じゃ、なくて……同じことを、透に」

 ……うん?

 ちょっと待て、何か重要な部分を聞き流してしまった気がする。

 彼が見たのは昔好きだった人の夢。
 その人相手に夢の中でやろうとしたことを、寝ぼけて透にやってしまった、と思い込んでいる?

「ごめん……、意識は、あったんだ。体動かなくて、気付いたら俺が出したものでぐちゃぐちゃになってる透の髪を掴んでて」

 そこまで言われてやっと、彼の言わんとすることの全貌がつかめた。

 勝宏は、”そういう”夢を見たらしい。

 そして先ほど、アリアルに体を支配されていたタイミングで不幸にも一度意識を取り戻し――。

「まるで無理やり、くわえさせたみたいな」

 透を強姦したと思い込んだ、と。

 厳密には強要したのはアリアルであって、勝宏の意思ではないし、なにより頭がぼうっとしていた透が抵抗せずに言われるままああいう行為に至ってしまったのも悪かった。

 勝宏が気に病むことではない。

「ごめん! 絶対手出さないって言ったのに……」

 けども、気にしてしまうのが勝宏か。

 わずかな逡巡ののち、透は彼のベッドに移動して腰かけた。

「勝宏、あの……俺、何もされてないよ」

「え?」

 さて、詩絵里の援護射撃なしでどこまで誤魔化せるか。

 彼女を呼んできて事情を説明して誤魔化してもらうのは、あまりにも現実的でない。

 ここは透が頑張らなければならないところである。

「変な夢見ちゃったんだよね? 俺はずっと詩絵里さんたちと一緒にいたから、勝宏が言ってるのはたぶん、夢だよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

ネコ科男子は彼に孕まされたい!

白亜依炉
BL
「好きになっちゃったんだよ…っ、お前が!! だから本気で欲しかった! お前の精子が!」 獣人と人間が入り交じり生きる世界。 発情期をやり過ごす為にセフレになってくれた友人。 そんな彼を好きになってしまった猫の血を引く高校生は……―― 猫の日なので猫っぽい子のBLが書きたかったんですが、なぜかこんなことになっておりました。 今回、微量にだけ『♡喘ぎ』と『濁点喘ぎ』、『淫語』が含まれます。 苦手な方はご注意ください。お好きな方は物足りないだろう量で本当にすみません。 でも楽しかったです。また書きたいな。 ――【注意書き】―― ※この作品は以下の要素が含まれます※ 〇全体を通して〇 男性妊娠・セフレ・中出し 〇話によっては(※微量)〇 ♡喘ぎ・濁点喘ぎ・淫語 2023/03/01 追記: いつも閲覧、お気に入り登録をありがとうございます! 想定した以上の多くの方に気に入っていただけたようで、大変ありがたく拝み倒す日々です。 ありがとうございます!! つきましては、おまけのような立ち位置で続きもまた投稿したいなと考えております。 投稿先はこの作品に続けて載せますので、気になる方は気長にお待ちください~!!

転生先がハードモードで笑ってます。

夏里黒絵
BL
周りに劣等感を抱く春乃は事故に会いテンプレな転生を果たす。 目を開けると転生と言えばいかにも!な、剣と魔法の世界に飛ばされていた。とりあえず容姿を確認しようと鏡を見て絶句、丸々と肉ずいたその幼体。白豚と言われても否定できないほど醜い姿だった。それに横腹を始めとした全身が痛い、痣だらけなのだ。その痣を見て幼体の7年間の記憶が蘇ってきた。どうやら公爵家の横暴訳アリ白豚令息に転生したようだ。 人間として底辺なリンシャに強い精神的ショックを受け、春乃改めリンシャ アルマディカは引きこもりになってしまう。 しかしとあるきっかけで前世の思い出せていなかった記憶を思い出し、ここはBLゲームの世界で自分は主人公を虐める言わば悪役令息だと思い出し、ストーリーを終わらせれば望み薄だが元の世界に戻れる可能性を感じ動き出す。しかし動くのが遅かったようで… 色々と無自覚な主人公が、最悪な悪役令息として(いるつもりで)ストーリーのエンディングを目指すも、気づくのが遅く、手遅れだったので思うようにストーリーが進まないお話。 R15は保険です。不定期更新。小説なんて書くの初めてな作者の行き当たりばったりなご都合主義ストーリーになりそうです。

処理中です...